似た境遇



「はー、おいしかったー!お腹いっぱい!」

「ああ、悪くなかったな」

「お!お気に召して頂けましたか、ボス!」

「…ボスって言うな」

「あははっ!」





ゴロツキ達を倒したあの後、あたしのお気に入りのお店でクラウドと一緒にご飯を食べてきた。

どうやらクラウドも気に入ってくれたらしい。
良かった良かった〜!

お腹もいっぱいだし、あたしは色んな意味でご満悦だった。

今日はなんでも屋の仕事もかなり頑張ったし、もうこれと言って特にするような用事も無い。

だからここらでそろそろアパートに帰ろうかと、そんな流れで天望荘に帰ってきた。





「はー、到着。いやほんと、朝からご苦労様だったね」

「…そうだな」





のんび〜りとした足取りで、自分の部屋に向かっていく。
ほら、なんかこうだる〜んとした時も1階っていいでしょう?





「じゃあクラウド、またね」

「ああ」





102号室。あたしは自分の部屋の扉に手を掛け、一度振り向いてクラウドに手を振った。
そしてクラウドが頷いてくれたのを見て、ドアノブを捻る。





「ナマエ」

「ん?」





でも、扉を開こうとしたとの時、名前を呼ばれた。
あたしはもう一度クラウドに振り返る。

目が合うと、クラウドは「あー…」と視線を泳がせていた。





「どーかした?」

「…その、」

「うん?」

「えっと…怪我とか、してないよな」

「え?うん、さっきクラウド、ケアルしてくれたじゃん。後はぜーんぜん!あの男たちも隙だらけだったし、そこまで厄介な戦闘は無かったしね!」

「…そうだな」





あたしはパッと両腕を広げて大丈夫アピールをした。
うん、でも本当に今日は何ともなかったし。

でも、わざわざそんなこと?

やっぱクラウド優しいじゃん〜なんて、ちょっと笑った。






「うん…まあ、なら、いいんだ」

「うん」

「…じゃあ、な」

「うん、ばいばい」





クラウドは2階へ上る階段に向かっていく。
あたしはその背を見送りながら手を振り、そして部屋に入り、パタンと扉を閉めた。





「はー…でも本当、今日は色々やったなー…」





部屋に入ってすぐ、ううんと体を伸ばした。

まだお日様は空にいるような時間だ。
だけど朝セブンスヘブンに行ってそれから、本当色々やった気がする。

家に入ってちょっと気が緩んだかな。
思わずふわっと欠伸が出た。いや別に寝ないけど。





「そうだ…漫画、片そう」





昨日の夜まで読みふけていた漫画。
読み終えてそのまま寝ちゃったから、平積みにしてそのままだ。

朝はお店に呼ばれてたし、帰ってきたら片そうって思ってたんだよね。





「よいしょ、と…」





抱え込んで、本棚に持っていく。
そして空きスペースに1巻から順に並べていった。

するとその時、コンコンと部屋がノックされる音がした。





「ナマエ、いるー?」





聞こえたのは女の人の声だった。
というか、良く知ってる声。





「ジェシー?」





あたしはドアを開けた。
するとそこにはやっぱりジェシーがいた。





「ナマエ〜!」

「わわっ」





扉を開けるとほぼ同時に満面の笑顔を見せてくれたジェシー。
そしてそのままガバッと抱き着かれた。

ちょっとビックリ。
でも結構よくある事。





「あはは、どしたの?ジェシー?」





だからあたしも笑う。

ジェシーが此処にいるってことは、もう決起会の方も終わったのかな。

体を離したジェシー。
そうして見えた彼女は真剣な顔をしていた。





「ゴメン、ちょっとだけお邪魔していい?」

「え?」





真剣な顔で、お邪魔していいかと。
何かあまり聞かれたくない感じの話でもあるのかな。

まあ別に断る理由は無いけど。





「うん、まあ、どうぞ?今片付けしてたからちょっと散らかってるけど、まあジェシーならいいや」

「ジェシーなら?あー、なんか、ひっどーい」

「えー?気兼ねしないってことじゃん」

「じゃあ喜ぶとこ?」

「そうそう!」





軽いやり取り。
でもジェシーとするこんなやり取りはゆるくて好き。

互いにくすっと笑って、あたしはジェシーを部屋に招き入れた。





「ねえ、ナマエ。クラウドのなんでも屋、手伝うことにしたんでしょ?」

「あ、うん。ビッグスたちから聞いた?」

「聞いたよー。まったくー!うまいことやってくれるじゃない、あんたー!」

「う、うまいこと?」





うりうり〜と小突かれた。

うまいことって…な、なんだ。

あ、でも…そういえばさっき、ジェシーはわりとクラウドのこと気に掛けてたよね。
なんだろう。ジェシーは結構クラウドのこと気に入ってるように見えたって言うか。

あたしがそんなことを思い出していると、ジェシーは「はーあ…」と息をついた。





「え、なんで溜息?どしたの」

「まあ、色々あんのよ…」

「色々?」

「…ね、ナマエ。私、今夜プレートの七番街に行くの」

「プレート…え、今夜!?上!?なんで…!?」





今夜プレートの上に行く。
そう言ったジェシーにあたしは思わず声を上げた。

え、だって明日はジェシーたち、また大事な作戦に出るはずなのに。
それなのに、なんでまたわざわざ今夜…。

驚くあたしにジェシーは笑ってた。





「ふふふ!おっきい反応!でもナマエはそんな反応すると思ったわ〜」

「いやいや、驚くでしょ普通…。だって明日は作戦でしょ?」

「うん。だけど、どうしても今夜のうちに解決しておきたい個人的な問題があるから」

「個人的…?」

「うん。そ。今夜のうちにやらなきゃ大変なことになるから。で、今クラウドとは話をつけてきたんだ。手伝って貰おうと思って」

「え、クラウド?」





その名前を聞いてあたしはなんとなく天井を見上げた。
いや、見上げたところでクラウド見えないけど。

でも、ということはクラウドと先に話してそのままあたしの部屋に寄ったって事なんだろう。





「ええと、あたしにも手伝って欲しい…とか、そういう話?」

「あ、ううん。それはいいの。でも七番街に行くから。ナマエにはちょっと言おうかな〜って」

「ああ…」





プレートの上の七番街。
その街は少しだけ、あたしにとって特別だ。

そして、ジェシーにとっても。

するとジェシーはまた「はあっ…」と大きな息をついた。





「うーん…でもナマエのとこ来た一番の理由は…うん、ちょっと色々、自分でも吐き出したくてさ」

「え?」

「…ナマエ、ごめん。ちょっと愚痴、言っても良い?」

「え?うん、別にいいけど」





愚痴を聞く、なんて全然よくあること。

だからあたしは頷く。
するとジェシーは「ありがと」と小さく笑った。





「…ニュースで結構やってたから知ってると思うけど、壱番魔晄炉の爆発、被害、結構凄かったでしょ?」

「え?あ、うん、まあ…」

「…魔晄が誘爆した。私、理由をそう考えてたんだ」

「うん」

「でも、それって願望なんだよね」

「え?」

「…誘爆じゃなくて、本当は私の責任。設計図の指定よりも、強力な火薬ユニットを乗せちゃったんだ。原因は、どう考えてもそれ…」

「ジェシー…」





ジェシーは手を握り締めていた。

アバランチの活動、バレットたちは本家から離れて武装路線に切り替えた。
でも、むやみやたらに傷つけていいとは勿論思っていない。

…あたしは、ジェシーがアバランチに参加している理由は知っていた。

ジェシーのお父さんはもともと神羅に勤めていて…でも、魔晄炉絡みの事故で、今は魔晄中毒に陥って意識が無い状態。

そんな時にジェシーはアバランチや星命学を知って、こう信じている。
お父さんの命はこっちと星の中を行ったり来たりしているんじゃないか、だから早く魔晄炉を止めないとお父さんの命が消えてしまう。

あたしとジェシーは、少しだけ境遇が似ているんだ。

プレートの上に住んでいた事。
お父さんが神羅に勤めていた事。
そして…もう話をすることが、出来ない事。

だからジェシーは、結構色々とあたしにその胸の内を話してくれることがあった。
あたしも、そんな話に共感して、頷けること…沢山あった。





「それで?個人的な問題って、それ?七番街に行って、どうするの?」

「うん…。だから次に使う爆弾の火薬ユニットを差し替えたいの。でもね、どうしても売人と連絡が取れないから、神羅の倉庫から頂いちゃおうかと」

「え、神羅…!?もしかして、七六分室の…倉庫?」

「…御名答」





恐る恐る聞いてみれば、ジェシーはパチンと指を鳴らした。

成る程なあ…。

神羅の施設「七六分室」倉庫。
確かにそこなら火薬ユニットがあるだろう。

そしてジェシーのお父さんのIDがあれば、潜入することも出来る…はず。

ジェシーの計画は読めた。
それをクラウドに手伝って貰うって事か。





「以上、愚痴でした!ごめんね、押掛けてベラベラと」





ジェシーはそう言って笑った。

だから今夜のうちに…か。
それを聞いて、あたしは今、どう思っているだろう。

…うん、多分…。

あたしはふう…と軽く呼吸した。





「ジェシー、それ、あたしもついていっていいかな」

「え?」

「クラウドにも頼んだんでしょ?うーん…だったら、なんでも屋さんとして、とか?」

「そりゃこっちとしては助かるけど、でもいいわけ…?」

「勿論、アバランチのこと直接手伝う気はないよ。でもこれ、被害を最小限にするため、でしょ?」





これはアバランチの作戦にも無関係ではない。
ただ、どちらかというとジェシー個人の希望…と言う面は大きい話なわけで。

それに、ジェシーの気持ちはよくわかる。

ジェシーはあたしがアバランチの作戦とは一定の距離を保とうとしている事は知っている。
そして彼女はそれを「それが賢明だ」と言って笑った。

…まあね、でも距離を保つからこそ聞くことが出来る話っていうのも、あると思うんだよね。
本作戦には参加しないとはきっぱり言ってあるから、だからこそ聞ける話。
それはジェシーにしろ、ティファにしろ。…そんな役目は、悪くないって思うんだ。

そして…これは、被害を小さくする作戦だ。

あたしは、作戦を止めることは、しない。

でも、大きな被害は出ないように。
みんなだって、それは望んでいない。

小さく出来るのなら。
そういう意味なら、手伝いたい。

あたし自身がそう思うから。





「…ありがと」





ジェシーはそう言って微笑んだ。

じゃあ、夜になったら駅に集合。
そう約束して、頷く。

そしてジェシーは部屋を出て行き、あたしも手を振って彼女を見送った。





「ナマエ」

「え、あっ、クラウド?」





ジェシーの背を見送っていると、頭上から名前を呼ばれた。
えっ、と思って顔をあげれば通路の柵に肘を乗せ、こちらを見下ろしているクラウドがいた。





「あんたも行くのか」

「う、うん。クラウドも、だよね」

「ああ、内容は詳しく聞いてないけどな。道々話すって言われてる」

「あ、そーなんだ」





ジェシーにも聞いていた。
クラウドにはプレートの上の七番街に行くと言う事くらいしかまだ話していないと。

でもまあ確かに、何も事情を知らないクラウドに一から説明するのは色々とややこしい話ではあるよね。
あたしはジェシーのお父さんの事も、プレートの上にジェシーの実家がある事も、他のもろもろの事も、それなりに知ってるから話が早いわけで。





「まあ、報酬は悪くないからな…」

「え?あ、召喚マテリアだ!」





クラウドは手に握っていたものをあたしに見せてくれた。
それは赤く、不思議な光を放つ球体…。

あの赤色は結構珍しい。
召喚獣を呼ぶことの出来る、召喚マテリアだ。





「凄いね!今度使う時言ってね!見たい!」

「ああ」





クラウドは頷いてくれた。

決行は、今夜。
プレートの七番街、久しぶりだな…。

そう少し思いを馳せながら、あたしは上を見上げた。



To be continued


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