きみへの想い | ナノ

▽ 心強きモンク僧


『ねえ、カイン。セシルは何か悩んでるのかな?』





いつだったかな。
セシルが浮かない顔をしていた時、遠目でそれを見ながらカインに聞いた。





『セシルは暗黒騎士だ。そのことだろうな』

『暗黒騎士…?』

『大方、あいつに自分は相応しくないなど…余計な事を考えているのだろう』

『……ふうん』





聞いてから、ちょっとだけ後悔したの覚えてる。

…セシルは、暗黒騎士の道を選んだ。
だから…ローザに自分は相応しくない、ってか。

そんなこと別に気にする事なんかないって思ってたから。
それが浮かない顔の原因だなんて、あたしは考えたことも無かった。
だから、聞いちゃったんだけど…。

その時、あたしはカインの横顔を見てた。
カインは…ふたりの事、本人たち以上にわかってるんだよね。

ふたりのすれ違い、わかってるのに余計な事とか言わないの。
ふたりの邪魔になるようなこと、絶対に。

…ひとりで抱え込んでるんだ、よね。









「…ふああ…っ」





欠伸が出た。
口に手を当てて、くあ…と大口開ける。





「おっきな欠伸…」

「…まあねー、リディアよく寝れた?」

「うん」





朝が来て、あたしたちはホブス山に向かって出発した。
欠伸をリディアに笑われながら、進む道中。

そんな中、あたしは今朝見た夢を思い出してた。

いつだっただろう、本当。
昔の話。夢に見て思い出した出来事。

本当、カインって…ひとりで抱え込むタイプだよねえ…。
うんうん、と改めて思ったりして。

ま、そんなとこも大好きなんだけど!
相変わらず救いようのないラブっぷりなのは自分が一番わかってるんだぜ…!





「ここだな、ホブス山…」





そんな相変わらずの絶好調な頭をしてると、無事に目的地に達したあたしたち。

セシルが山を見上げた。

ホブス山のふもと。
そこはギルバートの言っていた噂通り、ぶあつーい氷が張っていた。





「ナマエ、お願いね」

「はいよー」





ローザに言われ、あたしは一歩前に出て手をかざした。

でもその時、かざした方とは逆の手に…ぎゅっとした力を感じる。
そっちはリディアと繋いでた方の手。

……実は、ずーっと気になってた。

あたしはリディアに視線を合わせるようにしゃがんだ。





「ね、リディア。もしかして炎、怖いの?」

「…っ」





そう聞いたら、リディアはビクン、と肩を跳ね上がらせた。

…うーん、これは…図星、かなあ?

そう、ずっとずっと、ちょっと気になってたんだよね。

砂漠の光を取りに行ってた時、あたしやテラさんがファイアを放つと、リディアはこんな風に肩をビクつかせてた。

だからなるべく控え目にしたりはしてたけど…。
でも旅する以上、こうやって炎が必要な場面は出てくるから、このままじゃちょーっとアレなわけで…。





「そうか…あのボムの指輪でミストは…」





すると、それを見ていたセシルが呟いた。

…そっか、なるほど。ボムの指輪か。

セシルに聞いた話だと、ミストはそれが原因で火事になった…。
つまりトラウマが出来ちゃってるわけか…。

でも、可哀想だけど…やっぱりこのままじゃ旅は出来ない。

あたしは安心させるように、ぽんぽんとリディアの頭を撫でた。





「リディア、だいじょーぶだよ。火ってそんなに怖いものじゃないって。暖をとったり、料理にだって使うしね!」

「……。」

「だから、一緒に唱えてみない?」

「…えっ?」

「リディアなら絶対出来ると思うし。一緒にやってみよーよ」

「…いや」





笑って誘ってみた。

…けど、見事に振られた。

いやま…そりゃそうか、そうだろうよ。
でも、ごめんね。あたしは諦め悪いのです。





「この先…きっとこういう事またある。そのたびに怯えてるわけにはいかない。それはわかるよね?」

「……。」

「絶対、大丈夫だから」





ぎゅぎゅっ、とリディアの手を握りしめた。
じっと、まっすぐにリディアの目を見つめながら。

そしたら…リディアは決意したようにこくん、と小さく頷いてくれた。





「…わかった。ナマエと、一緒なら…」

「本当!?よし!ありがとう!」





よーし!よかった。
勇気を出してくれたことにお礼を言って頷き返して、二人で一緒に唱えた。





「「ファイア!!!」」





巻き起こった炎。
それは、冷たくそびえる氷を無事に溶かしていく。

あたしは成功を喜んで、思いっきりリディアの体を抱きしめた。











「そろそろ頂上だね。皆、大丈夫かい?」





開けた道に、あたしたちは山を進んでいった。

その途中、前線で敵を蹴散らして道を開いてくれてるセシルが仮面をずらしながら振り返った。





「山頂か…。随分登ってきたんだね」





ギルバートが額を拭って、見渡した景色。

あたしも一緒になってその景色を眺めた。
うん、なかなかの絶景だ。

カイン見つかんないかなー、とか思って目を凝らして見る。
いや見つかったらあたし視力いくつなの、って話なんだけどな…!

そうやってじーっと景色を見ていた、その時だった。





「あ!あれは…!」





突然ローザが声を上げた。

なんだか、ちょっと慌てた声。
何事かと思って見れば、ローザは道の先を指さしていた。

それを追っていくと、見えたのは多くの魔物と対峙している男の人。





「はあっ!」





その男の人は己の拳のみを武器に技を繰り出して、魔物たちをなぎ倒していく。

うわ、すご!強っ!!!
華麗な強さに思わず尊敬のまなざし。

でもその時、彼の背後に近付く炎の塊が見えた。

それは通常よりもかなりデカイ異形のボムだった。

げっ、ボム…!?ていうか何アレ!?超でかい…!
あんなの爆発されたら超厄介じゃんよ…!





「あの衣服は、ファブールのモンク僧!」





男の人を見てギルバートが叫んだ。

確かに…彼の衣服にはちょっと独特の装飾がなされていた。

ファブールと言えばモンクの文化で有名。
そっか、アレがモンク僧の…初めて見た!!!

って、いやいや。
ちょっと感動したけど、実際それどころじゃない。





「あたしに任しといてー!」





ぐりん、と腕を回しながらあたしは叫んで駆けだした。

この場合、早いに越したことは無いもんね…!
だって今にもドカンといきそうだもん。





「ブリザドッ!」





手をかざして叫べば、空気は氷結していく。
ぴきん、と音を響かせて爆発寸前だったボムは凍りついた。

はい、それが溶けないうちにいきます!





「ローザ!」

「ええ!」





あたしが走り出したと同時に、弓矢を構えていたローザ。

ローザの弓矢の腕前は並みじゃない。
狙えばそこは、確実な急所。

放たれた矢によって、氷ついたボムに見事なヒビが入る。





「セシルトドメよろしく!」

「ああ!」





駆けだしていたセシル。
彼の剣が、まっすぐにヒビを貫いた。

すると、巨大なボムは跡かたも無く砕け散っていった。

…おっし!!
見たか!だてに一緒に育ってないわ!

…ま、カインもいたらもっと良かったけど…って、まあそこについては今回は我慢だ。





「…これは見事な。危ないところをかたじけない。私はファブールのモンク僧長ヤン」





上手く決まった技にローザと手を叩いてると、ヤンと名乗るモンク僧さんに頭を下げられた。

へえ…。この人、僧長さんだったのか。
どーりで強いと思った。





「このホブスの山で修行中、魔物に襲われ私を残して全滅してしまった。あれほどの手練れの者達が…」





ヤンは嘆く様に首を振った。
あの有名なモンクが…全滅、か。





「僕らもファブールへ向かっている途中なのです」

「ゴルベーザという男がバロンを利用してクリスタルを…」





僧長さんなら話が早い。
セシルとローザがこっちの事情を簡潔にヤンに説明した。

それを聞いたヤンの顔色は変わった。





「と言う事はファブールの風のクリスタルも!…何と言う事だ。主力のモンク隊は全滅。城にいるのは、まだ修行の浅い者ばかり。今攻め込めれててはひとたまりも!」

「それなら、あたしたち手伝いますよ」





はい、と挙手してにっこり笑う。
ていうかもともと、クリスタル守るために来たんだし。





「しかしそなた達まで巻き込んでは…」

「これは僕らの戦いでもあるんです。僕とローザ、ナマエはバロンに居ました。このリディアも…バロン王に騙され、僕が…」

「僕はダムシアンの王子です」





一度は遠慮をしたヤン。
でもこっちにも手伝う理由がある事を知ると、また深々と頭を下げた。





「皆訳在りか…。かたじけない!ファブールは東の山を越えたところ。さあ急ぎましょう!」





たぶん、今の魔物たちもゴルベーザが放ったもの、なんだろうな。

ファブールの戦力を減らしてその隙を突く。
随分と周到なもんだな…ゴルベーザめ。

ともかく、これでファブールが狙いなのははっきりした。
急がないと…だな。

ヤンを加え、あたしたちは引き続き山を越えた先のファブールを目指した。



To be continued

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