▽ 最後の戦い
月の民の館。
クリスタルたちは教えてくれた。
バブイルの塔が破壊され、ゼムスの封印が解けた。
この建物の下にある中心核に、ゼムスはいる。
先程、フースーヤとクルーヤの息子…ゴルベーザが中に入っていった。
だけどもう、ずいぶん時間は経っている。
全てのはじまり。
ゴルベーザを操り、世界を滅茶苦茶にした元凶…ゼムスを必ず倒す。
その想いはひとつ。
全員で同じ決意を抱いて、あたしたちは月の中心核へと向かった。
「ねえ、ナマエ。ありがとう」
「セシル?」
中心核への道、強敵を倒しながら進む途中、セシルは突然あたしにそう声を掛けてきた。
いきなりどうしたの、とあたしは首を傾げる。
するとセシルは、どこか懐かしむようにふっと笑った。
「いや、君とはずっと一緒にここまでやってきたと思ってさ」
「え、あー…」
そう言われて、あたしも思い出した。
セシルとカインがミストに旅立った後、あたしとローザもその後を追って城を出た。
その後、セシルとはカイポで再会して…。
それから、色んな人たちと出会い、別れ…世界中を巡った。
確かにあたしとセシルは一度も道を違うことなく、ここまでずっと一緒にやってきたんだよね。
「思い返すと、ナマエがいたから越えられたこと、いっぱいあったよ」
「セシル…」
「ナマエと一緒で良かった。だから、ありがとう」
お礼の意味を理解した。
でも、あたしはゆっくり首を横に振った。
だって、それはあたしも同じ気持ちだったから。
「ううん。セシル。それはあたしも同じだよ。セシルがずっと一緒にいて、同じ方向を向いていてくれたから。それって何より、心強かったよ」
「ナマエ…。うん、そうだな。色んなことがあったけど、一緒に前を見て、だからきっと進んでこられた」
そうして、中心部へ続く道を見据える。
それは、最後の戦いへと続く道。
「もうすぐだね」
「ああ」
一緒に歩いてきたこの旅も、きっともうすぐ決着がつく。
今までと同じように、一緒に前を向く。
最後まで、一緒に行こう。
その気持ちは、大きな勇気に変わる。
そして、あたしたちは歩みを再開し、ついに…辿り着いた。
「ゴルベーザ!フースーヤ!」
セシルが叫ぶ。
地下の、奥深く。
ひたすら降りて行った先に、ふたりの姿はあった。
やっとたどり着いた最深部。
そこにはそのふたりと対峙する存在の姿があった。
…なんだろう。
なんだか、目の前にいるだけで凄くまがまがしく感じるような。
きっとそれ程までに、心が歪み、闇に染まっているのかもしれない。
「もう一息じゃ、パワーをメテオに!」
「いいですとも!」
フースーヤとゴルベーザは互いの魔力をひとつに、メテオに込めた。
それは、肌でも感じる…とてつもない魔力。
ふたりの力を乗せたメテオは、まっすぐにゼムスへと降り注ぐ。
「使うがいい、全ての力を」
強大な力を前に、ゼムスは静かにそう口にした。
その口元は…かすかに笑ってる?
Wメテオ。
それをまともに喰らったゼムスの体は、その場に朽ちていく。
「この体、滅びても……魂は…ふ……め……つ」
ゼムスの体は、ぐらりと崩れ落ちた。
それを見たゴルベーザとフースーヤは、ふう…と安堵の息を漏らしていた。
「倒した…」
「愚かな…。素晴らしい力を持ちながら、邪悪な心に躍らされおって…」
同じ、純粋な月の民。
フースーヤは目頭を押さえ、首を振った。
でも、これで…全部、終わった…?
崩れ落ちた黒幕の姿に、エッジが興奮気味に一番に駆けだした。
「ヒャッホー!!」
「おお、そなたらも!」
エッジの声でこちらに気が付いたゴルベーザとフースーヤ。
フースーヤの方は長い髭を撫でながらあたしたちを迎えてくれる。
「一足遅かったか!俺がブチのめすはずだったのによ!」
エッジはそんなフースーヤにそう言って笑う。
自分も戦いたかった。
でもすべての元凶が倒れたことに全身で喜びを表す。
その一方で、ゴルベーザはセシルの姿を見つめていた。
「セシル…」
「……。」
ゴルベーザがセシルの名前を口にするも、セシルは黙ったまま。
ローザが傍に寄り添ったけど、俯いて、言葉を躊躇っている。
皆は、セシルのことを見守るように見つめていた。
だけど…その時あたしは、なんだか異様な寒気を感じて体を抑えた。
「ナマエ…?」
「カイン…」
その時、カインが声を掛けてくれた。
あたしは体を抱きしめてさする。
カインを見上げて、でも、言葉が震える。
違う…。
まだダメ…まだ…。
「まだ、終わってない…っ」
ぴりっと感じた寒気。
それを抑えてやっと口にした。
ゼムスの笑みを見た時から、違和感はあった。
だからなんとなく喜びづらくて、気にしていたからかもしれない。
一番に気が付いたあたしの声に、皆もはっとする。
そこで、目にしたもの。
倒れたはずのゼムスの体は浮かび上がり、そしてブワッと禍々しい一気に溢れ出させた。
「我は…完全暗黒物質…ゼムスの憎しみが増大せしもの…。我が名はゼロムス…すべてを…憎むものなり…!!」
おどろおどろしい声。
目の前にしているだけで分かった。
コレ、あってはならないものだ。
絶対に葬らなきゃならない、とんでもない歪み。
「死してなお、憎しみを増幅させるとは…」
「ゼムス…。いや、ゼロムス!今度こそ私の手で消し去ってやる…!」
「…消え去れい、ゼロムス!」
フースーヤとゴルベーザは再び前に出て、ゼロムスに立ち向かっていった。
詠唱し、またメテオを放つ。
だけど今回、ゼロムスには傷ひとつ付けることが叶わなかった。
メテオが、まったく効かない…!?
ゴルベーザもフースーヤも相当な魔法の使い手なのに…!
「だめじゃ、奴にはメテオは効かぬ!ゴルベーザ!クリスタルを使う時じゃっ!」
フースーヤはゴルベーザにそう指示をした。
ゴルベーザは頷き、クリスタルを掲げる。
まばゆい光が、ゼロムスに向かって降り注いだ。
でも…。
「暗黒の道を歩んだお前がクリスタルを使おうが。輝きは戻らぬ。ただ暗黒に回帰するのみだ!死ねッ!」
ゴルベーザのクリスタルの輝きを跳ねのけたゼロムスは、こちらに向かいメテオを放ってきた。
嘘…!
これ、まずい…!!!
ゼロムスの禍々しい魔力。
その威力が桁外れなのは、きっと誰もが感じてた。
「ナマエッ!!」
「カイっ…!」
隕石が、降り注いでくる。
その瞬間、カインが前からあたしの頭を抱え込むように庇ってくれた。
そのままドサッ…と、倒れこむ。
皆も、メテオを食らってしまった。
「…カイ、ン…」
体に重たい痛みがズキズキ響く。
それを耐えながら、庇ってくれたカインの背に触れた。
…カイン…あたしのこと、庇って…。
するとそこに、ゼロムスの無情な声が聞こえた。
「…苦しむがいい……滅びるがいい……全てを消滅させるまで……我が憎しみは続く……今度はお前たちの番だ……来るがいい……我が暗黒の中へ……!」
何、言ってるんだ…。
冗談じゃない…!
絶望的な言葉を並べるゼロムスに、心はそう牙をむく。
まだ負けてない。まだ、終わってない!
まだ、諦めてなんかいない!
でも、ここからどうしたらいい?
起死回生の策を、必死になって探す。
「に…兄さん…!」
その時、セシルがゆっくりと体を動かし、傍に倒れるゴルベーザに手を伸ばした。
ゴルベーザの方にも意識はある。
己に手を伸ばす弟に気が付いた彼は、その手にしていたクリスタルを伸ばされた手に託そうとした。
「セシル…こ、これを…!お前が…使うのだ……!」
互いに手を伸ばす、セシルとゴルベーザ。
光り輝くクリスタルは、ゆっくりと、セシルの手に渡る。
クリスタルを受け取ったセシルは、力を振り絞るように立ち上がった。
「ゼロムス…!負けるわけには…いかないッ…!」
するとその瞬間、あたしたちの元に、暖かな光が降り注いだ。
「あんちゃん!姉ちゃん!」
「私たちの魔力を送るわ!」
パロムとポロム…?
小さな、あのふたりの声がした。
その瞬間、ふっ…と身体が軽くなった。
そして、覆い被さっていたカインもぴくりと動く。
「!、カイン…!」
「…ナマエ…」
カインはゆっくりと体を起こす。
あたしは支えながら、その顔を覗き込んだ。
そして同時に、ローザにリディアにエッジ。
他のみんなも上体を起こしていることに気がつく。
…パロムとポロムの祈りが、あたしたちを癒してくれた?
ううん、ふたりだけじゃない。
「みんな! 勇気を!」
「成せば成る、自分を信じろ!」
今度はギルバートに、テラさんまで…。
「精神を集中させろ!」
「必ず帰って来るのじゃぞ!」
ヤンにシド。
皆が、あたしたちの星…ミシディアの塔から、祈ってくれてる。
その祈りは傷を癒やし、戦う力…あの禍々しい力から、耐え抜く力を与えてくれる。
「月よ、光を与えたまえ!」
「我が弟よ!お前に秘められた聖なる力をクリスタルに託すのだ!ゼロムス!正体を見せるがいい!」
フースーヤとゴルベーザも、残った魔力をあたしたちに分け与えてくれる。
皆の力、想いを凄く感じる。
託してくれてる。みなぎってくる。
「ナマエ、やれるな」
「うん!もちろん!」
カインは先に立ち上がると、あたしに手を差し伸べてくれた。
あたしはそれを掴み、引いてもらいながら立ち上がる。
そして互いに、グッと力を込めた。
それは必ず倒すと言う、誓いにも似ていた。
セシル、ローザ、リディア、エッジ。
そしてカインと一緒に、6人でゼロムスに向かう。
戦える!絶対倒す!
「行くぞ!!!」
セシルが叫ぶ。
そして、兄の言葉のまま…託されたクリスタルを掲げ、聖なる眩い光を放った。
To be continued
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