きみへの想い | ナノ

▽ 忍びの王子様


「ワシはエブラーナの家老じゃ。若は口は悪いが優しいお方。王と王妃の仇討ちにバブイルの塔に乗り込もうと抜け道を掘っておる。しかしどうした事か姿が見えん。よもやまた無茶な事を…」





広い洞窟のなか。
その中に、国ひとつ分くらいの人が住めるだけの用意がある。

地底から戻ったあたし達は、シドの言いつけ通りにバロンに向かってシドの弟子達にエンタープライズを改良してもらった。

追加くれたのは、ホバー船を引き上げる機能。
飛空艇からホバー船に乗り換えられるようになって、今まで探索できなかった場所にもたどり着く事が出来るようになった。

そうして辿りついたのが、バブイルの塔に繋がってるというこのエブラーナの洞窟。

そこで、あたしたちはエブラーナの家老さんをはじめ、エブラーナの民の人たちから色んな話を聞いていた。






「エブラーナか…。王と王妃がルビカンテの犠牲になったとはな…」

「うん…でも不幸中の幸いか、王子様は無事だったんでしょ?でも話聞いてると結構、血気盛んなのかな。どんな人なんだろ?」

「さあな。なんにせよ、無茶をしていないことを祈るしかあるまい」





あたしはエブラーナの洞窟で聞いた情報をカインとまとめて話していた。

忍術の国、エブラーナ。
あまり詳しくないけど、忍術はエブラーナ独自の文化だっけ。

結構興味深い文化ではあるんだけど、先日…エブラーナはゴルベーザ四天王のひとりである日火のルビカンテに落とされてしまったらしい。

その際に、王と王妃は還らぬ人に。
残された王子様は敵討ちに燃えているらしんだけど…。

エブラーナの人たちから聞いた話で、特に目立って聞こえたのはその王子様の存在だった。





「…もう、大丈夫なのか」

「ん?」

「いや…」






その時、突然カインがあたしの顔をじっと見てきた。

首を傾げると、彼はどこか困ったような顔をしたように見えた。
なんとなく、言葉を躊躇っているような感じ。

それであたしはカインが何を言うとしてくれていのか察した。

だから、あたしは笑った。




「んふふ、あたしは全然大丈夫だよー。いつも通り元気いっぱいさー」

「…そうか」

「うん、そう。皆が助けてくれるからね」

「……。」





そう。あたしはいたって元気だ。
いつも通り、万全の状態で全力で戦える。

でも、こうして立っていられるのは…出会った人々のお陰でもある。





「くよくよして欲しくて助けてくれたわけじゃないだろうしね」

「……そうだな」





カインは頷いてくれた。

あたしは、ここまで来たからには…もう行けるところまで一生懸命突っ走ってやろうと思ってる。
それが、ここまで出会った…一緒に戦った人たちのためにもなる。

それは間違いのない事だと思うから。





「それに、あたしはカインと一緒なら元気が倍増するからね!」

「…大仰だな」

「ぜーんぜん!」





大丈夫だよの意味を込めて、あたしは冗談まじりにへらっと笑った。
いや、まあ元気倍増は冗談じゃないけども。

でもまあ、とにかく自分の足で立っていられるという意味で。

だけど…。





「だからまあさ、あたしの心配してくれるなら、カインは自分のこと考えてよ。それがあたしの為のもなりますからね!」

「…フッ、簡単な奴だ」

「簡単結構、単純上等!でも本当、無理は禁物だよ!カイン!」

「…その言葉はそのままお前にも返しておこう」

「え!カイン、あたしがいると元気倍増!?」

「阿呆」





ズビシッと頭を叩かれた。
脳天ヒット。ちょっと痛い。

でも、なんか元気がもうちょっと回復した感じ。

だからあたしはまた笑った。
カインがあたしの心配してくれたのは確かだからね。





「…まあ、お前が騒いでいないとどこか物足りなくはあるな」

「えっ?」





わしゃ…と頭を撫でられた。

物足りなく…。
今、カインはそう言っただろうか。





「おお!カインもっかい!」

「二度は言わん」

「えー!なんでよー!言ってよー!」

「フッ…」





カインは笑った。

二度言ってくれなかったけど、凄く嬉しい。

あたしの言葉や行動が、どんな形であれカインの為になったなら。
あたしにとって、こんなに嬉しい事はないからね。





「さて、そろそろ進むか。セシルたちにも声を掛けねばな」

「はーい!」





そうして、それぞれ買い物や情報収集をしていた皆にも声を掛け、あたしたちは洞窟の奥へ進んでいくことにした。

当たり前だけど、洞窟の奥は薄暗かった。
いや本当暗くて当たり前なんだけど。

でもさっきまではエブラーナの人が避難場所としてた分、わりと明かりとかが確保されてたから。





「……。」






…なんて。
実際はこのどんよりした空気が、今はちょっと窮屈だった。

ちらっと、一緒に歩く仲間たちを見て思う。

…ヤンにシド、立て続けに目の前で仲間を失った悲しみはやはり大きい。
実際、遡れば…犠牲はふたりだけではない。

テラさんも亡くなった。
ポロムとパロムは石化している。
ギルバートだって、酷い怪我をして衰弱してる。

カインがさっきあたしに気遣いをくれたのは、エンタープライズの中で縋った事だけが理由じゃない。
あれから、皆、結構…精神的にきているもの空気があったからだ。





「…ん…?」





ある程度進んだ頃、前を歩いていたセシルが突然足を止めて目を凝らした。
皆もそれに気がつき、どうしたのかと先に目を向ける。

すると、そこに聞こえてきたのは戦いの音だった。





「やっと会えたなルビカンテ!今日という日を待っていたぜえ!」

「ほう、何処かで会ったかな?」

「俺がエブラーナ王子!エッジ様よ!」

「エブラーナ?何の事かな」

「てめーの胸に聞いてみやがれ!」





その瞬間、ぼうっ!と炎が洞窟の中に光った。

見えたのは、向かい合う男がふたり。
銀髪の身軽そうな格好の人と、赤いマントを纏った人。

炎を放ったのは、身軽そうな男の人のほうだった。

あれが忍術?
ていうか今、あの人、エブラーナ王子って言った!?

じゃあ、あの人が例の若様!

そして相手は…ゴルベーザ四天王ルビカンテ!

偶然遭遇してしまった戦いだった。
でもきっとコレ、とんでもない場面だ。





「何だその哀れな術は」





彼の放った炎の忍術をルビカンテはいとも簡単にかき消してしまった。
さすが火のルビカンテって言うだけあるってことか。





「炎はこうして使うものだ!」





そして逆に、ルビカンテは王子様に炎を放ってきた。





「ぐあっ!!」





炎は王子の身体を焦がした。
力強く立っていた膝は折られ、がくんと膝をついてしまう。





「ち…きしょう!」

「確かに自信を持てるほどの強さだ…。しかし、この私にはまだ及ばぬ。腕を磨いてこい!いつでも相手になるぞ!」

「待ち…やが…れ…!」





王子様は手を伸ばす。
だけど、ルビカンテはマントを翻しその場から姿を消してしまった。

残されたのは傷を負った王子様のみ。

あたしたちは慌てて彼の元に駆け寄った。





「大丈夫か?」

「な、情けねえ…この俺が…負けるなんざ!」





セシルが彼の体を抱き起こす。
王子様は、ぐっと顔を歪めて歯を食いしばっていた。





「私達もルビカンテの持つクリスタルを追ってるの」

「手を出すな!奴は…俺がこの手で…ブッ倒す!」





良かったら一緒に…と手を差し伸べたリディアの言葉を王子様はつき返す。

勿論、彼にも譲れない部分はあるのだろうけど…。
だけど今この状況で意地を張ったところで何の得もないことをあたしたちは知りすぎている。





「相手は四天王だぜ。王子様」

「奴の強さを味わったろう!」

「ヘッ…俺をただの甘ちゃん王子と思うなよ。エブラーナ王族は代々忍術の奥義を受け継いでんだ…。おめーらより一枚も二枚も…上手だ…ぜ!」





カインとセシルの忠告も払いのける彼。
そしてそのまま無理に立ち上がり、キッとルビカンテのいた方を睨む。

するとその譲らない様を見て、ひとつ…張り上げられた声があった。





「いい加減にしてえ!」





弾ける、悲痛な声。

どこか涙を含むその声に、王子様は目を見開く。
そして皆の視線がその叫びの主に集まった。





「もうこれ以上死んじゃうのは嫌よお!テラのおじいさんもヤンも…シドのおじちゃんも!みんな…みんな!」

「お、おい…」





声の主はリディアだった。

突然女の子に泣かれ、王子様の顔に焦りが滲む。

その顔を見て、思った。
この人、悪い人じゃなさそうかも…。

そう感じたあたしは、すっと王子様の前にしゃがんだ。





「はじめまして、王子様。あたし、ナマエって言います」

「お、おう…?」

「貴方にも色々思うものがあるのかもしれません。でも、あたしたちにも色々あるんですよ。んで、あたしたちとしては貴方ひとりを此処で行かせて何かあったんじゃ後悔してもしきれないんです。お節介だって思われてもね」





にこっと笑う。
すると王子様は目を丸くしていた。

そして、そのあたしの言葉にセシルが続けた。





「相手は四天王最強だ。勝ち目があるかどうか分からない!だが僕達は奴からクリスタルを取り戻さなくてはならない!」

「……。」





少しは、あたしたちの気持ちが伝わっただろうか?

王子様はあたしたち全員の顔を見渡した。
そして、最後にリディアに目を向けると…ふっと小さく笑みを零した。





「こんなきれーな姉ちゃんに泣かれたんじゃしょうがねえ…。ここは一発…手を組もうじゃねーか」

「わお!王子様さっすがー!」





あたしはぱんっと手を叩いて笑った。

よっし!
これでひとり無茶をさせるようなことは無くなった!

すると、目の前でニコニコしているあたしを王子様はちらっと見てきた。





「お前…へらへらしてるけど、結構腕が立ちそうだな」

「あれ!そう思われますか?流石ですね、王子!」

「てーことは、腕に多少覚えはあるってことだな。おう、面白そうだな、お前!気に入ったぜ!」

「おお!王子様に気に入られたぜ!」





いえいっとカインに親指を立ててみる。
するとカインは頭を抱えて、息をついた。あら?





「…気に入られて何よりだな…。だが、こんな身体で口の減らない王子様だ。見るに耐えん。おい、ローザ」

「ええ」





カインに促され、ローザは回復魔法の詠唱を始める。
そして王子様の傷をあっという間に回復させた。

王子はすくっと立ち上がり、万全になった身体を確かめるように軽く動かしてみせる。

どうやら傷は完全に癒えたらしい。
さすがはローザの白魔法だね!





「サンキュー姉ちゃん!あんたもかわいいぜ!おっしゃ!それじゃ仲良く乗り込むとしよーぜ!」

「調子いいの!」





軽いノリの王子様。
リディアは軽く涙を払い、べっと舌を出す。

なんだかちょっと賑やかになった。
空気が少し明るくなったような。

こうして、エブラーナの王子様。
忍術の使い手エッジが新たな仲間として加わったのでした。



To be continued

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