きみへの想い | ナノ

▽ 風のバルバリシア


「ローザ!!」





走り、セシルが叫んだ。

階段を駆け上がり、たどり着いた大きなフロア。
そこにローザはいた。

ただ、その頭上には大きな刃物が光ってる。





「ローザーッ!!!」





セシルは急いで駆ける。
そしてローザをつなぐ鎖を外し、彼女の腕を引くと抱き寄せた。

その、本当に直後。
ザン…ッと残酷な音を響かせ、たった今までローザがいた場所に刃物が落ちた。

う…あ…。
ぞおっ…と背筋が震えた。

まさに…間一髪…。





「ローザ…」

「セシル… 私、あなたが来てくれると信じていたわ…」





ローザは涙ぐみながら、そっとセシルに微笑んだ。

それでも怖かったに違いない。
少し震えていたし、セシルに縋るように抱きついていた。

セシルはそんなローザの背を、落ち着かせるように撫でた。





「君がいなくなってわかったよ。僕は君を…」

「セシル…」





そして、ふたりは互いを愛おしく大切にしあうように抱き合った。

セシルはパラディンになった。
だから暗黒騎士だった自分と決別し、胸を張ってローザへの気持ちを口にすることができた。





「やれやれ、お熱いこっちゃ」





シドが少しからかうように、肩を竦めた。

やっと結ばれたふたりの姿に、あたしも何だか嬉しい気持ちがわいた。
よかったって、本当にそう思った。

でも…それだけじゃない。

そんな気持ちと同時に、あたしはカインに視線を向けた。
…カインは、抱き合うふたりからそっと目を逸らしてた。

その時、ローザもカインの様子の変化に気がつき目を張った。





「カイン!?」





驚くローザに、カインは少し顔を合わせずらそうだった。
経緯を知らないローザにあたしはセシルと顔を合わせ、簡単な説明をした。





「正気に戻ったんだ」

「うん。ゴルベーザに操られてただけ。術が解けたんだよ」





…少しでもフォローが出来ればいいと思った。

勿論、ローザだってカインがいい奴なんだってことは百も承知だろうけど。
でもカインは悪くないって、ローザにはわかって欲しいと思った。

カインは少し俯いたまま、ゆっくりとローザとセシルに歩み寄った。
そして心底申し訳なさそうに頭を下げた。





「許してくれ、ローザ…。操られていたばかりじゃない!俺は君に側に…いて欲しかったんだ!」

「カイン…」





さらけ出した本音は、ずっとずっと胸にしまっていたはずの秘めた想い。
ふたりを想うからこそ…口にしなかった、密かな心。

それを口にしたことがカインにとって良いことだったのか悪いことだったのか、あたしにはわからない…。

だけど…少なくとも今は、血を吐くほど苦しいことだろうと思った…。





「一緒に戦いましょう。カイン…」





そんなカインに、ローザは微笑んだ。
その微笑みで、カインはどれだけ救われるんだろう?





「すまない!許してくれ。ローザ!セシル!…それに、ナマエも」

「もちろん!ずーっと待ってたよ、カイン!」

「…ああ」





あたしの言葉なんか、いくつ並べてもローザの言葉ひとつほどの力はきっとない。
だけど、それでも少しでも元気になってくれるように、あたしはカインに笑いかけた。





「ええい!ごちゃごちゃやっとる場合じゃなかろーが!ここは危険じゃぞ!」





そんな間に入るように、シドが声を上げた。

ああ、確かにそうだ。
言われてみればいつまでもこんなとこにいるわけにはいかない。

ていうか敵地のど真ん中だ、ここ。





「行くぞ、カイン!」

「セシル…」

「竜騎士である君の力がいる!共にゴルベーザと戦ってくれるな?」

「すまん…!」





カインはセシルの言葉に力強く頷いた。

ともかく、これでカインとローザは戻ってきた。
まだゴルベーザは生きてるしクリスタルは取られちゃったけど、ずっとつっかえてた物が取れたような、そんな気持ちになった。

カインが帰ってきた。
それはあたしにとっては何よりも嬉しい朗報だから。

でも、そんな風に少し明るくなった空気に水を差すものがあった。

どこからか聞こえてきたのは、高めの笑い声…。





「ほっほっほほほ…」





その瞬間、ひゅん…と風が吹き抜けた。

風は渦巻く。
そしてその風の中から現れたひとりの女性。





「ゴルベーザ様に手傷を負わせるとは、お前達をみくびっていたようね!」





長い髪が風になびく。
そして、一言で言ってしまえば…せ、せくしー…?

だけど響いてくる楽しげな高笑いに、少し身を構えた。

なんかこいつ…他の奴と違う…?





「なに、あんた!折角の再会に水ささないでくれる!」

「ほっほっほほほ…、それは申し訳ないわねえ」





じっと睨んで叫んでみる。
けどなんか薄く笑われた。

いや、これでどうなるとも思わなかったけど…。

でも、これはあれかな。
ドカンと一発やってもいい系なのかな…?

ゴルベーザ様とか言ってるし、敵には変わりないよね?

よし、先手必勝!
そう手のひらに魔力を込め始めたら、ぽんっと肩に触れる手があった。




「ナマエ…落ち着け」

「カイン…」

「こいつはゴルベーザ四天王、風のバルバリシアだ」





カインはそうコイツのことを教えてくれた。

…!
この人も、ゴルベーザ四天王なのか…。

だとしたら、無闇に突っ込むべきじゃない…のか。

四天王という単語に、少し落ち着きを取り戻せた。





「カイン、お前も寝返ったようね。それだけの力を持ちながら!」

「寝返ったのではなく、正気に戻ったと言ってもらおうか。バルバリシア!」





カインが言い返せば、バルバリシアは目くじらを立てた。





「なれなれしく呼ぶでない!こんなことならお前もローザも消しておくべきだったね。だが、メテオの使い手はもういまい。みんな揃ったところで仲良く葬り去ってやろう!」





びゅん…とまた風が吹いた。

あ、この風…なんか厄介そう…。
あたしがそう思っている矢先で、カインはキッと槍を構えた。





「フッ、空中戦はお前だけのものじゃない!」





そう言ったカインは格好良かった。
だって久々だ。久々にカインの戦いを見られる。

今までお預け喰らってた分、なんだか余計にヒートアップだ。

でも大丈夫。戦闘はちゃんとやる!

ていうかカインと戦える。
それだけであたしの気合が入るには十分なんだから!





「…ナマエ」

「ん…?」

「…奴の攻撃は少々厄介だ。見たところ黒魔法を使えるのはお前だけだろう。奴に正面攻撃は効かない。トドメは俺が宙から刺す。だからお前は…」

「…わかった!時間稼いどく」

「フッ…頼んだぞ」





カインが空に駆けた瞬間、あたしは魔法の詠唱を始めた。

ローザは今疲れてるだろうし、セシルも先程のゴルベーザに負わされた傷もあるし、それならローザを庇う事に専念した方がいい。
物理派のヤンやシドはこの風が強すぎてなかなか手は出しづらそうだ。

だからこの戦いの要はカインのジャンプ。

そしてあたしは…。





「トルネド!!」





思いっきり魔力を込め、渾身の竜巻を放った。

風には風を、だ!
本来この魔法は敵を風で包み、瀕死に追い込む恐ろしい黒魔法だけど、相手が風じゃ届かない。
だけど、流れを乱してやることくらいは出来るはず。

さあ、この隙に…台風の目、見つけちゃえ!





「見えた…!」





突き進む道を見つけただろうか。
槍を構え、光のように一直線に落ちてくる竜の騎士。





「カイン!いっけーッ!!」






あたしの叫び声と同時に、風の中へ消えていくカイン。
その場にいた全員が息をのむ。

目の前の風をじっと見つめていると、その風は徐々に徐々に勢いを失っていく。





「勝負あったな」





静かな声と共に、ひゅっと風を切った一本の槍。

渦が、止んでいく。
その瞬間、バルバリシアの体はガクン…と崩れ落ちた。





「カイン、貴様…!」





バルバリシアはカインを見上げ、睨みつける。
でももう力は残ってない。

彼女は倒れ込んでいく。
でも、その顔には何故か笑みが浮かんでいた。





「この私を倒しても…最後の四天王がいる!このゾットの塔もろとも……消え去るがいい!!ほっほっほほほ」





細くなっていくバルバリシアの笑い声。

ゾットの塔…もろとも?
それって…。

そう脳裏に事態が過った瞬間、その考えを肯定するように突然足場が揺れ出した。

ああっ!!
やっぱ塔もろともってそういう!?





「く、崩れる!」

「くそッ!」





セシルとカインの顔にも焦りが滲みだす。





「ちょっとー!?せっかくカインとローザが戻ったのにこんなんってないでしょー!?」

「大丈夫よ、ナマエ」

「!」





その時、とん…と優しく肩を叩かれた。

振り向いて見上げた先にあったのはローザの優しい笑み。
ローザはあたしに頷くと、他の皆に向かって叫んだ。





「私につかまって!」





そう呼びかけるとローザは魔法の詠唱を始めた。

その詠唱を聞いて、彼女が何をしようとしているのか察する。

そうか…、それなら助かる!
ローザを信じ、ぎゅっと彼女に腕に抱きつく。

その瞬間、ローザは魔法を唱えた。





「テレポ!!!」





崩れていく塔。
あたしたちは間一髪、その危機を脱したのだった。



To be continued

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