きみへの想い | ナノ

▽ バロンの鍵


「ヤン…、大丈夫?」

「待ってて下さい。すぐにケアルを掛けますわ」

「ナマエ殿と幼子よ…、かたじけない」





宿屋の広間。
椅子に腰かけるヤンの腕を優しい光が包んだ。

デビルロードを抜けて無事にバロンに辿り着いたあたしたち。

勿論楽しい帰郷じゃないのはわかてったけどさ…。
でもそれでも、辿り着いたバロンの様子はおかしかった。

まず、お城は立入禁止。
やむを得ずに城下町にやってきてシドの家に行ってみると、肝心なシドはお城に捕まってるって言うし…。

だから今後の作戦や体勢を立て直すことを目的に、あたしたちは宿屋にやってきた。





『セシル、探したぞ!バロン王に逆らう犬め!かかれ!』





でも宿屋には意外な人物が構えていた。

それはファブールで一緒に戦ったヤン。
リヴァイアサンの一件で行方不明になったヤンだったけど、無事だったんだとセシルとあたしは喜んだ。

でもヤンはバロンの近衛兵を背にこちらに襲いかかって来た。





「どうやら記憶喪失のところをバロンに利用されていたらしいのう」





テラさんが髭を撫でながら言った。

ヤンはリヴァイアサンの件の後、気を失ったところをバロン兵に発見されて術を掛けられていたらしい。





「ヤン、リディアとギルバートは?」

「リディアはリヴァイアサンに飲み込まれてしまった。ギルバートは……わからない」

「…そうか」





尋ねたセシルは切なそうに目を伏せた。
あたしも頭が重くなった。

リディアとギルバート…。

けど、ヤンが無事だったのは素直に良かったと思う。





「まあ、ヤンが無事で良かったよ!」

「ナマエ殿とセシル殿も、よく御無事で…。私も力を貸しましょう」

「有難いよ、ヤン。ともかく広間じゃ兵士に聴かれるとまずい。部屋で対策を練ろう」





セシルの機転で、あたしたちは宿の一室を取る事にした。

宿のご主人も宿を陣取る近衛兵には迷惑していたらしく、部屋をタダで貸してくれた。
ふふふ、コレは思わぬ幸運きたれりだ。





「ところでセシル殿、ナマエ殿、こちらの御人は?」





部屋に移動し、まずヤンが目を向けたのはテラさんやポロム、パロムのふたりだった。
そっか。ここは面識ないんだよね。

セシルは頷き、互いの仲介に入り紹介を始めた。





「こちらは賢者のテラだ。ギルバートの…」

「…私の娘は命を賭けてあの男を愛しおった」





アンナさんの事を思い出し、目頭を押さえるテラさん。
その様子を察したヤンは残念そうに目を伏せ、頭を下げた。





「そうですか…。私はファブールのモンク僧長ヤンと申します。では、こちらの…」





そう言ってヤンは視点を下げた。その先には勿論双子。
あたしはしゃがみ、ふたりの肩をポンポンと叩きながら紹介した。





「こっちはミシディアの魔道士のパロムとポロムだよ」

「おう!おいらがミシディアの天才児パロムさ!」

「生意気ですいません。双子のポロムですわ」





このふたりは、なんというか相変わらず。

自信たっぷりで踏ん反り返るパロムと、しっかりしてるポロム。
ヤンもその様子には少し顔を綻ばせていた。





「ったく、バロンなんかに利用されちゃってさ!」

「パロム!」

「っあで!!ナマエねーちゃんまで何すんだよ!」





遠慮、というものがなくズバッと言い切ったパロムに、あたしとポロムはパシッと頭をひっぱたいてやった。

すると頭を押さえてあたしのことを睨んでくるパロム。
あたしはニッコリ笑った。

ぎゅううう、とパロムの頬をつねりながら。





「うん?パロム?それはあたしにへの挑戦と受け取っていいのかな?ん?」

「あああああっ!!いひゃいいひゃい!!悪かったってーー!!」

「調子に乗るからよ。反省なさい、パロム」





利用されちゃって、ってのはカインも含まれてるのよ?
そーれは聞きづてならないでしょう?って話よ、まったく。

まあ謝って来たし、このくらいで許してやろうと頬を放すと「おー…いてえ…」とパロムは頬を擦ってた。

でも…、ヤンまで操られてるなんて。
やっぱりゴルベーザの術って厄介かもしれない。





「…ナマエおねーさん。ヤンさんは意識不明のところ…疲労を利用されたようですわね」

「うん、みたいだね…」





少し考え込んだあたしに気づいてポロムが声を掛けてくれた。

多分カインの場合は…セシルとあの地震の時に別れたらしいから、地震で気を失った時に捕まったんだと思う。

それだけならヤンと同じ。
術を解くのはそこまで難しくないと思うんだ。

でも…カインの場合は多分もっと別の部分で付け込まれてる気がするんだよなあ…。





「ともかくシドを救出せねば…」





セシルの声を聞いて顔を上げた。

カインのことは気になるけど、今はシドだ。
シドがいれば飛空艇に関して何らかの収穫があるはずだし。

うん、今一番の課題はシドを助けること!





「どうする?兵隊さんたちぶっ倒して強行突破でもしちゃう?」

「…それはリスクが高すぎるよ、ナマエ…。あまり事を荒立てない方がいい」

「じゃあ用水路でも通る?町とお城の中に繋がってるよね?通ったこと無いからよくわかんないけど」

「水路の入り口には鍵が掛かってるよ」

「うーん、最悪魔法でぶっ壊す」

「………。」





なんか、セシルの何とも言えない顔された。
だってさ!うだうだ考えてる場合じゃないじゃん!

まあ、問題発言してんのは認めるけどさ…。





「ところで…今ふところを見たら、こんなものが入っていたのですが」

「「え?」」





そう言ってヤンが取り出したのは一本の鍵だった。

…ああ、なるほど。そっか。
ヤンに近衛兵のこと従わせてたから、ヤンに持たせてあったのか。





「「………。」」





あたしとセシルは顔を見合わせた。

用水路作戦、決定。



To be continued

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