意外な背中



「今さら何を知ろうと言うのだ。早くシンを倒せばよかろう。ユウナレスカにまみえ、究極召喚を得たのであろう」





裁判の間へと赴いた俺たちはマイカと対面した。
マイカは寺院の混乱に疲れたような口調でユウナにそう言ってきた。





「ユウナレスカに会ったけどさ」

「私たちで倒しました」

「なんと!?」





ティーダとユウナが答えた。
するとマイカの顔色が一気に変わり、奴は心底驚いたように大きな声を上げた。





「もはや召喚士とガードが究極召喚の犠牲になることはない」





ふたりの言葉に添えるように俺もそう口にした。
するとマイカは頭を抱え、何をしてくれたのだと怒鳴り声を上げた。






「1000年の理を消し去ったと言うのか…この大たわけ者共が!何をしたか、わかっておるのか。シンを静める…ただひとつの方法っあったものを…」

「たわけはどっちさー。そっちの都合で人の待遇コロコロ変えちゃって」





マイカの言葉にナマエはそう言いながらため息をついた。

ユウナの待遇をいとも簡単に変え、その冤罪を今度はアルベドに押し付けたエボン。
自分自身に関わりがある事も勿論だがユウナやリュックの事を考え、物申したいという気持ちがあったのだろう。





「ただひとつなんて決めつけんなよ!新しい方法、考えてる」

「な…そのような方法など、ありはせぬは!」

「尻尾を巻いて異界に逃げるか」





ティーダと俺が凄めば、マイカはよろめくように再び頭を抱えた。
奴にとってユウナレスカが消え去ったという事実はあまりに衝撃的であったらしい。

継続、変わらぬ事こそがエボンの真実。

究極召喚が失われた事で、それは完全に崩れ落ちたのだから。





「スピラの救いは失われた。もはや破滅は免れ得ぬ。エボン=ジュが作り上げた死の螺旋に落ちて行くのみよ…。わしはスピラの終焉を見とうない…」

「終わりにはしません!」





嘆くマイカにユウナは強く否定を言う。
そして同時に誰もが思っただろう。

エボン=ジュ。

ユウナレスカが消滅の直前に口にした名前。
それが今、マイカの口からも出てきたのだ。





「なあ、エボン=ジュって…」

「ユウナレスカ様も仰ってたわ」

「ちょっと、じーさん!エボン=ジュってなんなのよ!」





皆が詰め寄ればマイカは小さく口を開いた。





「…死せる魂を寄せ集め、鎧に変えて纏うもの。その鎧こそシンに他ならぬ。シンはエボン=ジュを守る鎧。その鎧をうち破る究極召喚をお前達が消し去った!誰も倒せぬ」





それが最後の言葉だった。
マイカはそれだけ言い残すと手を天へと掲げ、その体に幻光虫が纏い出した。

察した。だが、その時点ではもう遅い。

マイカも死人。
奴はそのまま異界げと姿を消してしまった。





「ふざけやがって!好き勝手ほざいて逃げやがった!」





怒り、唖然。
残されたこちら側はそんな空気に包まれた。

丁度その時、シェリンダが裁判の前と入ってきた。





「あの、マイカ総老師は?」

「あの…」





マイカの事を尋ねられ、ユウナは口ごもった。

まさか総老師は死人で異界へと逃げたとは言えまい。
俺はユウナの前に出て代わる様に答えた。





「まだ来ないぞ。いつまで待たせる気だ」

「変ですねえ…私、探してきます」





軽い嘘をつけば、シェリンダは再びマイカを探しに駆けて行った。
いくら探したところでもう見つかる事は無いが…。





「アーロン、頭いいなあ…」

「フン」





するとナマエが感心したように見上げてきた。
そんなに大したことは言っていない。

しかし、マイカが消えたとなると次はどうするか…。

周りがそんな空気になりかけた。
だが、その時ティーダとユウナが何かの存在に気が付いた。

そして、ユウナが俺に言った。





「祈り子様に会いに行ってきます」

「……なるほどな」





俺は小さく笑った。

聖べベル宮にはバハムートの祈り子がいる。
ユウナとティーダはふたりで祈り子の間へと向かった。

俺たちは外でその帰りを待った。





「祈り子様、何か教えてくれるのかな」

「さあな。だが、向こうから招いたんだろう」

「うん…」





俺は適当に傍に居るナマエと話をしていた。

祈り子の存在は普通の人間には見えない。
召喚士であるユウナはいいとして、ティーダ…あいつはもどうやら見ることが出来るらしい。

そして、もうひとり。





《…あっ》





祈り子が姿を現した時、二人以外に反応した者がいた。ナマエだ。
ナマエはふたりと同じ方を見て、小さく声を上げていた。

ナマエには、祈り子が見えるのか…。

そうして程なくすると、ユウナとティーダが祈り子の間から出てきた。





「あ。ティーダ、ユウナ、おかえりー」





祈り子の間から出てきたふたりに向かい、ナマエは微笑んで手を振った。

そんなナマエの元へユウナは歩み寄ってくる。
ナマエはユウナに尋ねた。





「なんか話聞けた?」

「うん…。それは聞いたんだけど…祈り子様、ナマエに話があるって」

「は?」





ユウナの言葉にナマエは顔をきょとんとさせた。
傍で聞いていた俺も少し、驚いた。

いや、そこにいた誰もが意外そうな顔をしていた。





「ナマエと話したいから呼んでくれる?って言われたッスよ。な、ユウナ」

「うん」





嘘じゃないというようにティーダが言い、ユウナも頷いた。

意外。
本当に誰もがそう思っただろう。

俺はちらりとナマエに目を向ける。

すると驚きこそしていたナマエだったが、その顔は意外とようには見えなかった。





「何か心当たりでもあるのか」





俺はそう尋ねてみた。
するとナマエは俺を見上げ、コクリと小さく頷いて見せた。





「…ちょっとだけ」





どうやら本当に心当たりはあるらしい。
祈り子の方もナマエの名前を把握しているようだしな。





「なら、行ってこい」

「うん、行ってきます」





俺はナマエを促した。
ナマエはそれに頷き、ひとり祈り子の間へと入っていった。

その背を見送りながら、少し…思った。

あいつの事は何でも知っている…などと自惚れるつもりは無い。
知らぬ事などいくらだってあるだろう。

だが、祈り子と接点があったなど…想像もしなかったな、と。

さて…何を聞いてくるかな。
俺は腕を組み壁に寄り掛かり、皆と共にナマエを待った。



To be continued

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