浄罪の路



浄罪の路。
俺は今、暗いその路に佇んでいた。

エボンの反逆者として下された俺たちの処分はこの浄罪の路に放り込まれる事だった。

捕えられた罪人はこの場所に送られ、ここを抜けることで罪が許される…だったか。

だが、実際はどうだろうな。
ここには凶暴なモンスターも放たれており生きて出られた者はいないと聞く。

他の者もここに放り込まれた可能性は高いだろうが…。
さて、どう探すかな…。

壁に背を預け、そんなことを考える。

するとその時丁度、複数の足音がこちらに近付いて来ているのが聞こえた。





「あ、アーロン!」





響いた声はナマエのものだった。

隣には他の者の姿もある。

全員ではないが、もしかしたら浄罪の水路の方にでも送られたか…。
牢から出された俺とティーダが別々に連れていかれたのもその辺りに理由があるかもな。

俺は壁から離れ、皆の元へと歩み寄った。





「何処かに出口があったはずだ。それを探すしかないな」





僧兵だったころの知識だが、それを告げるとユウナは「はい」と小さく頷いた。

しゃんと立っているが、少し落ち込んでいる…か。
まあその辺りは無理も無い事だろう。

なんにせよ、いつまでも此処にいてやる義理も趣味も無い。

俺たちは出口を探し、浄罪の路を歩き出した。
その際、自然と傍を歩いていたナマエに俺は声を掛けた。





「ナマエ、お前…大丈夫だったのか」

「なにが?」

「浄罪の路、放り出された時はひとりだったろう?」

「あー、うん。大丈夫!ナマエちゃんを嘗めないでよー?」

「なら、構わん」





そうひとりで戦った経験など無いであろうナマエ。
変わりは無いかと一応尋ねれば、奴はいつも通りの笑みを見せた。

ナマエもユウナの様子は気にしているようだが、こいつ自身はどこにも異常は無さそうだ。

足を進めれば、ナマエもまたついてくる。

肩を並べたその際、ナマエは覗き込むように俺を見上げてきた。
そしてニヤリと笑みを浮かべた。





「おお??もしかして心配してくれたー?」

「どんくさいからな」

「一言多いわ!」





くだらないやり取り。
だが、それはいつも通りで変わらない。

ナマエは頬を膨らませる。
だが、すぐにふっと小さな笑みを零した。





「あー…でも、なんだかちょっとホッとした。またちゃんと、ユウナに会えて良かったよ」

「ここは罪人を裁く場所だ。安心している場合ではないがな」

「わかってるよ。でもまあ…こう、ね。やっぱ…逸れちゃってから色々あったし…」

「………。」





聞いた話によれば、浄罪の路で一番初めにユウナと再会したのはナマエだったという。
ナマエは多くを言わなかったが、その際色々とふたりで話したこともあっただろう。

歳も近い。
だからこそ、聞いてやれることもあったはずだ。





「…ガードなんだもん。やっぱり、出来ることはしたいよね…。あたしの手はちっぽけで、出来ることなんて限られてるけど…出来るだけのことはしたい」

「…お前しかしてやれないこともあるはずだ。そんなに卑下しなくていい」

「…あるかな?」

「ああ」





頷けば、ナマエは柔らかな笑みを浮かべる。
そうして「そっか…」と少し嬉しそうに言った。

だが、この薄暗い空気を何とかしたかったのだろうか。
次に発せられたナマエの声は、静かなトーンを明るく改めたものに変わった。





「あ、そうだ。ねえ、アーロン。あたしね、さっきサンダラ使えたんだよ」

「中級魔法か?」

「うん!一人の時にね、あんまりファイガばっかり使って魔力尽きてもやばいよな〜って思って試したら出来たんだ!」





ユウナと再会できるまでの間、当然ひとりで浄罪の路を歩いていたナマエ。
まだ魔力は十分に残っているところを見れば心配は杞憂に終わったようだが、確かにどれほどの長さのダンジョンであるかわからない、また一人きりとなれば魔力の温存は重要になるだろう。

素直に褒めてやってもいいのだが…。

なんだろうな、俺もやはりひねくれているのか。
いや、面白い反応を見せてくれるのが単純に好きなのかもしれない。

得意げになって話す様子をあまり持ち上げてやるのも癪だしな。

そんなことを考え心の中で笑いながら、俺はナマエに言葉を返した。





「ほう…。ここに来てやっとか。本当に宝の持ち腐れだな」





そんな風に言えば当然、ナマエは俺に言い返してきた。





「ぐっ、うるさいな!素直に褒めなさいってのよ!まあ、なんかコツ掴んだ気もするし…ちょっと他のも試してみようと思ってるんだけど」

「ああ、感覚が掴めたならやってみればいい」

「うん。もし不発になったら助けてね…?」

「……。」

「な、なんだなんだその目はー!!」





ただ黙って横目で見やれば、ぎゃんぎゃんとナマエは騒いだ。

まあ、その努力に手を貸すのは惜しまんさ。
くっ…と笑えばやはりナマエは不満げに俺を睨んできたが。

だが、そんなやり取りには俺も安心を覚えられた気がした。



To be continued

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