死の螺旋 「んんん〜っ!!出せ!出せってんだコラぁ!聞いてんのかあ!!」 狭い中、ぎゃんぎゃんと騒ぐティーダの声が耳に響く。 「無駄だ」 うるさいぞという意味も込め、俺は溜息まじりにそう諭した。 するとティーダはやっと諦めたようにムスッと唇を尖らせ、行き場のない気持ちをぶつけるようにガンッと檻を足で蹴とばした。 そう、今俺たちがいるのは檻の中だ。 「んあああ〜…ユウナ、どうしてっかな…」 「さあな」 ずるりと崩れ落ちるようにティーダはその場に座り込こんだ。 気にするのはユウナのこと。 今、この小さな檻の中に入れられているのは俺とティーダだけだった。 恐らく他の者はまた別の檻に入れられているのだろう。 「だが立ち直るさ。強い娘だ」 「立ち直ったって!旅続けたら死んじゃうんだろ!はあ…」 ティーダは溜息をついた。 召喚士の運命を知り、ユウナに謝りたいというコイツの願いは遠ざかるばかりか。 俺たちが牢に入れられている理由、それは勿論裁判で裁かれたからだ。 ユウナとシーモアの結婚式に乗り込みユウナの救出を図ったのち、そのまま聖べベル宮でバハムートの祈り子への祈りを終わらせたが、その直後に僧兵に捕えられてしまった。 罪状は、老師であるシーモアに危害を加えたこと、アルベド族と手を組み騒乱を巻き起こしたこと。 法廷ではエボン四老師とあいまみえることが出来た。 だからユウナは老師たちに事実と思いを叫んだ。 真の反逆者はシーモアである事。 自分の父を殺め、また死人である事も。 だが、そんな叫びは届くことは無かった。 それどころか、むしろ叩きつけられたのは歪み切ったエボンの真実。 シーモアだけではない。死人であるのは総老師であるマイカも同様である事。 スピラを支配するのは死の力に他ならないと。 エボンはシンの消滅を謳ってはいないのだ。 ただ、現状を維持していく…変わらぬこと。それがエボンの真実。 それを聞いたユウナの衝撃はどれほどのものだっただろうか。 恐らくその事実に純粋に嫌悪出来たのはティーダとナマエくらいなものなのだろうな。 いや…実際のところ、ユウナの場合は…。 ユウナが参る理由。 そこまで考えて、俺は思い出すのをやめた。 結婚式…。俺とて、思い出したくもない。 「スピラってさ…誰かが死ぬとか、殺されるとか、そんなのばっかだな」 その時、座り込んだままのティーダが重苦しそうにそう呟いた。 「ああ…死の螺旋だ」 「あ?」 その言葉に俺は頷いた。 するとティーダは俺の顔を見上げてくる。 俺はそのまま話を続けた。 「死を撒き散らすシンに挑んで召喚士たちは死んでいく。召喚士を守るためにガードは命を投げ出して死ぬ。祈り子の正体は死せる魂。エボンの老師は死人。スピラには死が満ちている。シンだけが復活を繰り返し、死を積み重ねてゆく。永遠にめぐり続ける、死の螺旋だ」 「はーあ…」 俺の話を聞いたティーダはうんざりするようにまた溜息をついた。 究極召喚の真実を知ってから、きっとコイツの中でも思う事がたくさんあるのだろう。 「なあ…アーロン。ナマエはさ、やっぱ…前の旅の時にこの、召喚士の事…知ったんだよな?」 「…ああ」 「…そっか」 ティーダはナマエの事を尋ねてきた。 自分に境遇が似た異世界の存在。 あいつも究極召喚を使えばどうなるかなど知る由も無かった。 だが、告げた。 俺はその時のことを思い出しながら頷いた。 「…ナマエも、当時はショックを受けていた。その日は食欲も無くしてな、完全に参っていたな」 「そりゃ参るだろ」 「ああ…。だがな、それでもあいつは前を見つめた。そのまま受け入れたくなどない。諦めてたまるかと、必死に打開策を探そうとした」 「…けど、途中で消えちゃったのか」 「…そうだな」 旅の途中、ナギ平原を歩く途中…あいつはフッと一瞬で姿を消した。 まるでそこにいたのが嘘だったかのように、忽然と。 …いや、決して嘘では無かった。 俺は知っていた。知り過ぎていた。 共に旅したナマエと言う存在は、俺の中でこんなにも大きかった。 「俺もさ、ナマエと飛空艇で話したんだよな。ユウナを助ける方法を一緒に探そうって」 「……。」 「…何とか、したいよな」 ティーダはそう小さく呟いた。 するとその時、牢の外から足音が聞こえてきた。 俺とティーダは檻の外に視線を向ける。 歩いてきたのは、キノックだった。 「出ろ。お前らの処分が決定した」 「処分?処刑の間違いではないのか」 「何を言う。親友を処刑するはずがなかろう」 「よく言う…」 優しげな口調を撒くキノックに少し呆れをにじませて言葉を返す。 10年前…。 最後に別れたあの日は、こんな光景想像もしなかったがな。 さて…決定された処分はいかなるものか。 俺は、静かにあいつの身を案じた。 To be continued prev next top ×
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