死人の後悔 「うっわあ!たっかーい!」 「…うるさいぞ」 「ばっかだなー!アーロン!飛空艇だよっ!飛空艇ーっ!」 「…意味が分からん」 爆破されるアルベドホームを脱した俺たち。 脱出に使われたのはアルベド族が海底から引き上げ整備したという飛空艇だった。 空を駆けていくその光景に窓を覗くナマエのテンションは最高潮に達している。 …やかましいな。 元気のありあまるその姿に俺は思わず耳を押えた。 まあ…先ほどの重苦しい空気を振り払う事が出来たならそれはそれで悪くないのだろう。 俯いてばかりでは掴めるはずのものも見逃す。 アルベドホームの出来事から心機一転、俺たちはこの飛空艇で未だ行方の知れないユウナを探すことになった。 「トタギ!ユウナオミザキョダカアッサ!」 「ゴゴガ!?」 「ミヤフユヌ!」 しばらくすると飛空艇についている装置でユウナを探していたアルベド族が騒ぎ出した。 目の前で飛び出すアルベド語をまったく理解出来ていないナマエはぽかんと口を開けてリュックに通訳を頼んでいた。 「ええと、通訳お願いできますか…」 「ユウナんの居場所、わかったって!」 その直後、モニターにある映像が映し出された。 それはユウナの姿だった。 無事は確認できた。 だが、それを見て誰もが安堵と同時に違和感を感じだ事だろう。 「ウェディング…ドレス…?」 ナマエがぽつりと呟いた。 そう、そこに映し出されたユウナは真っ白な花嫁衣装に身を包んでいた。 そして同時に、その隣にはシーモアの姿もあった。 場所は…聖ベベル宮か。 エボンの中心…。それに…シーモアか。 「おっさん行ってくれ!」 「わかってんのか小僧。ベベルの防衛網は半端じゃねぇ!」 「なんだよおっさん、ビビってんのか!そこにユウナがいる。だったら助けにいく。そんだけッスよ!」 リュックの父親であるシドに対し、ティーダはユウナの元へ真っ直ぐに突っ切ることを言い切った。 ユウナがいるのならガードとしてそこに向かわん手などない。 此処にいる者もその点に関しては異論などないだろう。 ただ、やはり気になる事はあった。 「ええ!?もしかしてユウナとシーモアの結婚式って事!?」 「てゆーか何でシーモアが生きてんの!?あんにゃろ、マカラーニャでやっつけたのに!」 誰もが感じている疑問を言葉にして叫んだのはナマエとリュックだった。 気になる大きな点はふたつ。 ユウナの花嫁姿と、マカラーニャで死亡したはずのシーモアの存在。 まあ、どちらも大方の予想はつくが…。 騒ぐふたりに対し、俺はその予想を口にした。 「死んでいるさ。ジスカルと同じだ。強い想いに縛られ、異界に行かずに留まったのだ」 「うわ〜!?しつこ!」 そう、この目で見たのだからシーモアが生きているはずがない。 となればおのずと導き出される答えは死人だ。 その事実にリュックは隠すことなく顔を歪ませる。 一方で、ナマエは何かを考えこむように小さく呟いた。 「何が、シーモアをそこまでさせるのかな」 死んでも尚、生者の世界にしがみ付く理由。 それはとんでもない執念だろうか。 想像して、きっと想像もつかないだろう。 シーモアの心情に多少なりとも理解を試みるナマエの横顔を俺はしばし見つめた。 「…さあな。ろくな事ではないだろうがな。単純に考えればユウナを利用するつもりだろう」 「…利用、かあ。それで結婚?なんかスッゴく歪んでるねえ…」 シーモアがユウナに結婚を申し込んだ理由は純粋な恋愛感情などでは無いだろう。 シンに苦しむ民の心を少しでも晴れやかに。 そんな持論も持ち出していたが、それすら実際はどうだか…。 そこにはもっと歪んだ何かがある気がしてならない。 死人になってでも果たしたい野望…。 まあ…あまり、俺が言えたことではないがな。 「ユウナは奴を異界送りする気かもしれん」 そして俺はもう一つ、ユウナが大人しく花嫁衣装に身を包んでいる理由を挙げた。 それを聞いたナマエとリュックは顔を合わせる。 その表情には不安な様子が見て取れた。 「うまくいくかな?」 「シーモアが隙を見せればな」 「隙、か…」 シーモアがそう簡単に隙を見せない事など嫌というほど理解しているだろう。 もっとも、それはユウナも同じなのだろうが。 「どのみちユウナを助けにいくんでしょ?花嫁奪還!何か格好いーね!」 「お、本当ー!なーんか格好いー!ナマエ良いことゆーじゃん!あたし燃えてきたよー!」 「やっぱ、あーゆー格好は好きな人の隣でするもんだもんね!」 「そーだ!そーだぁ!」 シーモアが隙を見せるかどうかなど今ここで考えても仕方がない。 そう考えを切り替えたナマエはそう言ってリュックを手を叩きあっていた。 無邪気なものだと思う。 だが、助けに行くことが絶対的事実であり、そうして鼓舞する事が今出来る最大限なのだろう。 「ね、意地でも邪魔してやろうね。アーロン」 「いい度胸だな。場所はエボンの総本山だぞ」 「あはは、確かにね!でも言ったじゃん、あたしは頼れる皆といれば怖いものなんてないので〜。てことで、頼りにしてるぜ!アーロン!」 「…現金だな」 「あはははっ!」 べベルを目指す空の中、交わしたナマエとの会話。 言っているのはマカラーニャの湖の底で言っていたことか。 あの時は照れくさそうにもぞもぞとしていたというのに今はこの調子か。 「でもね、やっぱり何としてもあんな結婚式はぶち壊さなきゃって。だって、ユウナは絶対望んでないからね」 「ああ…」 「それにほら!ブラスカさんだって、見たらきっと引っくり返っちゃうよ?」 「…フッ…そうかもな」 こんなやり取りに思わず笑みを零す。 まあ…シーモアにべベルが並ぶとなれば、そう一筋縄ではいかんだろうが。 その時、俺はふと…先ほどシーモアを見た時のナマエの様子を思い出した。 「…ナマエ」 「うん?」 「…いや」 思い出し、名を呼ぶ。 だが、その先を尋ねることに少し躊躇した。 先程ナマエは、シーモアの想いを考えようとしていた。 …やはりやめよう。 呼んでおいて申し訳ないが、俺は尋ねるのをやめた。 「…すまん。何でもない」 「は?」 「…何を言おうとしたか、忘れた」 「へ?ふふっ、なにそれ、歳?」 「……。」 「わー!!ごめん拳骨なし!!」 ふざけるナマエに拳を見せたら奴はブンブンと首を横に振った。 まったく…といいつつ、やはり聞くこともなかろうと尋ねるのを止めて世界だったかと思う。 シーモアは死人。 異界にも行かず留まる存在。 それはお前の目に、どう映ったか…など、な。 To be continued prev next top ×
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