口説く女はひとりにしろ



ユウナを追いマカラーニャ寺院に辿りついた俺たちは、その一室でユウナがずっと持ち歩いていたと言うジスカルのスフィアを見た。

グアド族の元老師ジスカル。
奴が残したのは、己の息子シーモアへの後悔だった。

シーモアは、いつかスピラへの脅威へとなる。
そして自分は…シーモアに殺されるであろうこと。
願いはひとつ。このスフィアを見た者へ、どうか息子を止めてほしい。





「ここまで大事だとはな……」





生真面目なユウナの事だ。
これを見てしまったから、シーモアを止めるために結婚を持ち出したのだろう。

一連の察しがつき、俺はそう呟き息をついた。

一行内でも、動揺は広がっていた。
まあ、無理も無い事だろう。

だが、ユウナを放っておくわけにはいかない。
俺たちはすぐさまユウナとシーモアが向かったと試練の間へと急いだ。





「…シーモアと、戦うことになる?」

「…事によっては、な」





試練の間を進む途中、ナマエにそう尋ねられて俺は頷いた。

ティーダやナマエはユウナの事だけを真っ先に考えることが出来た。
他の事になどわき目もくれず、それだけに焦ることが。

ただ、エボンの民にとってはそう簡単な話では無い。
老師を敵に回すなどあり得ない事だ。

ナマエは振り向き、他の皆の反応も気にしていた。
今俺に質問をしてきたのも理由もそれだろう。





「みんな、どうして!?」





試練の間に着くと、祈り子との対面を終えたユウナが揃ったガードの姿に目を見開いた。





「ジスカルのスフィア見たぞ!」





しかし、ティーダがそう叫ぶとその顔色は変わった。
それは皆を巻き込んでしまったことへの反応だろうか。

ユウナは事が重大だからこそ皆を巻き込まずにひとりで解決することを選んだのだろう。
とてもひとりで抱えきれるものではなかっただろうに。





「…殺したな」

「それが何か?」





俺が咎めると、シーモアは悪びれる様子も無くいつものように薄く笑った。
まあ、こんな咎めに反省を見せるとは欠片も思ってはいないが。





「もしや…ユウナ殿もすでにご存知でしたか?ならば、なぜ私の元へ?」




こちらへと戻ってきたユウナへとシーモアは尋ねる。
ユウナは臆せぬ様に手を強く握りしめて答えた。





「私は…貴方を止めに来ました」

「なるほど…貴女は私を裁きに来たのか。残念です」





その様子を見て、俺はユウナの前に立った。
ギリッと歯を食いしばり、強くシーモアを睨みつけるティーダも同じように。

シーモアはそれを見るとまた薄く笑った。





「なるほど…命を捨てても召喚士を守る誇り高きガードの魂…見事なものです。よろしい、ならばその命、捨てていただこう!」

「シーモア老師。ガードは私の大切な同士です。その人達に死ねと言うのなら、私も貴方と戦います!」





ユウナはロッドを構え、凛と言い返した。

危惧した予感は的中する。
俺たちは、エボンの老師を敵に回すことになった。





「ナマエ。ファイガ剣を使う。頼んだぞ」

「うん…!」





俺はいつものようにナマエに魔法剣の声を掛けた。
ナマエは頷き、俺の太刀に炎を灯す詠唱を唱え始める。

すると、そこに込められていく魔力を見てシーモアが口角を上げた。





「フフ…。ナマエ殿からは、やはり何か底知れる魔力を感じる。…貴女のその力、私の為に役立てて貰いたかったのですが…。もう、こちらには来ていただけそうにありませんね…」

「はっ…!?」





シーモアの言葉を聞き、驚きの声を上げたナマエ。
まるでそんなことを言われるとは夢のも思っていなかった反応だ。

だが、実際シーモアはミヘンセッションの時…出会った時からナマエに目をつけていた。
この世界の者でないことに気づき、破格の魔力を宿している事実に。

俺はシーモアの視線を遮るように、ナマエの前に立った。





「どんな状況においてもコイツがそちらに行くことはない。口説く女は1人にすることだな」

「…アーロン」

「これはこれは…」





低い声で牽制し、睨み付けた。
するとそれを見てシーモアは何か面白いことでも浮かんだように笑みを浮かべた。

…まったく、面倒だ。嫌になるな。

だが、コイツに触れさせる気は微塵も無い。





「出でよ、アニマ!」





シーモアは以前ルカで見せた召喚獣をこの場に召喚した。

そうなれば対抗するのはこちらの召喚獣。
ユウナは今しがた手にしたばかりの力、マカラーニャの召喚獣シヴァの力を借りた。

召喚獣同士は激しくぶつかり合う。

ユウナもこの旅で随分召喚士としての力はつけてきただろう。
シヴァは氷の刃を放ち、鋭いそれはアニマごとシーモアを貫いた。

勝敗は決する。
アニマは幻光虫と消え、シーモアはその場に膝とついた。

ユウナは思わずシーモアへと駆け寄る。
そんな姿をシーモアは息苦しそうに見上げた。





「今更…私を憐れむのですか」





シーモアは最後にそう残して崩れ落ちた。

命の尽きたその体に、皆は駆け寄る。
そこにあった反応はきっと、色々な感情が入り混じっていただろう。

ナマエは、シーモアを見つめて微かに震えていた。



END

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