アルベドの娘



「どーも!リュックでーす!」





シパーフに乗り、静かに揺られ越えた幻光河。
その向こう岸につくなり、ユウナ一行は騒々しい娘に出くわした。





「ほら、ユウナとルールーにはルカで話したよな。ビサイドに流れ着く前に俺が世話になった…」

「あ…」

「ああ…」





娘の名はリュック。
なんでも、ティーダがスピラに来てすぐの頃に世話になったのだという。

…あの姿を見ると、恐らくアルベド族か。

どことなく言葉を隠しているようなユウナたちの様子からも、その事実は見て取れた。

そうとなれば、事は慎重に運びたいのだろう。
そんな理由から一度、女だけで集まり簡単に話をすることにしたようだ。





「じゃあ、君も行こっ!」

「へっ?」





いまいち状況の掴めていなさそうなナマエは、瞳を瞬かせて引きずられるように連れて行かれた。

…大丈夫か、あいつ。
その困惑しきった顔に思わずそんなことを考える。

まあ…戻ってきた時にはその困惑の表情は消えていたから…話をして大方の筋は理解したようだ。





「アーローン」

「アーロンさん、リュックを私のガードにしたいんですけど」





その後、ナマエとユウナがガードにしたいと奴を俺の元へと連れて来た。

先程、集まって話している時にナマエがちらりと俺を見たのは気が付いた。
…恐らくこいつが、気になるなら俺の許可でも取ればいいとでも言ったのだろう。

道を選ぶのはユウナだ。
別に俺に許可を取る必要はないが…。

ただ、今回だけは…。
…一応、確認はするか。

だから俺は、リュックに尋ねた。





「顔を上げろ」

「え?」

「顔を見せろ」

「あ、いいよ」

「目を開けろ」





なるべく顔を見せぬように俯いていたリュックに顔を上げさせる。

開いた瞳は緑色。そして、その中には黒い渦があった。

緑色に渦の瞳。
加えて金色の髪。

それは、エボンの民が忌み嫌うアルベド族の証だった。





「やはりな」

「ダ…ダメ?」

「覚悟はいいのか」

「ったりまえです!」





アルベド族がガード。
寺院に嫌われている彼らがガードを務めると言うのは、あまり聞かぬ話だ。

恐らく、理不尽な対応を受けることもあるだろう。

その覚悟があるのかと聞けば、リュックは即座に頷いた。
威勢の良い返事だった。

一方で傍でそれを眺めていたナマエはぽかん…と口を開けて不思議そうな顔をしていた。





「…ね、アーロン。さっき何やってたの?」





ユウナが望むなら異を唱える者などいない。
リュックのガード入りは、すんなりと決まった。

それが決まった後、静かに先の行動の意味を尋ねてきたナマエ。

ナマエはアルベドがスピラでどのような立ち位置にあるのかは理解している。
声を抑えめに尋ねてきたのはそういった意味があってだろう。

ただ、アルベドの特徴についてまでの知識は無かったか…。
俺も声を抑え、他の者に聞こえぬよう静かにナマエに答えた。





「…アルベドの瞳は緑色の中に渦模様がある。それを確かめた」

「へえ…。あたしはてっきりリュックに気でもあるのかと…」

「………。」





教えてやると、ナマエは悪戯にニヤニヤとしながらそう返してきた。

…お前という奴は…。

俺は眼光に力を込め、ナマエを凄んだ。





「…冗談だよ…。そんな睨まないでください」





するとナマエは少し顔を引きつらせ、軽く首を横に振った。

まったく…。
…まあ、冗談なのはわかっているが、流石に…聞き捨てならんな。

お前の目に、俺はそんな風に映っているのかと…。

そんな誤解は解いておきたいところだ。
死人とは言え、それくらいの名誉はあってもいいだろう。

俺はふっと、ひとつ溜息をついた。





「目に渦か…。ワッカ、それ知らないのかな?」

「…そうかもな」





なんにせよ、この一件はそのうち…それなりの波乱は起こすだろう。
ナマエもその部分に多少の不安は覚えているようだ。

だが同時に、新しい仲間の存在を喜んでいる様子も見えた。





「…嬉しそうだな」

「うん?リュック?そうだね〜。あたしは結構気があるよ〜」

「………。」

「あっは!ごめんってば。でも本当、友達増えたみたいで嬉しいよ」

「…そうか」





…楽しそうで何よりだな。
機嫌の良さそうな表情を見て、素直にそう思う。

だから俺も、気付けばつられるように小さく笑っていた。

…こいつの嬉しそうな顔を見るのは、悪くない。

穏やかな事ばかりではないだろうが、どうせなら…少しでもこいつの笑顔を留めたい。

グアドサラムまでもう間近。
その道のり、傍を歩くナマエの笑みを見て…そんなことを思った。



To be continued

prev next top
×