WOL
「無茶をしたのか」
「うーん、そんなことないと思うけど。勝算はあったし、ただちょっと数が多かったかな」
腕に傷を負った。
それはイミテーションとの戦闘でのこと。
そう強い個体では無かったから、勝てる自信はあった。
ただ、数があまりに多かった。
いくつかの攻撃をいなしても、その隙をつかれてやられた。
負傷しても勝敗は変わらなかったけど。
だけど目の前にいる光の彼は、そんな私を見て何故か辛そうな顔をしていた。
「なんで貴方が痛そうな顔をするの?」
「痛そう…しているだろうか」
「ええ。すごく」
無意識なのか。
というか、そんな風に表情を動かす事があるなんて。
だっていつも揺らぐことなんて無いから。
ああでも、最近は少し笑ったりするようになってきたような気もする。
なんにしてもそんなことを思うくらいにはそう感情豊かな方では無かったから。
「確かに、胸の辺りが痛む。君の傷を見ていると、酷く」
「そんなに心配してくれるの?別に大丈夫だよ」
「ああ、無事でよかった。何故傍にいなかったのか、取り返しのつかない事になっていたらと、そんな事ばかり浮かんでくる」
「……。」
なんだかストレートにつらつらと。
恥じらいみたいなのはないのだろうか。
勿論悪い気はしないのだけど。
「大丈夫。ちゃんと生きてるし」
「ああ…」
「…じゃあ、」
私はゆっくりと彼に向かい手を伸ばした。
怪我した方の腕は上手く上がらないけど、そっと背の方に手を回して抱き着いてみる。
鎧が堅くて抱き心地はそんなによくないけど、でもなんとなくホッとした。
「ほら、ちゃんと生きてる」
抱きしめれば、伝わるものはある。
傍にちゃんといると、はっきりと確かめることが出来る。
すると彼は目を丸くしていた。
でもすぐにその目は細められ、そっと包むように抱きしめ返された。
「不思議だな…こうしていると、胸があたたかくなっていく」
「そう?」
「君は強いが、こうしてみると小さいのだな…」
なんだか色々と噛みしめているみたいだ。
彼の言葉はまっすぐで、たまに戸惑うこともある。
だけど嘘偽りない。
鎧があっても、人の温度を感じる。
負ける可能性なんて考えなかった。
でも、生きていてよかったなって、そう思った。
END
WOLさんもなかなか書かないので新鮮でした。
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