ビビ
偽物だったチケット。
パックに連れられ、必死になって屋根を伝って辿りついた舞台の見える場所。
賑やかな音楽。キラキラと光る花火。
煌びやかなそのお芝居に、僕はすぐに心がいっぱいになった。
「ブラネ様、ガーネット様、そしてアレクサンドリアの皆様、ごきげんよう!」
だけどその中でも、一際キラキラとするものがあった。
それは舞台に立つひとりの女の人。
綺麗な声だった。
そして、指の先まで見惚れてしまうくらいに優雅に舞う。
演技もくるくる表情が変わって、見ていて楽しい気分になる。
「それっ」
その時、そのお姉さんの手からパアッと魔法が溢れ出した。
キラキラと輝くそれは舞台中に光って、お姉さんにも降り注ぐ。
気が付いたら僕は、そのお姉さんのことをじっと見つめていた。
多分、目を奪われるってこういうことを言うのかなって、そんなことを思ってしまうくらいに。
だけど、今まで一度も考えた事も無かったそんな気持ち。
でも今僕は確かにそんなことをと考えていた。
そしてその時、じっと見つめていたその視線がぱちっとぶつかるった気がした。
「…あっ」
思わず出てしまった声。
すると隣にいたパックがこちらに振り返った。
「なんだよ、ビビ」
「う、ううん…なんでも」
あのお姉さんと目があった気がする。
もしそんなことを言ったら、気のせいだってパックに笑われてしまうかな。
お腹のあたりで手を包むように握る。
なんだか、今まで感じた事のないはじめて気持ちだ。
なんだろう…。
ふわふわして、でもとてもあたたかい感じ。
名前の知らないその気持ち。
僕はそっと手を当てて、ほっと肩を撫で下ろした。
END
ビビには役者さんってキラキラして見えてそうだなあって。
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