血の臭い。
何度も嗅いで、慣れてる自分。

でも…何度嗅いでも好きになれない。





「…あった」





そんな、悲しい場所。
爆煙の砂埃の中で、キラッと光った小さなもの。

あたしはそれを拾い、そっと、大切に仕舞った。



…ノーウィングタグ。



朱雀の民の、ここに自分はいたと証明するもの。命の証。

風が吹いて、ざあっと背中の黄色いマントがなびいた。

黄色いマントは8組の証。
8組は、ノーウィングタグを回収するクラス。

大切な人たちに忘れられてしまった誰かの…ここにいたって証を、探して守るクラス。

少し、他のクラスと比べて変わった役目を背負ってる。
でも、あたしはこの役目…結構気に入っていた。





「貴方が此処に居たという証、お預かりします」





タグを握り締め、そっと呟く。

刻まれた名前は、知らないもの。

もしかしたら、知っていた人なのかもしれない。
本当に知らない人なのかもしれない。

それはわからないけど、あたしがコレを届ける事で、この人は生きていた事を証明される。

誰からも忘れられてしまっても。
せめて記録には残す事が出来る。

クリスタルの慈悲…。
少し寂しいような気もするけど、有難い…事なのだとは思う。

だって、誰かと別れるのは寂しい。
死と言うものは、その永遠を意味する。

戦争中、それがいくつも繰り返されたら…きっとあたしたちは、悲しみに押しつぶされてしまうから。


こういう任務についているからかな。
あたしは、だからこそ…大切な誰かと過ごす時間を噛み締めたいと思ってた。

相手が死んでしまったら、全部忘れてしまう。
こんな世の中なら…そんな日は、すぐ傍にあるのも事実。

だけど…だからこそ、その人との思い出では、刻める時に刻んでおきたい。
どんなに大好きでも、大切でも、言葉に出来なくなってしまうから。

だから、相手への厚意、好意は…すぐに伝えたいって思う。

まあ、あたしの性格と相重なって…ちょっと落ち着けって言われちゃうんだけど。

でも、そう思ってるから…出会ったあの日、気になった君にもすぐに伝えた。





「…っウォール!」





その時、近くで銃声が聞こえて、あたしは慌てて魔法で壁を張った。

あたしが死んだら、手の中のタグは誰が届けるのって話だ。
それに…帰って、会いたい人がいる。

もっと沢山、一緒にいる時間を大切にしたい人が。





「エース…」





折角、仲良くなれた。
…この気持ちへの答え、探してくれるって言ってくれた。

君が、あたしの帰りを待つと言ってくれた。
今、こんなに嬉しい事は、きっと無い。

遠くで聞こえる銃声を聞きながら、あたしは君を思い浮かべた。



To be continued
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