楽しみにする明日
「神羅は……終わりました」
ハイウインドの中。
ケット・シーはそう静かに呟いた。
ルーファウスはウェポンの攻撃に巻き込まれ、ハイデッカーとスカーレットは搭乗していた兵器の損傷による爆発。
宝条は、言うまでもない。
ケット・シーこと、リーブさんを残し重役を失った神羅は壊滅を余儀なくされた。
「メテオが落ちてくるまであと…」
「あと7日って、じっちゃんが言ってた」
メテオを見上げたクラウドに答えたレッドXIII。
あと7日…。
残された時間は、もう本当に僅か。
事態の大きさに重苦しい雰囲気が流れる。
あたしも…胸にズン、とした何かを感じて流石に騒ぐ気にはなれなかった。
クラウドはゆっくり赤い彼に歩み寄り、そっと頭を撫で聞いた。
「なあ、レッドXIII。コスモキャニオンの人達に会いたいか?」
クラウドのその問いかけにレッドXIIIは少し俯き、小さく「……うん」と頷いた。
それを見たクラウドは今度はバレットに視線を向け、同じような台詞を投げかけた。
「マリンに会いたいだろ?」
「そんな事聞くなよ」
バレットはガシガシ、と雑に頭の後ろを掻いた。
聞くまでもなく…会いたい、だろうな。
他の皆もきっとそうなんだろう。
家族とか、同郷の人とか、そういう人に会いたい気持ちが膨らんでる…んだと思う。
クラウドはまた、メテオの浮かぶ空を見上げて皆に語りかけた。
「俺達がセフィロスを倒して…そしてホーリーを解き放たないと7日後にはこの星そのものが死んでしまう。俺達がセフィロスを倒せない…。それは…俺達が死ぬと言う事だ。メテオで死んでしまう人達より何日か先に、だ」
セフィロスを倒せなかったら…。
確かにそうだ。
死に方が、変わるだけ。
明るいとはお世辞にも言えない発言。
それを聞いたバレットは、クラウドに怒鳴った。
「戦う前から負ける事考えるんじゃねえ!」
「違う!」
クラウドは即時に否定した。
強く声を出し、首を横に振った。
クラウドの言いたいことは、もっと違うところにあるらしい。
「俺は…、何て言うか…皆が何のために戦っているのか。それをわかって欲しいんだ。星を救う…星の未来のため…確かにその通りなんだと思う。でも、本当は、本当はどうなんだろう?」
何のために、戦っているのか?
皆、クラウドに視線を集め、その声に耳を傾けた。
クラウドは静かに、自分の想いを吐きだしていった。
「俺にとっては、これは個人的な戦いなんだ。セフィロスを倒す。過去との完全な決別。それが星を救う事に繋がっているんだ。俺、考えたんだ。やっぱり俺達は自分のために戦っているんだ。自分と…自分が大切にしている誰か?何か?そのために戦う。そのために星を救う戦いを続けているんだ」
星のため。それは間違いじゃないけれど、根本的なところを見ていくと…もっともっとシンプルな答えが出てくるのではないか。
自分と、大切な誰か、何かのために戦う。
そう言ったクラウドの言葉は、皆の胸に響いたようだった。
そこにいる全員が思い出し、考える様に真剣な顔つきになった。
「確かに…星を救うってのは、何となく格好いいよな。でも俺に出来たのはあの、魔晄炉爆破だ…。今となっちゃあ、あんなやり方はいけなかって事は良くわかる。仲間達や関係ない大勢の人間を不幸にしちまった…」
バレットも考える。
過去を振り返って、反省して、どうして戦ってるのかを。
「……最初は神羅への復讐だった。俺の故郷を奪ったよ。でも、今は…そうだぜ。俺はマリンのために戦ってるんだ。マリンのために…。マリンの未来のために…。そうか…俺はマリンのために星を救う戦いをしてるのか…」
バレットの答えを聞いたクラウドは頷いた。
「会いに行けよ。その気持ち、確かめてこいよ。皆も、一度船を降りてそして自分の戦う理由…、それを確かめて欲しいんだ。そうしたら、帰ってきて欲しい」
ふ…、と吐き出された煙草の煙が空に溶けた。
肺の中を片付けたシドがクラウドに問う。
「誰も戻って来ないかもしれねえぜ。メテオでどうせ死んじまう。無駄なあがきは止めようってよ」
「俺は自分が戦う理由を知っている。紛れもなく、星を救うために戦う。でも、その中には個人的な…とても個人的な俺の想いがあるんだ。皆は…どうだ?俺は皆にも、そういうものを見つけてきて欲しいんだ。見つからなかったら仕方がない。理由なしでは戦えないだろ?だから、帰ってこなくても…仕方がないよ」
こうして、クラウドの話を聞いた皆は、一度ハイウインドを降りた。
大切な場所、大切な、待ってくれている誰かのところへ。
あたしは……。
「ここ、一回も使ってないんだよなー」
ハイウインドを降りず、中にいた。
でも、ハイウインドの中でもなかなか特殊な場所。
漂うのは草のニオイ。
本来なら、あの特有のあったかいニオイに包まれている場所なんだろうけど…。
バタバタしてて、一回も使われてない場所。
「チョコボ…、一羽くらい捕まえても良かったかなー」
すとん、と腰を降ろして一か所に敷かれた草を撫でた。
そう。
ここはハイウインド内に設置されてるチョコボの厩舎。
あたしは隠れるように、そこにぼけーっと座り込んでた。
「……ふー…、さーて、どーしたもんかねー…と」
ぼそぼそーっと呟いた。
だってあたし、行くとこないんだもん。
故郷はミッドガル。
でも住んでた7番街はスラムも含めてまるまるっともう残って無い。
家族もいない。
知り合いもいない。
だから行くとこなんてないんだバッキャロー!!!
…て、ヤケクソか…。
「…はー」
なんとなく、途方に暮れて溜め息をついた。
ちなみに、同じような理由でクラウドとティファもハイウインドに残ってる。
でもあたしはそこから逃げてきた。
だって邪魔したくないもん!
ていうか空気読めやって話だと思うんだよね。
最初は、ユフィかレッドXIII辺りに頼んでついていこうかなー…とか考えたけど、この状況でそんな…ねえ?
皆遊びに帰るんじゃないんだし、それだって空気読めお前だよ…。
そもそも…奴らは降りる前にこんなことを言い残していった。
《ナマエ。ナマエはどーするの?》
聞いてきたのはレッドXIIIだった。
でもあたしがそれに答える前に、ユフィがずいずいっと詰め寄ってきた。
《ていうかさー、もうこの際だからハッキリ言うけど、ナマエ、クラウドのこと好きなんだろ!》
《んな…!》
指さされてビシ!と指摘されて。
ぎょっくん…!みたいな…。
クラウドとティファを含め、皆が傍にいないのが救いだったなアレは…。
《もうなんか、じっれったいっつーか、通り越してイライラするよ!》
《んなこと言われても…別に…》
《まだ白を切んのかこのヤロー!》
《うわあああ!?ギブギブギブ!!》
忍者娘…物凄い勢いでヘッドロック掛けてきた…。
忍者の癖にどこで覚えたそんなもん。ていうかすげー力だったよ、あの子…。
あまりの強硬にレッドXIIIも若干困惑してたからね!?
《とにかく!こんな時なんだからもう言っちゃえよ!言わないならあたしが血祭に上げてやる!》
《コワッ?!あ…でも生者必滅じゃなくて良かったよーな》
《そっちでもいいけど?》
《…心から遠慮させていただきます》
深々と頭を下げた。
メテオでもなくセフィロスでもなくユフィに殺られるってどーゆーことなの?!
そんなまさかの展開イヤだよ!!
《クラウドが言ってきてくれればいいのにね》
《レッド…そんなありえない話をするんじゃないよ…》
《…そっか、そっちもアリか》
《え、ちょ、ユフィさん?》
《よーし、クラウドに一発蹴り入れてくる!》
《うわー!?やめー!!?》
なんなんだ、あの子は…。
羽交い締めにして何とか止めたよ、まったくもう…。
《オイラはありえなくないと思うけどな…》
《…あたしも》
《…どーしてさ?》
《クラウド、いっつもナマエのこと気に掛けてるよ?》
《…クラウドは全員のこと気に掛けてると思うに一票です》
《そりゃそーだけど…あー!もう、なんでそう頑ななんだよ!》
《ナマエには特に、だよ?》
《…そんなこと、ないよ》
《《………。》》
…心配してくれてる気持ちもわかる…。
それは本当に嬉しいんだよ。
でも…こんな時だからこそ…もう言わなくたっていいと思うんだ。
…ふたりの見送りはこんな感じだった。
ふたりはウータイとコスモキャニオンっていう帰る場所が合って、守りたい人がいて。
でも、ふたりだけじゃなくて皆…、有意義な時間を確かめて、噛みしめられればいいな…と思った。
「………。」
ひとりになって、しん…として。
そして色々考えた。
クラウドがさっき言ってた事、よくわかるんだ。
それに、すごく良い事を言ってると思った。
自分が何のために戦ってるのか、ちゃんと確かめる。
その理由があれば迷わないし、きっと全力を尽くせるから。
…でも、そう考えた時…、あたしは道を見失った。
だって、戦ってる理由、わからなくなったから。
そもそも、あたしはこの旅をしてる理由だって曖昧だし。
流れに任せるまま、ただ皆についてきただけ、なんだよ。
帰る場所もないから、ただついてきた。
明確な理由もなく、ただ、ただ…。
ただ、戦ってた。
…だから、クラウドに戦う理由を確かめろと言われた時…、酷く胸が痛くなった。
なんか…避けてた問題に、突き当たった気がした。
気付いてしまったら、目は逸らせない。
…本当に。
…理由なしじゃ、戦えない…。
「…どうしよ…かな」
ぼー…と考える。
シドの言ってた言葉がこだました。
どうせメテオで死んじゃうなら、無駄な足掻きはやめよう。
ぶっちゃけた話、今のあたしはそっちの方がしっくりきた。
だって、戦う理由もないのに戦っても仕方ない。
帰る場所もない。
死にたくは…ない。
でも、このまま死んでしまったとても…特に影響はないんだ。
特に、描く未来もない。
描きたい未来もない。
うわあ…あたし暗っ…!
…そうやって思う自分もいるけど…。
…でも、事実だから…仕方なかった。
死にたくは無いけど…。
あたしって、死んでしまっても…なんにもないのかもしれない…。
「あ…」
その時、ふと思い出したものがあった。
いつも邪魔にならないように腰に身に着けていた小さなポーチ。
その中に手を突っ込んで、大事にしまっておいた物を出した。
「…エアリス」
指に絡めたピンクのリボン。
祭壇で拾ってから、ずっとあたしが持ってる。
「どうすればいいかなあ、エアリス」
エアリスなら、どうしたんだろう?
今のあたし見たら、怒るかな?
死んでもいいなんて考えるなって。
いや、決して死んでもいいと…思ってるわけじゃない。
エアリスも…きっとそうだったんだと思う。
「エアリスは…戻ってくるつもりだったんだよね?」
リボンに向かって話しかける。
エアリスは、きっと…あの場所で死ぬ気なんかなかったんだ。
前にティファが「エアリスは誰よりも明日の事を話していた。明日を楽しみにしていた」って言ってた。
それ聞いた時…その通りだな、って思った。
エアリス…。
エアリスのホーリー…、解き放たなきゃならない。
でも、その先に何があるのかな?
エアリスが残してくれたもの、何とかしたいって気持ちはある。
ここまで一緒に歩いてきた皆…、皆が死んじゃうのも嫌だ。
だけど…楽しみにする明日が…、見つからないんだ。
ひとりで旅でもする?
どこかでひっそりと暮らすとか?
全然しっくりこない。
ていうかそれ…別に楽しみじゃ、ないよな…。
「戦う理由…か…」
リボンは、大切にしまった。
あたしの戦う理由って、いったいなんなのだろう…?
そもそも、あるのかな。
答えは出ないまま、時間だけが流れていった。
To be continued
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