歪んだ愛情



「宝条!そこまでだ!」





白衣をまとい、中心の縫い目に沿う様に束ねた黒髪がかかる背中。
その背中に向かって、クラウドが叫んだ。

辿り着いた目的地。
あたしはそこに、クラウドとヴィンセントと一緒に立っていた。

螺旋トンネルを越えた先に待ちかまえていたハイデッカーとスカーレット。
対ウェポン用だという兵器プラウド・クラッドを用意してきた彼らは、今頃他の皆が相手をしてくれている。

あたしたちは、宝条を止めるために先に走った。





「ああ…、失敗作か」





クラウドの声に気がついた宝条は、そう言い捨てた。
でも手を動かし作業は止めることなく、背を向けたまま。

それが酷く気に障った。





「…失敗作…?」




宝条の言葉を繰り返すように呟いた。
クラウドに向られけたその言葉。

それを聞いてカチン、とした。





「ちょっと…!クラウドのこと何だと思ってんの!?」

「失敗作だから失敗作だと言ったまでだが?」

「なっ…!」

「ナマエ」





腹が立った。
だから更に言い返そうとした。

でも。





「…クラウド」

「…ありがとう」





でもクラウドに制された。
見上げたクラウドは優しい顔をしてたから、あたしは我慢して噤んだ。





「名前くらい覚えろ!俺はクラウドだ!」





それに代わるように、クラウドは自分で言い返した。
でも、宝条の答えはそれに伴ったものじゃない。





「お前を見ると私は…、私は自分の科学的センスのなさを痛感させられる…。私はお前を失敗作だと判断した。だが、セフィロス・コピーとして機能したのはお前だけ…。クックックッ……自分が嫌になるよ」





屈辱そうに、でもどこか諦めもついているかのように笑みを含む宝条。

でも、コイツの劣等感なんか正直どうでもよかった。
ていうか興味無いっつの、ていうのが本音。

それよりもクラウドを失敗作呼ばわりした事へのイラつきのほうがずっと大きい。

クラウドはキッ…と宝条を強い目で睨んだ。





「何でもいいからこんな事は止めろ!」

「……こんな事?」





そこでやっと、宝条は目線をこっちに向けた。
そして自分のしている行為を見つめると、ニイッと口角を上げた。





「おお、これか?クックックッ…セフィロスはエネルギーを必要としているようだからな。私が少しばかり力を貸してやるのだ」

「何故だ!何故そんな事を!」

「何故何故とうるさい奴だ…。…ふむ…、科学者に向いているのかもしれないな」





宝条はゆら…と立ち上がり、振り返ってクラウドの顔を一度だけ見つめた。

でもまたすぐに再びキャノンの装置に目を戻す。





「エネルギーレベルは……83%か。時間がかかりすぎだ」





そして、声色ひとつ変えることなく…驚きの一言を放った。





「息子が力を必要としている。……理由はそれだけだ」

「……息子?」





クラウドが繰り返した。
あたしは言葉の意味を一瞬で理解出来なかった。

だって…え、ちょっと待って…。

あたしの混乱なんて、きっと気付いてもいない。
宝条は、また笑いだした。





「クックック……あいつは知らないがな」





その笑い声は、どんどん大きく、高らかになっていく。





「クックック……クァックァックァッ!!セフィロスの奴、私が父親だと知ったらどう思うかな。あいつは私の事を見下していたからな。クァックァックァッ!!」





息子…。私が父親…。
セフィロスの…父親…!?

あたしは目を見開いた。





「セフィロスがあんたの息子!?」

「…うそ…っ」





クラウドも驚きが隠せないみたいだった。

息子…って。
セフィロスって…宝条の、息子…だったの…!?

でもそう驚く一方で、高くなっていく笑い声に…見てて、なんとなくゾッとした。

狂気だ…。
そんな言葉が、ぴったりだと思った。





「………。」

「…ヴィンセント?」





その時、赤いマントが揺れた。

いままで黙っていたヴィンセント。
変わらず黙ったままだったけど、彼が一歩前に出たからだ。

ヴィンセントはじっと、表情を変えずに宝条の姿を見据えていた。

宝条は高らかに続きを語っていく。





「クックック……、私の子を身ごもった女をガストのジェノバ・プロジェクトに提供したのだ。クックッ…セフィロスがまだ母親の胎内にいる頃にジェノバ細胞を…クァックァックァッ!!」





狂気の口から語られていく真実に、胸が締め付けられそうになった。

身ごもった女…。
セフィロスが胎児の時…。

だって…あたしはまだお母さんじゃないけど、でも女として…身ごもった女なんて、そんな言い方されるのは耐え難かった。

それに…胎児をジェノバの実験に…。





「…き、貴様…っ」

「…ヴィンセント…」





そこまで聞いて、初めてヴィンセントの表情が変わった。
崩すことなく黙っていた声に感情が滲み出す。





「あんたがこんな事をしているのは…セフィロスへの罪滅ぼし…」





クラウドが呟いた。

罪滅ぼし…。
だから息子に…力を貸してる?
つまり、父親は父親ってこと…?

でも宝条は、その言葉に更に笑いを高くした。
まるでクラウドが、何かおかしな事でも言ったかのように。





「ヒーッヒッヒッヒッ!違う違う!科学者としての欲望だ!ヒーッヒッヒッヒッ!」





狂い笑うその姿に、体が震えるのを感じてぎゅっと自分の体を抱きしめた。

この人…怖い…。
歪んでる…、どこまでも…。





「…ナマエ」

「え…?」





クラウドは、それに気がついて声を掛けてくれた。

見上げると、気遣ってくれる瞳。
映った背中は大きくて、そこで少し…改めて実感した。

やっぱりクラウドは…、クラウドが優しいのは…元々なんだって。

こんなに優しいクラウドに、自分を見失わせる原因を作った。
挙句の果てに失敗作と呼んだ。

嫌悪が強くなった。





「…私は……間違っていた」





その時、ヴィンセントが視線を下に、俯き気味に低く呟いた。

右手が、腰に掛けられた銃にへと伸びる。
そのままカチャ…と、銃口が宝条に向けられた。





「眠るべきだったのは……貴様だ、宝条……!」





詰まるような声。

でも宝条はその声にも反応しない。
銃口を向けられていることにも怯えを見せない。

ただ、どんどん狂いだけが酷くなる。





「私は…ヒッ、ヒック!科学者としての欲望に負けた。この間もな、負けてしまった。自分の身体にジェノバ細胞を注入してみたのだ!ヒーッヒッヒッヒッ!結果を…ヒーッヒッヒッヒッ!見せてやろう!!クァックァックァッ!!」





自分にまでジェノバ細胞を注入した…。

この人…何言ってるんだろう。
何を、しているんだろう。

でも、そんなこと考えてる暇は無かった。





「……あ…」





恐怖で、震えた声が落ちた。

宝条の体は、みるみるその姿を変えていた。
膨れ上がる様に強大化し、禍々しく…もう人の原型なんか、留めてないほどに。

気持ちが悪い…。
それが率直な感想だった。





「…ナマエ、大丈夫か?」

「え…っ?」

「…戦えるか」





気分が悪くなって口元を押さえた。
でもその時、背中から剣を抜いたクラウドにそう聞かれてハッとした。

そうだ…。
…こんなとこで、固まってる場合じゃないでしょーが。

止めに来たんだよ。
…しっかりしろ。

あたしは腰に掛けたソードに手の掛けて、気遣ってくれたクラウドに強気に笑った。





「うん、平気!戦えるよ!」

「そうか…?」

「うん!ありがと、クラウド!」





もう大丈夫。
そうやって気丈に顔を上げれば、クラウドも頷き返してくれた。

それと、もうひとり。
あたしは彼の名を叫んだ。




「ヴィンセント!」

「…ああ、手伝ってくれるか。…ナマエ」

「もちろん!」





ふたつの剣先と、銃口が向く。






「いくぞ!」





クラウドの掛け声を合図に、あたしたちは宝条に向かって走り出した。















「宝条……永遠に眠れ……」





煙を吹く銃。
それをヴィンセントはクル…と器用に回転させ、バレルを冷ましホルスターに収めた。

宝条は消滅した。
最後のケリは、ヴィンセントがつけた。





「…ねえ…ヴィンセント」





しばらくの間、少しだけ流れた沈黙。

それを破って、あたしは赤い彼に声をかけた。

ヴィンセントも、クラウドも。
こちらに視線を動かした。





「…ヴィンセントは…宝条とセフィロスの事…、知ってたんだね」

「……ああ」





ヴィンセントはすぐ頷いた。

…ああ、やっぱり…。
そう思った。

なんとなく読めた。
さっき、ヴィンセントが怒りを露わにしたワケ。

宝条とセフィロス…。
そして…ルクレツィアさん。

ヴィンセントはそれを…見ている事しか、出来なかった。

ルクレツィアさんが、宝条といて幸せなら…それで良かったんだね。
でも…宝条は、ルクレツィアさんを…実験としての対象としか見ていない様な発言をしたから。





「ナマエ…、今一度…お前には感謝しよう…」

「…え…?」

「…私は先程、自分の過ちに気がついた。眠っていた私に、それに気付く機会を与えてくれた。…これで、いいのだろう…」

「…ヴィンセント」





宝条が消えて、キャノンも落ち着いた。
もう爆発の危険はない。

静かになったシスター・レイ。
少し冷たい風が、その熱を冷ましていった。



To be continued


ここは絶対ヴィンいれる。


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