きみのために出来ること



「皆さん、ありがとう。本当にありがとう」





おじさんに手を握られ、強く感謝されるシド。
その様子に「どってことねえよ」と笑った。





「つーか、大半の敵倒したの…コイツだしな」

「ナマエ…凄かったよね」

「ん?」





先程手に入れたフェニックスの召喚マテリアを眺めていたら、シドとレッドXIIIが何か変な視線をこっちに向けていることに気がついた。

…なんだよ、その顔。
なんかちょっとドン引いてるっていうかさ。
せっかく頑張ったのに、失礼な!

そう。確かにあたしは、ここ、コンドルフォートにて多くの敵をなぎ倒した。

コレルでのヒュージマテリアは無事に回収できたから、次の目的地はコンドルフォートだった。

コンドルフォートで神羅側は、魔晄炉を破壊して中からマテリアを取り出すという作戦を立てていたらしく、あたしたちはそれを阻止するために戦った。

一方、コンドルフォートに住む人々は、コンドルの生命の営みを守りたかったらしく、巣がある魔晄炉の破壊を拒んだ。

だから結果、神羅を撃退したあたしたちは感謝を受けている、という話。





「言ったじゃん、暴れたい気分だって。試したい技もあったんだよ。今、色々考えてんの」

「まあ…ヒュージマテリアは俺達の手にある。命もある。それでいいわな」

「そうそう」





シドの言葉にあたしは笑った。

皆無事で作戦もクリア。
これって大成功だ。

あたし的には、新しい技も良い感じに決まったし。
これから取り入れていこうと個人的にもご機嫌だ。





「さーて、神羅が狙うヒュージマテリア…後はジュノンの海底魔晄炉のみ、ってか?」

「先回りして止めなきゃ」





指を折りながら残りを確認するシドに、ユフィが頷く。

でもシドは少し考えて、リーダーらしく一度状況を見直した。





「でもよ、いちいち俺様達が邪魔するからよ、神羅だって少しは警戒してる筈だぜ。ここは、ちっとばかり間をおいて…その間に、アイツのところへ行ってみねえか?」




アイツ。
それを聞いて、あたしはすぐに尋ね返した。





「…クラウドのとこ?」

「おう。それにティファもぶっ倒れちまってんじゃねえかと心配だしよ。で、様子を見に行ってみねえか?」





それは最もな考えだと思った。

確かにあれから、まだ一度も見に行っていない。
たまに見に行くってティファに言ったのに、これじゃティファまで壊れちゃう。

だからすぐに賛成した。





「賛成。行ってみよ」

「でもこれから?もう日が暮れるよ?」





窓から外を覗いたレッドXIIIが空を見る。
その通り、もう空は少しずつオレンジが射してきていた。

今からミディールに行っても確実に夜中だ。





「ばーろ!明日に決まってんだろ。神羅と戦ったばっかで疲れだって溜まってる。明日朝一でミディールに向かう。決まりだな!」





こうしてヒュージマテリアを持って、あたしたちはハイウインドに戻り、早めに休むことにした。


でもその夜、あたしはなんとなく…変な時間に目が覚めてしまった。

大暴れして疲れてたはずだったんだけど、っていうか休まなきゃいけないんだけど…何故かすっかり目が冴えちゃってた。





「はあっ…!よっ…!そりゃっ!」





チャキ…、
月の明るい夜…。風を切る音に、刃を構える。

だからハイウインドから降りて素振り…なんてことをしてみた。

こういうのは基礎が大事だからね。
たまにやれば初心に帰れるし、眠気も戻って一石二鳥。

あたしってば頭いいー!とか思いながら、思いっきり格好つけてソードを振るった。





「何をしている」

「!?」





でも、次に振るった瞬間…急に背中の方で声がした。
ふっ…決まった…!みたいなこと考えてたから思いっきり肩がびくっとした。





「…驚かせたか」

「え、あ…」





慌てて振り向くと、そこには赤い何かがなびいていた。

暗闇の中でなびくそれは妙に不気味で…。
ドラキュラか!?なんて一瞬顔が引きつったけど、目があって落ち着いた。





「なーんだ、ヴィンセントか…。びっくりした」

「…すまんな」

「いーえ」





特に表情に変化があったわけじゃないけど、本当に申し訳なさそうな風に思ってる様に見えた。

だからあたしは笑いながら首を振った。
うーん、本当、だいぶこの人にも慣れてきたなとしみじみ思った。





「こんな時間に素振りか」

「あー、目が覚めちゃって。動いたら眠気も戻るかな…と」

「逆にもっと冴えるかもしれないぞ」

「あれ!?それは盲点だった…!あんまり効果なかったら大人しく布団に戻ります…」

「そうした方がいいな」





ヴィンセントはそう言いながら、傍にあった岩に腰を下ろした。

背後には月が映る。

本当この人、夜とか似合うなあ…。
物凄いどうでもいい話だけどね。





「…私の顔に何かついているか」

「ううん。大丈夫。なんにもついてないよ。ただ、ヴィンセントは強いよなーと思って」

「…一応、元タークスだからな」

「本当、伊達じゃないよね?」





タークスって、なんか独特の雰囲気持ってて、微妙に変な部分もあるけど…。

レノもルードも結構強いし。
わりとオールラウンダーなイメージがある。

ヴィンセントも然り、だ。





「ねー…ヴィンセント。あたし、何か武器増やしたいな」

「武器?」

「うん。銃、教えてくれない?」





ソードを鞘にしまって、ヴィンセントの腰にある銃を指さした。
するとヴィンセントはホルダーから銃と取り出し、あたしと銃を見比べた。





「…構わないが、お前はそれで充分じゃないのか。初めてお前の戦い方を見た時は感心したものだが…」

「嘘!初めて聞いた!お誉めに預かり光栄です」

「…最も、一番買っているのはクラウドだろうがな」

「それは…、どーかなー」





誉めて貰えるのは嬉しいけどね、そう最後につけたしてあたしは笑った。
そして、自分の手にあるソードに目を向けた。





「…まあね、自分でもそれなりには自信持ってるんだ」

「ああ、自負しても構わん腕だろう」

「けど、それ以外に誇れるものってなんだろーなーって思った時…、なーんか何も思いつかなくてさ。頭はそんなに良くないし、落ち着きも無いし?騒ぐか戦うか…なんか考えたら虚しくなったけど…」

「……。」

「だからせめて、数少ない特化してる部分の強化が出来たらな…って?ソードでも勿論、新しい技考えてたりするんだけど」





そう、だから…コンドルフォートで人一倍動いた。
今の素振りも、そんな理由も含んでる。





「でもソードじゃ、こう…どうしてもリーチに問題出てくるじゃん?だから、中距離、遠距離でも役に立てるように…銃がちゃんと扱えたらいいなあ…なんて」





そうしたらせめて…そういう部分では。
少しくらい頼りに、役に立てるんじゃないかなって。





「…クラウドの、か」

「…いやいやいや、皆の!」





なんかグサッと図星さんに襲われた。

でも慌てて首を振った。
いやいやいやいや…皆の、ってのも嘘じゃない…!

仲間の為だ、仲間の為!





「ヒュージマテリアだけじゃなくてさ、復帰する頃に銃も使えるようになってたらクラウドもティファも驚かせるかなーみたいなのはあるけどね」

「…レッドXIIIとユフィが言っていたが、」

「え…!?」





無視!?!?

いきなりスルーされた言葉のキャッチボール。
そして飛んできた新しいボールに若干困惑させられた。

だけどあたしは頑張って、慌ててそれを掴んだ。





「え…と、レッドとユフィ…?」

「まあ…言っていたと言っても、たまたま聞こえただけだが…。ナマエのことを話していた」

「…あたしのこと?」

「ナマエは何かを気にしてる。引っかかるのは『あたしがここいたって…何も出来ないしさ』という言葉だと」

「へ…」





それはミディールで飛空艇に戻る途中にあたしが言った言葉。
少しだけ、心臓が波打った気がした。





「何となく、その部分が気になったそうだ。まあ…斯く言う私もだが」

「え…?」

「そこだけ、自嘲的な印象を覚えた」

「自嘲、的…」





全然、意識してなかったけど…そんな風に、聞こえてたのか。

でも、心当たりは…無いわけじゃない、かもしれない。
だってその部分は、あたしの本音でもあったから。





「ユフィは意地でもその理由を聞きだすと初めは騒いでいたが、レッドXIIIがきっと教えてくれないだろうし、ナマエが触れたくない話なら無理にしたくないと諭していた」

「…そうだったんだ」





そんなに、気にしてくれてたのか…あのふたり。
ふとハイウインドを見上げると、ヴィンセントは静かに笑みをこぼした。





「私には…この手の話にとやかく言う資格は無いが…」

「え?」

「銃…覚えたいのなら教えてやろう。私でよければな」

「え、ほんと!?」

「ああ、だが…クラウドが戻ってきたらだ」

「それじゃビックリさせられないよ!?」





やった、お許しだ!
と思ったら、まさかの条件付き。

なんでクラウドが戻ってきたらなんだ。





「クラウドに、役に立ちたいから頑張ると話せ」

「どーして?」

「でないとクラウドに悪い」

「はあ…?」

「そろそろ寝ろ。明日は早いのだろう」

「え、ちょ、ヴィンセント!?」





謎の言葉を残し、ヴィンセントは先にハイウインドに戻って行ってしまった。

残されたあたしは一人佇む。
ひゅるー…と、寂しい風が吹いた。





「意味が、わからない…」





ぼけっと呟いて、金色の月を見た。



To be continued


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