空虚の信じてる



《俺には…信じてくれる人がいる…。ナマエは、俺を信じてくれてる…。そうだよな?》





セフィロスが創りだした幻影の中で…クラウドに言われたその言葉。

ずっと、頭のなかでこだました。
どくん…って、心臓が嫌な音を立てた。

なにかがか込み上げてきたような…そんな感じがした。





「………ふう、」





ため息が出た。

あたしはハイウインドの中に戻ってくると、いち早く小さな空き部屋に駆けこんだ。
珍しく…ひとりになりたい、そんな気分になったから。






「…はー…っ、」





また、ため息が出た。

ああ…またついちゃった。
幸せ逃げるぞー、まったくもう…なんて。

こうなると溜め息に溜め息つきたくなってくる。

そんなこと考えながら思うのはミディールに残してきた彼らのこと。
ミディールに残してきたクラウドとティファ。

あれから…簡単にみんなに事情を説明して、ハイウインドは再び空に飛び上がった。

ぱたんと小部屋の扉を閉めて寄りかかる。
そのまま、すとん…としゃがみこんだ。

そして、胸に触れた。
最近時々感じてた、変な痛み…その理由がわかった。

いや…わかんなかったんじゃなくて、見ないふりしてたんだと思う。…たぶん。





《…うん。…信じてるよ》





あたしはクラウドにそう言った。

セフィロスの幻覚の中で、不安そうなクラウドにそう言って頷いた。
握られた手から、少しでも安心が伝わるように。

でもセフィロスはそれを見て…喜劇でも見ているかのように、笑った。





《よく考えてみろ。その娘にすがったところで、お前の探す答えなど無い》

《すがって何になる?ふっ…信じる、だと?クックックッ、曖昧だな…。》

《クックックッ…お前には何も出来ぬさ。哀れな娘よ》





薄く笑いながら、楽しそうに…セフィロスは言っていた。





「…曖昧…か…」





その言葉を思い出して、あたしはカシカシ…頭掻いた。

………曖昧、ね…。

思い出したら、なんか凹んだ…。

その言葉に…あたし、上手く言い返せなかった。
だって…その通りだって、少しでも思っちゃったから。

…そう、思っちゃったんだよね…。





「……空虚…だなあ…」





何気なく呟いた。
今、そんな言葉が頭を過ぎったから。

そしたら何か…苦笑いが出て来た。

ああ…そうだ。
それは空虚だろう。

…空虚の、信じてる…。

あたしの《信じる》は…空虚だ。
まやかしみたいな、中身の無い…形だけ。

どんなに言葉を重ねたところで、気休めにしかならない。





《…ナマエは…俺のこと、止めてくれるって…。信じてるって…言ってくれただろ?》

《俺のこと、信じてくれて…感謝してる》

《俺…たぶん、結構あんたに…励まされてるから》





あたし…クラウドが頼ってくれたのに…、それに応えられなかった。
嬉しかったのに…。任せてなんて言って…笑って。

だから後ろめたくなった。
だからクラウドに合わせる顔がなくなった。

ティファの事だって、たまに様子が変なの気付いてたのに。
もっともっと早く…ちゃんと、聞いてあげればよかったのに…。





「…はーあ…っ…」





頭と心がぐるぐるして、またすっごい大きな溜め息がでた。
だからそのまま、体育座りしてた膝に少しだけ顔をうずめた。

なんか、あれこれ考えちゃうな…。
でも結局…あたしには助けてあげる力は…なかったってことか。

……そう、なかった。
なかったんだよね…。

…そんな風に思ったら、目の奥が…じわりと熱くなった。





「……クラ、ウド…」





小さく…震えた口から零れた名前。
それは、静かな部屋に小さく虚しく響くだけ。

ぽたり…、雫が落ちた。





「クラウド……クラウド…」





呼びながら、思い浮かべた綺麗な青い目。

空みたく透き通ってて、大好きな色。

あたしね…クラウドのこと見るたび、こっちむけこっちむけ〜…って、変な呪文唱えてったんだよ。
それで目が合うとすっごく嬉しくて、へらっと笑っていつも手を振った。
そうすると、少し呆れたように…でもそっと小さく小さく笑みを溢してくれた。





《う…ああ……?》





でも…さっきは。

今のクラウドは…今の青い瞳は…何も捉えていなかった…。
何も、見てなかった…。

クラウドの心は…もう、どこかに消えてしまった。

ぽた…。
またひとつ…雫が落ちた。





「…クラウド…、…クラウド……クラウド……っ」





まるで馬鹿の一つ覚え…。

息が詰まりながら、何度も彼の名前が零れてくる。

膝に、もっと顔をうずめた。
うずめて、謝った。





「…ごめん、なさいっ…」





…胸の中が、申し訳なさと不甲斐なさ、情けなさでいっぱいになった。

ごめん…ごめんね…クラウド…。
あたし…クラウドの力になりたかったのに…。
あたしじゃ…全然駄目だった…。
あたしじゃ…クラウドの事、助けられない…。
助けられなかったよ…。

セフィロスの言う通り…なにも出来なかった。





「……っ…」





会いたい…。…クラウドに会いたい…。
どんな顔して会えばいいか、全然分かんないけど…。

何も望まない…。
クラウドがいれば、それでいい。

ただ…元気な貴方に会いたい…。

ぽろぽろ、溢れてきた。








「……………はあ…」





それからしばらく泣いた。

泣き疲れて、息をついて、濡れた顔を膝から上げた。
ずっ…と、鼻もすすった。

だって…泣いてるだけじゃ…どうしようもないのは、わかってるから。

意味なんて…なかった…。
あたしの信じてるは…意味なんててなかった、からっぽの信じてるだった…。

クラウドは…自分を信じられなくなっちゃって…。
あたしにも失望したかもしれない。

でも…いくら空虚だったとしても、信じてたって気持ちは嘘じゃない。
それだけは、言いたい。

だって…クラウドに、信じてるって威張ったんだもん。
自分の中でも…それくらいは、嘘にしたくないし…。

…いや、もしかしたら…ちょっとすがってるだけかもしんないけど。

…情けないな、あたし。
自分に呆れて、苦笑いした。

なんだか…己の小ささを思い知った気がした。

いや、そもそもどうして助けられるって…思ってたのかな、あたし。
全然根拠なんかないのに。ある意味すごい自信だな。どこにあったんだか、その自信。

だって何も、大した事なんて出来ないのに。

頼ってくれて嬉しいなんて…。
頼って貰えるほど、力なんて…ないのに。

…クラウドにって言うより、自分に失望しちゃった感じかもしれない。

でも事実は事実。
完全に見失った貴方を、あたしは救えない。

でも、だけど…ティファなら、助けられるかもしれない。
助けてくれる、その可能性があるかもって…思うから。

だって…幼馴染みなんでしょ?星空の下…ふたりで話したんでしょ?
それがふたりの確かな記憶なら…。

それに…ティファは凄いから。
セブンスヘブンに来るお客さんってね、ティファに相談しに訪れる人も多いんだよ。
あたしも、たくさん相談乗って貰ったことあるし。凄く頼りになる、憧れのお姉ちゃん。

だから…ティファなら…見つけてくれる。

それにさ…ティファはクラウドの事…。
…クラウドだって、きっと…。

アバランチを手伝ってたのだって、ティファの頼みだって言ってたし。
うん、ちょっと考えればわかる事だ。

…本当のクラウド、ティファならきっと…。





「…ふーっ…」





大きく息を吐いた。

だから…それで戻ってきたら、ふたりに「よかったね」って言うんだ。

うん…絶対に言おう。





「……うし、」





ぐっ、と溢れる瞼をぬぐう。
気合入れるために、ばちん!と両頬を叩いた。





「…いって…」





頬がひりひりした。

馬鹿だ…。
自分の頬なのに強く叩きすぎた。

…本当、馬鹿だ。
でも馬鹿なりに…他に出来ること、頑張るか…。

ていうかウジウジすんな。
お前がウジウジとか…気持ち悪い以外何者でもない!





「…顔、洗ってこよっと…」





すくっと、立ち上がる。

もともと…期待なんてしてなかったんだから。
少しでも今までが続いて欲しいって思ってたけど、いつか終わりが来る事なんてわかってた。

だから、そんなの気にしない。
そこんとこは大丈夫。むしろ素敵な思い出ありがとう!

クラウドが元気になれば、それが一番嬉しいことだし。
ていうかそれ以上に嬉しいことなんかない!

うん。そうだ。そうだ。

…だから…どうか。
早く、元気になってください。



To be continued


prev next top



×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -