消えていく大切なひと



「行こう、ナマエ、ティファ。俺は……大丈夫だ」





そう言って、前を向いたクラウド。

さっきまでの動揺が嘘みたいに、凄く落ち着いてる。
でも…なにか、変…。

大丈夫…。
そう言うのに、平然としてるのに。
怯えてなんか…無いのに。

…なんで、ぽっかりと空洞みたいに…そんな風に聞こえるんだろう。

よくわからない…漠然とした不安が胸に渦巻いてる。





「………。」





あたしは黙ったまま、ちらっ…と目線をティファに向けた。

ティファの目は、クラウドを見つめていた。
あたしと一緒…どこか、不安そうな目。

クラウドの背中に集まる視線。
その背中は、進もうと動きだす。

利き足がひとつ、前にでた…その瞬間だった。





「……あっ」





思わず声が出た。

え…なんで…?
辺りを見渡すと…透き通るように綺麗な景色。一面水晶みたい…。

急に、目に映る景色…いや、立つ場所が変わった。

もしかして…幻覚が解けた…?
まるで剥がれる様に…変わった。





「ちょっと!何処から来たのよっ!?」





キン、と耳に響いた甲高い声。
振り向けば、そこにいたのは…この人、確か神羅の…スカーレット。





「…さあ」





スカーレットに答えたのはクラウドだった。
クラウドとティファも、一緒にこの場にいた。

そして、神羅側も…スカーレットだけじゃなくて、宝条…それに、あのルーファウスまでいる。
…そういえばルーファウス達もこの北の果てに向かう計画を立ててるっての聞いたっけ。

クラウドはルーファウス達を見渡して、冷静な声で言った。





「ここはあんた達の手には負えない。後は俺に任せてさっさと出て行け」

「…お前に任せる?フッ…良くわからないな」





クラウドの言葉にルーファウスは嘲笑う様に首を振った。

…クラウド、やっぱりなんか…変。
根拠なんてないけどさ。でも…なんか、おかしいよ…。





「ここはリユニオンの最終地点。すべてが終わり、また始まる場所」





呟きながら上を見上げ、クラウドは目を閉じる。

なんか、それ見たら…もっと嫌な予感がした。





「クラウド!」





だから、呼んだ。

でも、振り向いてくれない。
まるで聞こえてないみたいに、届いてない。

嘘…なんで…?





「おう!助けに来てやったぞ!」





その時、待機してたバレットが走って来た。

…助けに来た…?
連絡手段のPHSには触れてないのに。

なんで、バレットが…?
だってバレットは黒マテリア持ってるのに…。

クラウドはバレットに歩み寄っていく。





「ありがとう……バレット。黒マテリアは?」

「大丈夫だ。ちゃんと持ってるぜ」





クラウドに聞かれ、懐を叩くバレット。

あたしはもう一度呼んだ。





「クラウド!」





でも、やっぱり届かない。
それどころか、バレットにも聞こえてない…?

なんで?ちゃんと、叫んでるよ?

ティファは、震えを押さえるように自分の体を抱きしめて…クラウドのこと見つめてる。


クラウドは、バレットに手を差し出した。





「ここからは俺がやる。黒マテリアを……俺に」

「大丈夫か?じゃあ、これ。すげえプレッシャーだったぜ」





そう言われ、バレットは懐から黒マテリアを取り出して、クラウドに渡した。

それを見てぎょっとした。
だって今のクラウドに渡したら、きっと駄目だ…。

でも叫んだって無駄。

…だったら…!





「クラウド!」





駆けだした。

叫んで駄目なら…力ずくでも!
あたし手を伸ばして、黒マテリアを握る彼の手を掴もうとした。





「…ナマエ…」

「…っ!」





でも逆に掴まれた。
クラウドは振り返って、伸ばしかけたあたしの手を掴んだ。

切なそうに、あたしの名前を呟きながら。

…青い目。
ちゃんとこっち、見てる。
目が合ってる。

クラウドは、薄く口を開いた。





「後は俺が…………やります」

「……え?」





目の前で、ぼそっと発せられた声。

…俺が、やります?

意味のわからない言葉に、あたしは眉をひそめた。





「待って下さい、もう少しだけ」

「クラウド、どうしたの…?ねえ、クラウド…!」





どこかに、誰かに了承を得るようにクラウドは呟き続ける。

あたしの声、届いてないの?

クラウドは前を向いて…辺りに居る皆を見渡した。





「みんな、今までありがとう。それに…ごめんなさい。…ごめんなさい。…すいません」





そしてお礼と、謝罪の言葉を繰り返した。

なんで…謝ってるの…?

あまりに静かに繰り返していくそれに、あたしは声が出なくなった。
だってクラウド…寂しくて、悲しくて、でも何かを悟ったような…そんな顔してる。

クラウドはその表情のまま、長い黒髪の彼女を見つめた。





「ティファ……さん」





さん付け…。
気付いたようにつけられたその呼び方。

まっすぐ見つめられたティファは、びくんっ、と肩を跳ね上がらせた。





「色々良くしてくれたのに…何て言ったらいいのか…。…俺、クラウドにはなりきれませんでした」





クラウドはティファに言う。

なりきれなかった…?
なに…言ってんの、クラウド…?





「…いつか何処かで本当のクラウドくんに会えるといいですね」





その言葉に、ティファは力が抜けたように膝をついて、泣き崩れてしまった。

本当の、クラウドくん…って…。
クラウドは…貴方じゃないか。





「クックックッ…素晴らしい…。私の実験がパーフェクトに成功したわけだな。お前、ナンバーはいくつだ?ん?入れ墨は何処だ?」

「…宝条博士…」





その時、宝条博士が何故か嬉しそうにクラウドに語りかけて来た。

…実験…?
ナンバー…?

クラウドは宝条博士に願うような声で返した。





「宝条博士……。俺、ナンバー、ありません。俺、失敗作だから博士がナンバーをくれませんでした」

「何という事だ…。失敗作だけがここまで辿り着いたというのか…」





クラウドの言葉を聞きた途端、宝条の顔色は変わった。
さっきの嬉しそうな態度から、手のひらを返す様な冷たいものになる。





「博士……ナンバー、下さい。俺にもナンバーを下さい…」

「黙れ、失敗作め…」




宝条博士は吐き捨てるように、クラウドの言葉をを突き放した。
…屈辱的な、そんな態度にも見える…。

でも…失敗作って…何。

あたしがそう考えていると、突き放され肩を落としたクラウドと目があった。





「…ナマエ…。ナマエ…、さん…」

「……えっ…」





そして、呼ばれた。

傍で落ちてきた、他人行儀な台詞。
あたしに向かって、落ちてきた。

ゆっくり顔を上げるとクラウドの青い目に…あたしが映ってた。

握られた手首にこもる力が、少しだけ強くなった気がした。





「ごめんなさい…、俺の事…信じてくれたのに」

「え…?」

「俺…貴女に、信じてくれと言ったのに…」

「クラ、ウド…」





あ…れ…?
なんで?目の前がぼやけてく。

クラウドの顔が霞んで、ちゃんと見えない。

つう…と、頬を水が伝う感覚。
やだ…なんで…。





「俺、クラウドじゃありませんでした…」

「…クラ…」





掴まれた手首から、掌に移る。
絡めるように、握られる。

目の前の彼は、その絡んだ手をじっと見つめてる。





「信じてくれたのに…、俺は人形だから…自分を信じる意味を…無くしました。いや…最初から、無かったんです」

「……。」





首を振る。

そんなことない、そんなこと言わないで…。

ふるふると、首を…横に振る。





「ナマエさん…、ごめんなさい…。貴女のことを裏切って…本当に…ごめんなさい」





なんで今、あたしのことなんか…。
そんなのいいから、自分のこと考えなよ…!ねえ、クラウド…。

振るった顔を上げると…潤んだ視界で目があった。





「…ナマエ…さん」

「…クラ…ウド…」





視線は合わさったまま。

その時、クラウドの指があたしの頬をなぞった。
水の跡を辿る様に、そっと拭う。

そのままクラウドは…少しずつ、寄り添う様に距離を縮めてくる。
…あたしの耳元に口を寄せて、そして…そこで一言、そっと囁いた。





「……――――――――。」

「…ぇ…」





それを聞いた瞬間、あたしは濡れた目を見開いた。


そして…その直後…。
ぱっ…と、握られていた手からぬくもりが離れて消える。


消えたぬくもりに、更に目の奥が熱くなった。
そんな目で離れてく背中を見つめる。

クラウドは中心部に歩いていく。
そして、ぶらり…吊られるように、宙に浮きあがった。





「……5年前、セフィロスが死んだ直後に私が創ったセフィロス・コピーの一つ。ジェノバ細胞と魔晄、それに加えて私の知識、技術、閃きが生み出した科学と神秘の生命、セフィロス・コピー」





宝条がクラウドを見ながら語り出した。
光った眼鏡の奥で、明かされていく真実。





「……失敗作だというのが気に入らないが、ジェノバのリユニオン仮説は証明された。ジェノバは身体をバラバラにされてもやがて一つの場所に集結し再生する。これがジェノバの『リユニオン』だ」





リユニオン…。

いつか、セフィロスが…違う、ジェノバが言っていた。
クラウドに向かって「お前は参加しないのか」と問いかけた。





「リユニオンの始まりを私は待った。5年が過ぎ…コピー達は動き出した。ミッドガルに保管していたジェノバのところにコピー達は集まってくる筈…。しかし、私の予想は外れた。そればかりか神羅ビルのジェノバも移動を始めた。…私は天才だ、すぐにわかった。セフィロスの仕業だ。セフィロスの意志はライフストリームで拡散する事なく、セフィロス自身としてコピーを操り始めたのだ…」





その時、ずるりと崩れ…天井から現れた人影。
水晶のようなマテリアの中で眠る…セフィロス。





「見たか!!セフィロスだぞ!やはり、ここにいたのだ!素晴らしい! ジェノバのリユニオンとセフィロスの意志の力!ライフストリームに拡散する事なくここに集結したのだ!クァックァックァッ!」





セフィロスを見つけて、高らかに笑う宝条。

クラウドは手にした黒マテリアを…セフィロスにヘと…。
その行動に、更に高笑いが酷くなった。

何が楽しいのか、わからない。
わかる気も無い。気力も無い。

あたしは自分の手に、手を重ねた。
さっきのぬくもり…まだ、残ってる。

耳がうずく。
さっき…囁かれた言葉が、巡る。





《………泣かせてしまって、ごめんなさい…》





前に…泣かれたら、どうしていいかわからないと言われた。

…なんで、人のことばかり気にするの。

消えていく…。
クラウドの心が、消えて…見えなくなっちゃった…。



To be continued


prev next top



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -