忘れない記憶の中で
「ティーファー!お腹すいたー!!!」
バシバシバシ!!!
カウンターを叩きながら叫ぶ。
ここはミッドガル。スラムの7番街にあるセブンスヘブン。
すると、カウンターの奥にいる漆黒の艶やかな髪が揺れる。
振り向いた彼女のルビーの様な瞳と目があった、その時だった。
「うるせーぞナマエ!ガキじゃねーんだ静かにしてろ!」
背後から男の怒鳴り声。
振り向くとおっかない顔したオジサン。名前はバレット。
その側で若い男と、ちょっと太り気味な男。美人のおねーさんの3人が笑ってる。ビッグス、ウェッジ、ジェシーだ。
「ティーファー、バレットが怒鳴ったー。こわーい」
「棒読みじゃない」
そしてティファ。
漆黒の艶やかな髪、ルビーの様な瞳のその美人さんは笑いながら、あたしの前にパンケーキ(バニラアイス付き)を置いてくれた。
うわーい♪
「ティファー!愛してるー!」
「ふふ、ありがとう」
ティファってば、美人だしボンキュッボーンのナイスバディだし完璧すぎるでしょ。
あたしなんて、あたしなんて…。
世の中って不公平に出来てるよなあ、なんて思いながらパンケーキにありつく。うまうまだわ。
「よく食うよなあ、ナマエは」
「ナマエらしくてカワイイじゃない」
「ティファちゃんの料理は美味しいっスからね」
「おい、お前ら作戦会議はじめっぞ」
雑談をするみんな。するとバレットは最後にそう言葉を残し、エレベーターを使って地下に降りていく。
ビッグス、ウェッジ、ジェシーもそんなバレットの後を追って降りていく。
「じゃあ私も行ってくる。ナマエ、マリンのことお願いね」
「はぁーい」
そして、流しの仕事を終えたティファも。
するとティファと一緒にカウンターの中にいた小さな女の子、マリンがひょこっと顔を覗かせた。
「マリン。あーん」
「あーん」
「おいし?」
「うん!」
マリンの口にパンケーキをいれてあげると、マリンは嬉しそうに笑った。
かーわいーなーマリンはー。
あのおっかない顔したバレットの娘とは思えんな。
マリンの頭を撫で撫で。
こーんなほのぼのしちゃってるけど、……ここは反神羅組織アバランチのアジト。
みんなアバランチのメンバーなんだ。
まあ、あたしは違うけど…。
あたしはなんて言うか…まぁ色々あって、このお店の常連になって、ティファとかと仲良くなって、うん、色々あったんだよ。
あたしも神羅は好きじゃないし…。
「ねぇナマエ」
「んー?なぁに」
「ナマエは好きな人いるー?」
「はい?」
唐突なマリンの言葉に思わず首を傾げる。
すき???
「どーしたマリン。いきなり。マリン好きな子できたとか?」
「そんな子いないよ。いーから教えて!」
なんだか興味津々な顔で見つめられる。
これは逃げられなさそうだ。
…と言っても、お話できるほど経験豊富じゃない。虚しいな…。
でも、ただひとつ。
浮かぶのは、あの時の記憶。
あの時は13歳だった。
…もう5年も前か。
「あのねー、あたしが13歳の時の話なんだけどね…」
「うんうん」
「あたし、英雄に会ったんだよ」
「えーゆー?せふぃろす?」
「ううん。セフィロスじゃない。あたしだけの英雄。金髪で緑の目をしたお兄さん」
今でも結構はっきり思い出せるんだよね。
今ごろは何してるのかな、あのお兄さん。
神羅の兵士だったけど…。
神羅かあ…。
この世界一の大会社。
でもその影には、黒い影が隠れてる………ような気がする。
もちろん、神羅の全部が悪いってわけじゃないだろうけど。
あのお兄さんみたいに。
きっとあれは、あたしの初恋だから。
だから驚いたんだ。
それは数日後に、セブンスヘブンを訪ねた時だった。
いつものように、普通に扉を開いた。
「ティファー!お腹すいたー!何か作っ………て」
「あ、ナマエ」
開いた時、お店のなかでティファが男の人と向かい合って話してた。
後ろ姿だったけど、真っ先に目に入ったのは金色の髪。特徴のあるツンツンとしたスタイル。
しかもその人が振り返って驚いた。
その顔に、見覚えがあったから。
あたしは叫んでた。
「あああああああッ!!!会いたかった!!!マイヒーロー!!!!」
「「!?」」
突然の絶叫に、ティファとお兄さんがビクッ!となってた。
でもそんなのお構いなしに、あたしはお兄さんに向かって駆け寄った。
でも何か後退りされた。なんで!?
「ま、マイヒーローって何だ!いやその前にアンタ何なんだ…!」
「マイヒーローはあたしだけの英雄ってことです!覚えてませんか!5年前、財布見つけてくれたじゃないですか!」
「5年前…財布?」
「ナマエ、ちょ、ちょっと待って。クラウドと知り合いなの?」
「クラウド?」
なんだかひとり興奮気味だったあたしをティファがなだめる。
てゆかクラウド?
ティファが言った名前に首を傾げる。
それがこの人の名前?
いや、ていうか何でセブンスヘブンに。
ぐるんぐるん、と混乱し始めているとティファがお兄さんを紹介してくれた。
「ナマエ、彼はクラウド。私の幼馴染みなの」
「ティファの、幼馴染み?」
「ええ。ついこの間再会したの。元ソルジャーでね、でも今は神羅との関わりは無いからって今夜の作戦、手伝って貰ったのよ」
「元、ソルジャー…」
ソルジャーって言えば、神羅が誇る戦闘のスペシャリストじゃないか。
お兄さん、ソルジャーになったのか。
ていうかティファの幼馴染みって。
「いやぁ、あたしの英雄がティファの幼馴染みなんて世の中って狭いねえ」
「……おい。ちょっと待て」
うんうん。と、ひとり頷いていると掛けられた静止。
お兄さん、…ええとクラウドだ。
「なんですか?てゆかお兄さん、名前クラウドって言うんですねえ!」
「さっきから俺を英雄だヒーローだ何だって、俺はアンタに見覚えはないぞ」
「はい?」
「5年前とか財布とか、まったく身に覚えにない」
「ええ!5年も前だから忘れちゃいましたか!?だってあたしはバッチリ覚えてますよ!あなたのそのツンツンした金髪も、緑色した目………も」
彼の瞳をまじまじと見て、言葉が止まった。
そうだ。覚えているのは確かに緑色だ。うん、間違いない。
でも彼の瞳は………空のような、青色だった。
「ええと…双子の兄弟がいるとか」
「兄弟はいない」
「私もクラウドに兄弟なんて知らないけど…」
「え、ええええっ!!!」
こ、こんなにそっくりなのに…完全なる人違い!?
ガーーン!!!
なんだか巨大な岩が頭の上に降ってきたようなショックを受けた。
う、うそお……。
「クラウド、お願い。力を貸して」
そう頼んでいるティファの声がすぅ…と通り抜けていくくらい、なんだかあたしは力が抜けてしまっていた。
To be continued
prev next top