マテリア泥棒



「ユフィ!どこだー!?」





西の大地、最北端の地。
独特の文化を持つ名所、ウータイ。

辿り着いたその場所で、あたしは叫んだ。

…そもそもこの地にやってきた理由。
それはこの叫びの意味にあった。





「どっかに隠れちゃったみたいだ」





すんすん、と隣で鼻を鳴らすレッドXIII。
その後ろでバサッ…赤いマントが風に揺れた。





「どういうことか…説明してもらわねばな」





普段からポーカーフェイスで何を考えてるのか理解に時間のかかるヴィンセントも現在はご立腹の様だ。
いや、ていうか全員が間違いなく同じ気持ちだと思う。

ロケット村から飛び出して、海に不時着したタイニー・ブロンコ。
それをボート代わりに、あたしたちは情報を求めてまだ訪れた事の無い西の大陸に上陸した。

でもそこで事件は起きた。

しばらく歩いて山道に差し掛かった辺り、あたしたちは神羅兵に襲われた。
でも問題はそこじゃない。神羅兵は撃退することが出来たから。

…問題は、その戦闘では一切魔法が飛ばなかったってこと。
それと…忽然と姿が見えなくなっていたユフィ。

これはもう…ね。
それしか無いでしょう、ってことだよね。

あんにゃろ、マテリア盗みやがった…!!!





「ユフィを探して…マテリア、取り返すぞ」





ウータイの街を見渡したクラウドの言葉に、あたしとレッドXIII、ヴィンセントは頷いた。





「どこから探すか…」

「うーん…」





クラウドと一緒にキョロ、と目を凝らす。

うーん…それにしても本当独特な雰囲気の場所だ。
建物のつくりとか、奥の方にそびえてるダチャオ像とか。
なかなか興味がうずいてくる。…ゆっくり観光とかしてみたいもんだな。

ところで、ここにやって来たのはあたしたち4人だけだったりする。
つまりはユフィ捜索チームってとこだ。

他の皆はマテリアが無くとも情報収集をしてくれることに。
次の目的地はとりあえず古代種の神殿なわけだけど…。それってどこにあるんだよ!?ってな話だし。

シドはボート代わりにするならってことで、尾翼以外にも損傷が無いか見てくれてる。
「おおー、さっすが頼りになるー!」とか言ったら「たりめえよ!」って返された。
うん。やっぱりテンション的に色々合いそうだ。





「とりあえず、そこの店にでも入ってみるか?」

「お店?かめ道楽…」





…とまあ、そんなことを考えつつ。
自分たちの任務はちゃんと遂行しないとね!

と言うわけで、あたしとクラウドは『かめ道楽』という看板を掲げたお店の扉を開いた。





「お、お前達!?」

「あ…」





しかし…入ってすぐ、目に入ったのは黒スーツ集団。

…うわあ…。
あたしはそれを見て顔を歪めた。
たぶんクラウドも嫌な顔をした思われる。

まあ、向こうの一人がこっちに気付いて驚いた顔をする。
と、思ったら…その目は瞬時に思いっきりの敵意に変わった。





「何でこんなところへ…!…そ、そんな事はどうでもいいわ。私達タークスに会ったのが運の尽き。さあ、覚悟しなさいっ!」





びしっ!と勢いよく指さされて言いきられた。

敵意むき出しなのは、前に一度だけ会ったことのあるイリーナ。
そう…彼女はタークスなわけで。彼女が居て他にもスーツが居ると言うことは奴らであると言うことで…。

ばっちり。
昼間っからレノとルードが一杯やっていた。

うーわー…。
こんなとこタークスと遭遇とか。ちょーテンション下がるうー…。

そりゃ顔も歪めちゃうでしょって話だ。





「……イリーナ、うるさいぞ、と」

「せ、先輩!?」

「俺達がこんな田舎に来てるのは、何のためだ?」

「そ、それは、休暇を取って日頃の疲れを癒すため……です」

「せっかくの休暇が潰れちまうぞ、と」





だけど、意外や意外。
イリーナの威勢を宥めてくれたのはレノ。

休暇中…なのかこの人たち。





「で、でも…」

「せっかくの酒も不味くなる」

「……はい…」





ルードもレノと同じ意見のようで。
先輩二人にそう言われてしまったイリーナは大人しくストン…と椅子に落ち着いた。

あ、ちょっと安心。
だってマテリア無いのに面倒事起こすの嫌だもん。

だがしかし…そう上手くいかないのが人生ってもんですよ。





「つーわけでナマエ。こっち来てお酌しろよ、と」

「なんでだ!?」





ほらな…。
あー、何事も無く済んで良かったーなんて思ってたらコレだよ。

ちょいちょい手招きしてくるレノ。
まったくもって意味がわかりませんから!

いかねーよ!って意味をこめて思いっきり睨みつける。
まあ、わかってたけど…レノはそんなんじゃ動じることも無く…。





「まあまあ。このつまみやるから隣座れよ、と」

「…………つまみなんかであたしが釣られると思ってんの!?」

「じゃあ今の間は何だよ、と」





ポンポン、自分の隣の椅子を叩くレノに文句を言えばクツクツ笑われた。

その隣でルードは相変わらず黙々と。
イリーナは「早くどっか行け」オーラを出しまくってる。

…見事にバラっバラだね…!





「やっぱ面白いな、お前。そうかそうか。餌付けすりゃあいいのか、と」

「餌付けって!?あたしをなんだと思ってんの!?」

「なんつーか、引っ掻いてくる猫を懐かせる感覚つーの?」

「ああ?!」





…確かにちょっとおつまみ食べたいけど…!美味しそうだけど…!
むむむむ…と唸ってるとクラウドがあたしの一歩前に出た。





「…ナマエ、乗せられるな」

「え、あ…す、すみません…!」





いつもよりちょっと低い声。
…クラウドに怒られた…!!!

それだけで微妙に泣きたくなってくる…!

くそう。お前のせいだ!と八つ当たりの勢いでもっかいレノを睨んでやる。
いや…やっぱり全然気にしてる様子なかったけどさ…。





「あんたたち、髪の短い忍者の女見なかったか?」

「忍者?さあな、ここには来てないぞ、と」

「…そうか。わかった。礼を言う。ナマエ、行くぞ」

「え?あ、う、うん!」





クラウドはタークスの面々にユフィのことだけ聞くと、かめ道楽を後にしていった。
あたしはそれを慌てて追いかける。

後ろで「またなー、ナマエ」とかレノの声したけど、そんなん無視だ無視!

それよりもだよ。
なんという手際の良さ…!と、何か若干盲目的な感じがしないでもないけど…クラウドの背中を見ながらちょっと感動に近いものを覚えていた。





「にしても…、ユフィいないねえ…」





かめ道楽を出た後も、あたしたちはウータイを駆け回った。
しかしユフィは一向に見つからない。

別行動で探してるレッドXIIIとヴィンセントは見つけたかなあ…。
なんかもう疲れて来た…。ったく、どこ行ったんだアイツめ!!

軽く「はあ…」と息をつけばクラウドが振りむいた。





「疲れたか?」

「んー…まあ、ちょっとだけ?」

「なんで疑問形なんだ」

「…あはは…。なんでだろねー」





へらへら笑った。

にしても、クラウドは本当に優しいなあ。
なんていうか、こう気配り出来るっていうのだろうか?
疲れたとか、怪我したとか、すぐに気がついて気遣ってくれるもんな。

……最初の頃は、クールで冷静な人だなあ…って思ってた。
いや、今でもそうなんだけど。
落ち着いていて、「興味無いね」が口癖で。
まあバレットとか未だに「いけ好かない奴」とか言ってるけど。





「なんだよ?俺の顔に何かついてるか?」

「ううん。ついてない」





じっと見てたらそう言われて、首を振った。

まあ一見とっつきにくそうに見えるのは、わかるな。
それはわかるけど…。

だけど…その間間に、ちゃんと垣間見える優しさがあって。

…なんだろうな。
なんとなく、不思議。

いや、自分でも何が?って話なんだけど。
クラウドってなんか不思議だ。





「よし!じゃあユフィ捜索再開しますか!」






うー!っと腕を上に伸ばしてストレッチ。

さあ早く探さねばあの忍者娘!
そう気合を入れなおした。





「離せよ!離せってば!ちょっと、イタ、イタタタタ!コラ、あたしを誰だと…あーっ!何すんだよー!」

「「!」」





すると、気合を入れなおしたナイスタイミングでどこからか聞こえてきた聞き覚えのある声。

クラウドと顔を合わせ、声のする方に走れば………また顔を歪めたくなった。





「ほひ〜!やっと新しいおなごが手に入ったぞ〜!」





さっきとは別の、聞いているだけで頭が痛くなるような嫌な声。

つーかあんまり思い出したくないこの声は…。

ちらっと見たらクラウドも物凄い嫌そうな顔してた。
ああ、やっぱりだよね。そうだよね。

そう「ほひ〜」なんていう変態はあいつだけだ。
つまり、思い出すはいつかのウォールマーケット…。

…そこにいたのは、あの時の…ドン・コルネオ。
そしてその部下らしき奴にとっ捕まってるユフィと…。





「一度に2人も!ほひ〜ほひ〜!」

「コ……コラ、離しなさい!後で後悔するわよ!!」

「ほひ、ほひ!ほひひ〜!!」





さっき、かめ道楽にいたはずのタークスの彼女。
イリーナも何故かコルネオの部下に捕まっていた。

…なんで!?
なんでイリーナも捕まってんの!?

でも考えてみると、これって超ヤバい状況なんじゃ…。
流石に同じ女として、この状況は見逃せません。

だから、叫んでた。





「ユフィ!」

「え!あっ!ゲッ!?ナマエ、クラウド!」

「ほひ!貴様らはいつかの!」





見つかった…!みたいな、一瞬ヤバそうな顔をしたユフィ。
それと、いつかの事件を思い出したらしい意味でヤバそうな顔したコルネオ。

…なんなのあんたたちその顔は。






「いけ!」





コルネオは部下に命令を下し、ユフィとイリーナを担いだままさっさと退散していってしまった。

て、ちょ…足早くない!?





「ああ!ユフィ!イリーナ!」

「……厄介な事になったな」




おお!?どうしよう!どうしましょう!?
ていうか、なんでこんなとこにコルネオがいんの!?

いきなりおかしな方向に転がり出した事件に頭を抱える。

そんな時、後ろから軽い足音が聞こえてきた。





「フン、コルネオの奴、相変わらず逃げ足だけは大したものだ、と」

「……イリーナ」

「え…、レノ!ルード!?」





足音の方を見ればレノとルードが走ってきていた。
レノは手を挙げながら「よう、また会ったな」とか言ってくる。

けど…このふたりが来たって事は…。





「もしかして…イリーナ助けに来た?」





そう尋ねてみると、レノはあたしの質問を肯定することはせずにフッと小さく笑った。





「…ルード。タークスの仕事、奴にじっくり見せてやろう。……と、言いたいところだが、イリーナが向こうの手に渡ったとなるとちょっと厄介だぞ、と。そこで……と」





そう言いながらちらりとクラウドを見るレノ。
クラウドはその目配せの意味を理解し、頷いた。





「…いいだろう。こちらもユフィをコルネオに攫われた。ユフィがいないとマテリアも取り戻せない」

「勘違いするなよ、と。お前らと手を組む気はない。ただ、互いの邪魔はしない。それだけの事だぞ、と」

「結構だ。俺達もタークスと協力するつもりはサラサラない」





…おおお…。
なんか探り合いっていうか、そんな微妙なムードを漂わせる状況。

こーゆの、あれだ。
利害の一致ってやつだよね。





「ところで、コルネオは一体何処へ逃げたんだ?」

「フン、あの性格だ。大体想像つくぞ。ここらで一番目立つのは……と」





レノとルードはそれだけ残し、どこかに走って行った。

あたしはレノが残したその言葉の意味を考える。





「ここらで一番目立つ場所…?」

「あそこ…だな」





クラウドは見上げた。
ここらで一番目立つ、大きな大きなあの像を。

なるほど…。
確かにあのオッサン、あーゆーの好きそうかもしれない。





「そっか、あれか!じゃあ早く行かないと!ユフィがヤバイよ!」

「ナマエ、ちょっと待て!」





コルネオとくれば女の子にとっては超危険なにおいしかしない。

あたしが慌ててダチャオ像に向かって駆け出そうとするとグイッとフードを掴まれて首が締まった。

ぐえっ!!
……ひ、酷いよ…クラウド…!

首を擦りながら涙目でクラウドに振り向いた。





「ちょ…っ、クラウド何すんの!…げほっ」

「…相手はコルネオだぞ?」





ちょっと咳き込みながら睨めば、返ってきたのはわかりきってること。

…そんなわかりきってることを…なぜ。
ていうかその質問のために犠牲になったのか、あたしの首!





「そんなのわかってるよ?だからこそ早くユフィ助けなきゃなんじゃん」

「…大丈夫なのか?俺に任せても良いぞ。…無理して行くこと無い」

「は?」





意味がわからなくて眉をひそめる。
するとクラウドはどこか言いにくそうな顔をした。





「あんたにとっては…本当なら、顔だって見たい相手じゃないだろ…?」





その言葉に一瞬きょとんだけとした。
でもすぐクラウドが何を言ってるのか、わかった。





《いやあああああッ!!!!!!》





…上げた悲鳴。
思い出した背中から這い上がってきた恐怖と、震え。

もしも、もしもあの時クラウドがあの時助けてくれなかったら。

…確かに、自分の中で思い出したくない出来事ではあるんだろう。
だけど…あたしはクラウドに笑みを向けた。





「…大丈夫だよ!むしろあの時の仕返ししなきゃ。あの後下水道に落とされたでしょ?その時決めたんだよねー。あのオッサン、今度あったら絶対散らす…!ってさ」

「…ち、散らす…」

「だって腹たったじゃん」

「…まあ、ナマエらしいと言えば、らしいな…」

「ふふん。…だから、大丈夫。あたしも行くよ。…気にしてくれて、ありがと」

「…そうか」





ほら、やっぱりこの人は優しい。

まさかそんなこと気にしてくれるなんて、思わなかった。
でも、だからこそユフィを早く助けなきゃって気にもなるわけ。

さあ、このソードの錆にしてくれようじゃん。





「ダチャオ像、いこ!」





取られたマテリア。
ユフィの身の安全。

あたしたちはタークスを追いかけるように、ダチャオ像に向かった。



To be continued


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