伝わる動揺



「砂漠の監獄ねえ…それは大変だったわね」

「濡れ衣、着せられちゃうなんてね?」

「本当だよー!でも、そのお詫びにコレが貰えたのは…ちょっとラッキー、だったのかな」





揺れる車内。ハンドルを握るのはクラウド。

その後部席で、あたしは皆に事の経緯、新しい仲間ケット・シーの説明をしていた。
…ユフィだけは酔ってグロッキーだったけど…。





「おーい、ユフィ。だいじょうぶかー?」

「あ…あたしに…構わない、で…」





声を掛ければ、死にそうな声が返ってきた。
運搬船の時同様、こりゃ酷い。まあ、完全に人事なのは仕方ないよね!

とりあえず、これからの移動はユフィにとって地獄と化すようだ。

なぜなら、ゴールドソーサーにて、勘違いで罪を着せられたあたしたちは、そのお詫びとして園長のディオさんから、バギーをプレゼントしてもらった。
おかげで、こうして全員でラクラクと行動出来ている。

バレットの件とか色々あったけど、これはこれで…結果オーライ、かもしれない。





「ねーえ、クラウドー。どこ向かってんの?」





しかし、こうして走っているものの、あたしは行先を知らない。

どこに向かって走ってんだ、このバギー…。まさか宛てなし…とか?
そう思い、運転手のクラウドに尋ねてみた。





「園長からの詫びの手紙にセフィロスが南のゴンガガエリアに向かったという内容が書かれてた。だから南に向かってる」

「ゴンガガ…?」





言われた地名に首をひねる。

…聞いたこと無い地名だ。
どこだ、ゴンガガって。

でも、なんとなく…。





「おお、なんか田舎っぽい響き…!」

「対してナマエはんはバリバリの都会っ子ですしなー。ミッドガル育ちなんでっしゃろ?」

「…うん、まあねー」





ケット・シーに聞かれ、頷いた。

まあ…ミッドガル育ちな(しかもプレートの上)あたしは世間的にそう呼ばれる部類…か。
でもエアリスやティファも「確かに田舎っぽいね」なんて笑ってた。





「ほら、あれじゃないのか?」

「え、どれ?」





すると、クラウドがを指をさした。

その先を見てみる。

するとそこにあったのは木、木、木。
……ジャングルですかー…?

…なんでも、あのジャングルの中に村があるとかで。

ま、確かに何か、大きな建物が見える気がする。
…見る限り魔晄炉っぽいけど。…でも何か変。ちょっと、黒い…?
いや、遠くてよくは見えないけど。

そんなこと考えながらバギーから飛び降りた。





「そんじゃ行ってくるねー!」

「はいな、お気をつけてー」

「留守は任せてくれ」





ひらひら手を振ると、返事を返してくれたのはケット・シーとレッドXIII。
あと気持ち悪くて歩きたくないらしいユフィと、バレットは少しそっとしておこうと言うことで、この4名にはバギーを見ていて貰うことになった。





「行くか」

「ナマエ!早く、早く!」

「行こう、ナマエ」

「うん!今行くよー」





つまり、ゴンガガ探索はクラウド、エアリス、ティファ、あたしということになる。

ああ、なんかこのメンバー久しぶりだ!
あの恐怖のウォールマーケット以来かもしれない。

でもなんとなく懐かしいメンバーで、少しわくわくしてる自分がいた。





「こっち行くと村。向こう行くと魔晄炉…かな?」





村の入り口付近に辿り着くと、魔晄炉っぽいものも村の近くにあるのが見えた。

さて、先にどっちに行こうか?
そう悩んでいると、ティファが提案をくれた。





「じゃあ、クラウドとナマエ、魔晄炉見てきたら?私、ちょっと新しいグローブ見たくて。エアリスと村の方行ってくるから。エアリスも見たいものあるって言ってたよね?」

「あ、そうだ!うん。バングル、金具があまくなってるから、新しいの見たいの。皆を待たせるのも悪いし、二手になろっか?」





エアリスも思い出したようにポン、と手を叩く。

まあ、確かに二手の方が効率はいいかもしれない。
それに特に断る理由もない。





「ああ、構わない」

「はーい!じゃあ、魔晄炉見たら戻ってくるね」





こうして、あたしはクラウドと一緒に魔晄炉の方を見に行くことになった。

ああ、懐かしの面子はここで解散か。
まあクラウドと一緒に歩けるのは嬉しいことですけども。

…あたしって、我ながらなかなか単純だ。





「にしてもさー、クラウド一人でチョコボレースしてきたんでしょ?どうだった?」

「ああ、何だか賑やかだったな」

「あたしもチョコボレースし出てみたいな。やっぱチョコボ育てようよー?チョコボファームでさあ」





魔晄炉に向かう途中は、コレルプリズン脱出までの話なんかをしていた。

うーん、チョコボレースに出てるクラウド見たかったなあ…。
あたしその間、ずーっとバレットとケット・シーと砂漠で待機してたもん。

あっれー?
…思い出すと何だか虚しくなるのはなぜだろう…?

まあそんな風にケラケラ笑っていると、急にクラウドに腕を掴まれ足を止められた。

本当に急でビックリした。
「な、なに?」とクラウドを見上げると、クラウドは静かにしろ、と人差し指を立てた。

な、なんだ一体。
とりあえず口にチャックして、前を見る。

すると、…ああ…なるほど。
理由はすぐにわかった。





「まあなー、威勢がいいってのはいいよな。見てて面白いぞ、と」

「……。」

「なあ、ルード。あんたは、誰がいいんだ?」

「………。」

「何赤くなってるのかな、と。ん?誰がいいのかな?」

「……ティファ」

「な、なるほど…と。辛いところだな、あんたも。しかし、イリーナも可哀想にな。あいつ、あんたの事…」

「いや、あいつはツォンさんだ」

「そりゃ初耳だな、と。だってツォンさんはあの古代種…」





木の陰からそっと覗く。

スーツの男2人組。
赤髪野郎と強面スキンヘッド。

見覚えのある顔2人の花咲く会話にちょっと気が抜けた。





「…あいつら、何の話してるんだ」

「……うーん…」





恋、かなあ…。
クラウドの言葉に心の中でそう返答。

つーか苦笑い。
タークスのお兄さんが何を道端で恋バナなんてしちゃってるのさ…!?

いや、でもちょっと面白い…。
へえ、ルードってティファ好きだったのか…。
古代種ってことはエアリスも…。

まあ2人とも美人さんだしなー。





「なんか敵同士なのに色々あるのねえ…」





その瞬間、クラウドがガクッ…と肩を落とし頭を抱えた。
タークスのお二人もこっちに振り向いてくる。

……お、おお?





「おお、ナマエ。来た来た。久しぶりだな。会いたかったぞ、と」





にやりと笑うレノのおにーさん。

……ああ、クラウド、ごめんなさい。
ナマエはやらかしました…。

あああああ…つい普通に口に出してしまった…!





「おい、ちょっとこっち来いよ。真新しいロッドだ。見せてやるぞ、と。ルードから伝言聞いただろ?」

「行かないし!見ないし!つーかあたしは別に会いたかなかったわ!」





ロッドを振りかざしながら、ちょいちょい手招きしてくるレノ。

確かにミスリルマインでそんな伝言聞いた気もするけども。
ここで「本当!?見せてー!」とか言ったらただの馬鹿でしょ!?

というか、なんでそんなにフレンドリーなんだ貴様!

そうあからさまな嫌悪オーラを出しまくっていると「お?」とレノの視線の先が少し変わった。

目の前に映る、大きな背中。
タークスとの間に立ってくれたクラウド。

クラウド…!
ああ、もう、やばいわー。ナチュラルにそんなことしてくれちゃって!
勘違いしそうになるよ!もう!





「…ナマエ、構わなくていい」

「え…あ、ハイ」





でもそう相変わらずお馬鹿なこと考えてひとりウフフしてたら、いつもより低い声でそう言われた。

お、おお…。
何かちょっとコワイ…のは気のせいかしら…?

クラウドはレノが嫌いなのだろうか?
いや、あたしも別に好きじゃないけどさ。

睨むクラウドに向かって、レノはつまらなさうなトーンで言葉を放った。





「…お前は前からよく睨んでくれるな。男の嫉妬は見苦しいぞ、と」

「なっ…」





ポンポン、とロッドで肩を叩きながらクラウドを挑発するレノ。

…だが、しかし。
………うん…?





「……嫉妬って、誰が?」





あたしがそう溢したら、レノはガクッと大袈裟にずっこけ始めた。

……え?!
なに?なに、その反応!





「…なるほど。前の態度から見て、お前らそういう関係かと睨んでいたが…進展はしてないわけか、と。それとも俺の勘違いか…?」

「はあ!?何の話!?」

「大人のハナシ」

「あたしは子供って!?」





なんなんだ!この赤毛!
ものすごく腹が立つんですけど!?

いやいや、まあ考えるのであればレノのこの馴れ馴れしい態度にクラウドが嫉妬してくれたって事でしょ?

…でも、そんなんあるわけないだろ!
ナマエちゃんの絶好調な妄想に過ぎないでしょ!?

ああ…なんか、あたしってば日に日に痛くなってる気がするよー。





「ま、仕事だからな」





またまたそんなことお馬鹿思考が巡っていると、ひゅん…と音を当て、レノはこっちにロッドを差し向けてきた。
それに合わせ、さっきから全っ然喋って無かったルードも拳を構える。





「…やる気か」





応えるようにクラウドも剣を握った。
気づいて、あたしもソードに手を掛ける。





「お手並み拝見だぞ、と」





その一言で、火ぶたが切られた。





「うっわ!」





キン!

レノのロッドとソードがぶつかる音。
奴の「お手並み拝見」は、どうやらあたしに向けての言葉だったらしい。

ルードの相手はクラウドがしている。

ああ、もう!
めんどっちいな!





「ひゅー。お前、結構やるんだなあ、と」

「そりゃ、どー…もっ!」

「おっと、柱ではあっさり捕まっちまったのにな?」

「うっ、うるさいな!」





ああああ!
あたしコイツ嫌いだ!嫌いだ!嫌いだああ!

思いっ切りソードを振ってやる。
…避けられたけど。





「本当元気いっぱいだな、と。やっぱ面白い面白い…。今度デートでもするか?良い店、紹介するぞ、と」

「意味がわかりませ、…んっ!」





ぶん!
と、また勢いよくソードを振りながら答える。

なんなんだ!この男は!この赤毛!こら!
そうイライラが募っていると、後ろから「ぐあ!」と言う声。

そして直後、ピタリとレノの動きが止まった。

……え?





「2対1だ。まだ続けるか」





レノの背後に見えた、差し向けられた大きな剣。

…クラウドだ!
どうやら、クラウドはルードを退けたらしい。
やっぱ強いな、クラウドはー!

レノはひらっ、と両手を上げた。




「…レノ、すまない」

「…相棒、やられちまったか…。逃げるが勝ちだぞ、と」





レノは「べっ」と舌を出しながらそう残し、腕を押さえたルードと走り去って行った。

その背中が消えるまで見届ける。
もう来るなー!とひたすらその背中に唱えながら。

あたしは「はあっ…」と息をついた。





「つっかれたー…」

「大丈夫か?」

「うん。へーき」





頷きながら、ぽんぽん…と服の汚れを払う。
まさかこんなとこで戦うハメになるとは思わなかったけど…。





「ふー。にしても、なんでこんなとこにタークスが居たんだか…」

「……。」

「クラウド?」

「…あいつ、来た来たって言ってたよな…」

「え?」





クラウドは、難しい顔で何か考えているみたいだった。

「来た来た」…は、レノが確かに言ってた…かも。
でも、それを考えると…それが指すモノって言うのは…。

慌てて首を振った。





「ま、待って、クラウド!それは…」

「…スパイがいるなんて考えたくもない…」

「……クラウド」

「俺はみんなを信じるよ」

「…うん!」





ほっと息をついて、頷いた。
クラウドの声は優しくて、安心した。

信じる…か。
それに、少し嬉しかった。





「なあ、ナマエ…」





クラウドの言葉に心の中で喜んでいると、名前を呼ばれる。
「んー?」と尋ねれば、クラウドは戸惑いがちに口を開いた。





「……あんた、あいつのこと…」

「え、あいつって?」

「………レノ」

「レノ?」

「…いや…何でもない」

「は?」





クラウドは首を振る。

…レノが何だ。
あいつムカつくよな、とかそういう話ですか?
うん、それはムカつくよね。

あたしが「んん?」と頭をひねっていると、クラウドは先を指した。





「…それより魔晄炉、早く行ってみるか」

「え?…ああ!そうだ!魔晄炉!すっかり忘れてた!」

「…この短時間に忘れるなよ」

「文句はタークスに言ってくださーい」





ああ、そうだ。
急にタークス襲ってくるから、当初の目的すっかり忘れてた。

ティファ達待たせちゃうじゃん。

そう思いながら、急いで魔晄炉に歩きだした。





「…メルトダウン、か」





しかしゴンガガの魔晄炉は、メルトダウン魔晄炉だった。
さっき遠くから見て感じた違和感はそれか。

コレルと同じように、事故でもあったのだろう。
もう機能はしていなかった。

途中、タークスのツォンと、スカーレットがヘリでやってきたが、特にセフィロスに関しての情報を聞き取れることはなく。
ラージでヒュージなマテリアがどうとか、よく分かんないこと言ってただけ。





「てなわけで以上、魔晄炉調査組の報告終わります!」





こうしてゴンガガ村に向かい、あたしとクラウドはティファとエアリスに報告をした。





「…そう、タークスが…」

「うん、村でも魔晄炉の事故の話、聞いたよ?結構、被害、あったみたい…」

「「……。」」





それぞれの情報を交換する。

でも、2人の様子にちょっと違和感。
…ていうか、すぐに気がついた。

村から戻ってきた2人は、なんか浮かない顔していた。





「何かあったのか?」





クラウドも気がついたらしい。

そう尋ねたクラウドの声に、真っ先に反応したのはティファだった。
…ビクッ、と少し肩が跳ねたようにも、見えた…。





「う、ううん。なにも?」

「そんな顔に見えないが」

「っなにも無いの!」





クラウドが指摘すると、ティファは声を張り上げた。

少しビックリして、クラウドとあたしは目を丸くした。





「わ、わかったよ」

「…ティファ?」





そんな様子に、クラウドは深く突っ込むことを止め、頷く。
あたしはそっと、ティファの顔色を伺った。

ティファ自身、自分でもハッとしたみたいで、慌てて首を振っていた。





「ほ、本当に何でも無いのよ。そう、あのね、面白い話聞いたの。この村にもクラウドみたいにソルジャーになるって村を飛び出した男の人がいたんだって」





そう言って笑う。

なんだろう。
…無理しているようにも見えた。

でも、きっと触れてほしくない話なんだ…。それくらいはわかる。

だからそれ以上深くは触れず、クラウドも「あの頃は、そういう奴がたくさんいたんだろうな」とティファに話を合わせていた。





「…ね、エアリスは?」

「…うん?」





やることはやったので、バギーに戻ろうと言う話になる。

その帰り道、あたしはそっとエアリスの赤いジャケットを引っ張った。

浮かない顔をしているのは、ティファと同じ。
理由がティファと一緒か違うのかはわからないけど、暗い顔しているのに放っておくのは何か嫌だ。





「エアリスは、なにかあったの?」

「ううん、私は本当、大したことじゃないの。でも、そうだな…ナマエには教えてあげようかな?」

「え?なになに?」




柔らかく微笑んだエアリスに安心を覚えて、尋ねた。
するとエアリスはそっと教えてくれた。





「前に…ちょっと話したかな?私が、はじめて好きになった人のこと」

「え?あ…えーと」





なんか聞いた記憶もある気がする。
多分、七番街に帰ろうろした途中に立ち寄った公園か何かで聞いた話だ。

確か、クラウドと同じ…ソルジャー・クラス1STの男の人。





「ここに、彼…ザックスの家、あったのよ」

「え!そーなの?」

「うん。だから、ちょっと驚いたの。それだけだよ?」

「そう、だったんだ…」

「…もう昔の事だから、いいんだけどね。ただ、行方不明だから心配なだけ」

「行方不明、なの?」

「うん、5年前くらいかな。仕事で出かけてそれっきり。女の子が大好きな奴だったからね。何処かで知り合った子と仲良くなっちゃったのよ、きっと」

「ふーん…」





そう教えてくれたエアリスの顔は、もう昔の事だからなんて言いつつ…。

少し寂しそうで…でも、どこか…楽しそうで。
そんな風に見えて。

その横顔を見つめていると、エアリスは優しく微笑んだ。





「あ、そうだ。ね、ナマエ、手、繋ごっか?」

「え?手?」

「そう。私とは、嫌?」

「まっさか!うん!繋ごー!」





ぎゅっと繋いで、お互いに笑った。

そのまま、大きく振りながら、あたしたちはバギーまで歩いた。



To be continued


ゴンガガとニブルヘイムは田舎っぽい名前だとCCで初めて知った。(笑)
あの田舎者2人組の会話が好きすぎる…!

あとあんまり関係ないけどミッドガルのイントネーションも声ついて違ってたことに気付いた。


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