はじまりの足音がした



「ナマエ、起きろ」

「うう…ん」





ゆらゆら、体が揺すられる感覚。

呼ばれる声もして、ゆっくりまぶたを開く。
寝ぼけ眼で見えた金。





「ナマエ」

「!?、ほやっはあ!!!」

「!?」





瞬間、口から飛び出た謎の奇声と共に、あたしはグワッと飛び起きた。





「な、なんだよ、起きるなり…。静かにしてくれ」

「へ、あ…は、す、すみません…」





あたりを見渡せば、そこは独房。

ああ、思い出した。
ここは神羅だ。あたしたちタークスにとっ捕まったんだった。


いや、起きた瞬間、クラウドのお顔があったもんですから…。
ビックリしちゃうよねえ、そりゃあねえ。あたし悪くないよねえ。

…と思いつつ、謎の奇声でクラウドまで驚かせてしまったのは事実。
だから起きて早々、頭を下げた次第です。





「えと…なにかあったの?」

「…部屋の外、見てみろ」

「部屋の?…あ」





起こされたという事は、何かあったんじゃないかと。
そう思って尋ねてみれば、クラウドは扉を指差す。

外って…ここ独房ですよー、なんて思いながらもクラウドの指した先を目で追うと、独房の扉は…開いていた。





「なんで開いて……うッ!?」





ベッドから腰を上げて、言われたとおり外を見てみる。

でもその瞬間、先程とは種類が違うものの、また変な声を出してしまった。

いや!でも今回もあたし悪くないよ!
…なんて、言ってる場合ではない。

それは…目の前の光景を見れば、明らかで。
さあ…っと血の気が引くのを感じた。





「く、クラ…クラ…!し、した、死た…!」

「…ああ」





ぷるぷる、と震える指であたしが指したのは、まさかの死体…!
後ずさりし、顔を引きつらせながらクラウドを見る。

そもそも、おかしいのは死体だけじゃない。

壁中に、尋常じゃない血のあとも残っている。

ぶるり、と背筋が凍って、思わずすがいつく勢いでクラウドの背中に隠れた。
な、な、なにこれ…!何起きた!?

あたしが硬直していると、クラウドはその息絶えている体に近づき、懐を探り出した。





「きっとここの鍵を持っている筈だ…ほら、ナマエはエアリスを。俺はバレット達を助ける」

「あ、う、うん!」





懐から取り出したキー。
手渡されたそれを手に、あたしは言われた通りエアリスのいる独房の扉を開けた。





「エアリス!」

「ナマエ!どうして?」

「あ、っと…外、様子が変なんだ」





エアリスを独房から出すと、同じようにクラウドも他の皆を連れてくる。

外の有様を見て、皆目を見開いていた。





「どうしちまったんだよ?」

「なんだか怖いわ…」

「何かに襲われた…?」

「人間の仕業ではないな。私がこの先の様子を見てくる」





レッドXIIIが伸びていく血の跡を追い、先に駆け出す。
それにあたしたちも続いた。

そこで見たものは…。





「あれ…ここ、あの気持ち悪い首なしの…」





まず見つけたひとつめの異変。

それは、先程エアリスを助け出す前に見た首なしの何かが安置されていた場所。
その装置は破壊され、ごっそりと中が消えていた。





「ジェノバ・サンプル…察するに上の階に向かったようだ。奥のサンプル用エレベーターを使ってな。何か目的に向かっているような…上に…?」





レッドXIIIが言うように、血の跡を辿れば行き着くのはエレベーター。

とてつもなく気味が悪い。
そう感じながらも、血を追い、更に上へ上へと上っていく。

そしてたどり着いたのは…。





「プレジデント…神羅…」





呟いた名前。
それは、ついさっき自分の野望を高らかに語っていた神羅のトップ。





「死んでる…神羅カンパニーのボスが死んだ…」





バレットが驚きを隠せない口調で言う。

そう、そこにあったのはプレジデント神羅の変わり果てた姿。
その背中には、扱いの難しいであろう、長い刃の刀が深々と突き刺さっていた。





「セフィロスの物だ!」

「え、セフィロス…?」





その刀を目にした瞬間、クラウドが声を上げた。

その名前は、あまりにも意外なもので聞き返してしまう。





「…セフィロスは生きているのね?」

「…そうみたいだな。この刀を使えるのはセフィロスしかいない筈だ」





ティファの問いかけに頷くクラウド。

英雄セフィロス…。
その名を知らぬ者はいない。最高のソルジャー。





「誰が殺ったっていいじゃねえか!これで神羅も終わりだぜ!」





バレットがそう言った直後だった。





「うひょ!」





柱の影から太った男が顔を覗かせる。

あ。確かこの人!

その顔には見覚えがあった。
確か会議を盗み見していたとき、この人いた!

確か、宇宙開発かなんかの…パルマー統括。
変な喋り方するから、妙に印象残ってるんだよね。





「こここここ殺さないでくれ!」





クラウドとバレットが逃げようとしたパルマーを取り押さえる。
するとパルマーは怯えたように証言した。





「セ、セフィロス。セフィロスが来た」

「見たのか?セフィロスを見たのか?」

「ああ、見た!この目で見た!」

「本当に見たんだな?」

「うひょっ!こんな時に嘘なんか言わない!それに声も聞いたんだ、うひょっ!えっと『約束の地は渡さない』ってブツブツ言ってた」





クラウドの問いに答えるパルマー。

ううん、うひょうひょ気になるな…なんか、どつきたくなる感じ…。
ここでどついたら空気読め子ちゃんだから我慢するけどさ。

でも、セフィロスが約束の地って…。





「それじゃあ、何?約束の地は本当にあって、セフィロスは約束の地を神羅から守るためにこんな事を?」

「いい奴じゃねえのか?」





流れだけ追うと、確かにそんな感じだ。

でもそんなティファとバレットの言葉に、クラウドは大きく首を振った。





「約束の地を守る?いい奴?違う!そんな単純な話じゃない!俺は知ってるんだ!セフィロスの目的は違う!」

「…クラウド?」





酷く否定的で、声を荒げるクラウド。

なんとなく…少し不思議に思って、その顔を覗きこんだ。
その顔を見てみたら…何か、辛そうというか、悔しそうというか…そんな印象を覚えた。





「…あ」





そんな時だった。
外から大きな音が聞こえてきた。

バラバラ、と回転するプロペラの音。…ヘリコプターの音。





「うひょ!」





その音を聞きつけパルマーは逃げるように屋上に走っていく。

そんなパルマーを追い、あたしたちも屋上に出た。





「そうか…やはりセフィロスは生きていたか」





屋上に出ると、パルマーは誰かに事の経緯を説明していた。

その誰か、とは。
金髪のオールバック、高貴な白いスーツに身を包んだ若い男だった。
神羅の副社長…名前はルーファウス。





「…ところで。お前達は何だ?」





彼は、クラウドとはまた違う青い目をこちらに向けてきた。

うわ…なんか冷たい目してる…。
第一印象…あたし、確実にコイツ苦手だ。絶対苦手だ。
そう思ってしまいました…ははは。

いや、まだ全然よく知らないけどさ。
でも噂で血も涙も無いとか聞いた事あるし…。
一目見て何か、ああナルホド…って思っちゃったっていうかね?

うん、このお坊ちゃん、確実ダメなタイプだ。
第一印象ってとっても大切よね、うん。





「元ソルジャー・クラス1st。クラウドだ」

「アバランチだ!」

「同じく!」

「…スラムの花売り」

「…実験サンプル」

「え?…あ!えと…な、何でも屋さん!」





それぞれ皆、自分の肩書きを言っていくなか、あたしだけちょっと困惑した。

ええええ!?だってあたしって何よ!?って話だよ。
クラウドの部下部下言ってたけど、クラウド今、元ソルジャーとか言うし!

でもドーン!と言ってやったよ!
ちょっとクラウドがこっち冷めた目で見てたけど…。…気にしないでおこう…。

するとルーファウス、フッと鼻で笑ってきよった…。
…あたしに笑ったんじゃないよね、うん。そんなわけないない。

ほら、その証拠に奴はこう言った。





「おかしな組み合わせだ」





そうそう。組み合わせがおかしいだけね。
…まあ、いっか…そんなん別に…。





「さて、私はルーファウス。この神羅カンパニーの社長だ」





ていうかお父さんの死に動じないのね…。
早速社長宣言ですか…。

冷静に名乗り始めたルーファウスに少し嫌悪感。

だって、あたしもプレジデントは嫌いだけど…この人にとってはお父さんなのに。





「社長就任の挨拶でも聞かせてやろうか。親父は金の力で世界を支配しようとした。なるほど、上手く行っていたようだ。民衆は神羅に保護されていると思っているからな。神羅で働き、給料を貰い、テロリストが現れれば神羅の軍隊が助けてくれる。一見完璧だ」





うわ。金の髪を掻き上げた。
わー、決まってるけど…うわあ。





「だが私のやり方は違う。私は世界を恐怖で支配する。親父のやり方では金が掛かりすぎるからな。恐怖はほんの少しで人の心を支配する。愚かな民衆のために金を使う必要はない。私は親父とは違うのだ」





親父とは違う、か…。
演説好きなとこはそっくりだけどな…。

ていうか話聞いたら余計に苦手度アップしたよ、この人…。

うーわー。やっぱりちょー苦手だー…。
そんな感じで、じとーっとした目で見すぎたのだろう。





「フッ…」

「!!!」





目がばっちり遭ってしまいました…!

ぎゃあああ!
あたしの阿呆ー!!!

慌てて目をそらした。
うわあああ…なんっか心臓がバクバクいってる…!こええ!

そうやってあたしが胸を押さえてバクバクしていると、クラウドはいきなりルーファウスに剣を差し向けた。

そして叫んだ。





「エアリスを連れてビルから出てくれ!」





ええ!?いきなり何事!?

でも驚いたのはあたしだけじゃなくて皆だった。
驚いている事に気付いてはいるだろうけど、クラウドは多くを説明することは無くあたしたちを急かした。





「説明は後だ!バレット!本当の星の危機だ!」

「何だそりゃ?」

「後で話す!今は俺を信じてくれ!俺はこいつを倒してから行く!」





キッ…と剣先は変わらずルーファウスに向いたまま。
こいつを倒してからって…。





「クラウド、ひとりで戦うの!?」





クラウドに駆け寄り聞くと、ルーファウスを見据えたまま彼は頷いた。





「ああ。早く先に行け。ナマエ、エアリスのことは任せた」

「え…っ」

「わかったぜ、クラウド!おい、皆行くぞ!おら、ナマエ!」

「え、あ…うん!クラウド!早く来てよ!」





バレットにも急かされ、あたしはクラウドに叫んだ。
クラウドは「了解」とでも言うように手を軽く上げてくれた。

それを確認し、あたしたちはクラウドを残し、屋上から飛び出した。


…セフィロス。ジェノバ。古代種。約束の地。
全然、わからないことだらけ。

でも、あたしはその時漠然と…嫌な予感を。
なにか不吉な、はじまりの足音を聞いたような気がした。



To be continued


神羅ビル今回で終わらせる予定だったのにダメだった…!

ちょっと長くなっちゃうのでここできります。



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