A.M 8:12

 小学校の頃からの友達と、奇妙な再会を果たした翌朝。担任から預かったプリントを渡しそびれたことに気づいたルカは、レイの家があるマンションのエントランスに立っていた。

 ルカは等間隔に並んだポストの中から慣れた様子で桂家の部屋番号を見つけ出すと、郵便物を差し入れる細い隙間からこっそり中を覗き込んだ。中身は完全に空っぽで、先週届けておいた分のプリントがなくなっているのがわかる。つまり、レイは学校に来ていないだけで一応普通に生活しているらしい。だからプライバシーの問題がどうとかで無闇に踏み込むわけにはいかないのだと、いつだったか担任がそんな風にぼやいていたことを思い出す。

 どうすることもできずにいたのは、今までのルカも同じだ。レイと最後に会った日は何も変わった様子はなく、風邪か何かで学校を休んでいるだけだろうと軽く考えていた。そのうち無断欠席の期間が長引いて、奇妙に思いはじめたときにはもう手遅れだった。ルカはレイのスマホにメッセージを送ったり、手紙を書いたり、直接家に行ってインターホンを鳴らしてみたが、そのすべてに返事が来ることはなくなっていた。

 ルカがレイと友達になったのは、小学校三年の頃だ。クラスの誰より頭が良いのに、時々妙にズレた発言をする少年。ルカは彼のそういうところが好きだったし、レイもたぶん、ルカのことが嫌いではなかっただろうと思う。

 そのレイが何も言わずに突然姿を消したことは、勝手な噂を流したがるクラスメートの前では態度に出さないようにしてきたが、本当はずっと気がかりだった。そして、ようやく会えたと思ったらあんな風に露骨に突き放した態度を取られたことは、怒りや悲しみを感じる以前に、困惑する気持ちの方が大きかった。レイの態度が突然変わった理由はなんなのか、彼は一体何を考えているのか、ルカはただ、本当のことが知りたかった。

 たとえ、“普通”の方法でレイを見つけて会うことが不可能だとしても――ルカは、鞄の中に入れてあるアプリドライヴと、最近出会った不思議な相棒のことを思い浮かべた。昨日、ARフィールドにいた時のレイは、ただうろついていたわけではなく、何か目的があって行動しているように見えた。ということは、このあたりで起きるアプモン絡みの事件を追っていれば、レイは必ず現れるはず……

 と、そこまで考えたところで、ルカの脳は突然思考を停止した。エントランスの奥にある自動ドアが開いて、その中から今まさに探し出そうとしていた人物が姿を現したからだった。

「レイ!?」
「なぜお前が驚く」

 レイは、思わず大声を上げたルカを怪訝そうに一瞥した。彼からすれば普通に自分の家から出てきただけであり、ルカが朝からこの場所にいることの方が不可解なようだった。

「これ。昨日ポストに入れるの忘れてたから」
「……ああ」

 他に言いたいことは山ほどあったが、ルカはひとまずここへ来た本来の用事――手にしていたプリントの束を差し出した。それを見たレイは一瞬だけ気の抜けたような表情を浮かべたが、すぐにまた眉間に皺を寄せ、プリントを無造作に鞄へ突っ込んだ。

 その時、ルカはふとレイの首から下、正確に言うと彼の着ているものが目に留まった。そして、思わず声に出して尋ねた。

「ところで……何そのカッコ?」

 といっても、レイは別におかしな格好をしているわけではなかった。彼の服装自体はルカもよく見慣れていたし、十四歳の少年が平日の朝に着ているものとして不自然な点は全くない。ただ、今の状況で、レイがその服を選んで着てきたことが心底意外だったのだ。

 黒に近い灰色の上着、白いワイシャツの襟元にはえんじ色のネクタイ。袖口からは、少し長めのセーターの袖がのぞいている。スラックスは上着より淡い色で、足元はいつものスニーカー……

「何って、見ればわかるだろ?」

 ごく普通の中学校の制服を着たレイは、当然のような顔で言った。

2019/02/10

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