「うん。やっぱレイ……桂レイだよね?」
ルカは、目の前に立っている少年の姿を改めて正面から眺め回した。ウェーブのかかった暗い色の髪に、鋭い印象を与える顔立ち。見間違えるはずがなかった。
「実は、最初に見かけた時からそうじゃないかと思ってたんだー。久しぶり」
そして、一通り満足するまでそうしたあと、今度は明るい声で言った。遠目からではなかなか確信が持てずにいたが、背格好や服装の雰囲気からして、何となく見覚えのある後ろ姿だとは薄々気づいていたのだ。
「でも、こんなとこで会うなんてびっくりしちゃった。そのアプモン、レイの相棒ってやつ?」
一方的に話し続けるルカに、レイは呆れたようなため息をついた。
「失せろ」
「え?」
それから、出し抜けに刺々しい口調で吐き捨てられ、ルカは何かの聞き間違いかと思ってレイの顔を見返した。燃える炎の色をした瞳が、凍てつくような冷たさでルカを射抜いていた。さっきの言葉が聞き間違いでも冗談でもないことを理解するには、それだけで十分だった。
ただ、レイが――久しぶりに会った友達が、これほど明確に自分を拒絶する理由が、ルカにはわからなかった。
「ど、どうしたの? いきなり何言って……」
「聞こえなかったか? さっさと俺の前から消えろ、って言ってるんだ」
呆然とするルカを気にかける様子もなく、レイは冷ややかな口調で告げた。
次の瞬間、ルカの身体を突風か、あるいは閃光に似た衝撃が襲った。何が起こったのか理解する間もなく、ルカは反射的に目を瞑った。そして――次に目を開けた時には、どういうわけか現実世界に戻ってきていた。あたりを見渡して、いつも学校へ行く途中に通り過ぎている場所だと気づいた時にはもう、レイも、彼と一緒にいたアプモンの姿も、どこにも見えなくなっていた。
「……なんだったの? あいつ」
思わず零れ出た言葉に、応える者はいない。彼女のバディですら、戸惑うように空中をさ迷うばかりだった。陽の沈みかけた路地裏に、ルカひとりの影だけが長く伸びていた。
2019/01/02