再会

 ここは現実世界リアル電脳世界デジタルの中間地点、ARフィールド。直線的な形状を持つ巨大な建造物が、ホログラムの空に影絵のように浮かび上がっている。その建物を目印に進む、二つの足音があった。表情を覆い隠すように、洋服のフードを目深に被った少年の名は、桂レイ。傍らのアプモンはハックモンと言った。

 二人は迷いのない足取りで歩き続けていたが、いくつかの曲がり角を過ぎて細い路地に差し掛かった頃、ハックモンが突然その足を止めた。レイはしばらくの間先へ進むことをやめなかったが、やがてハックモンにその場から動くつもりがないとわかると、急き立てるように自らの相棒の姿を振り返った。

「そこのお前。さっきから一体何の用だ」

 しかしハックモンはレイの無言の訴えに応じることなく、マントの下から伸ばした爪を近くの物陰へと向けた。何者かに後をつけられていることには、ずっと前から気がついていた。

「ごめん。自分たち以外に人がいると思わなかったから、気になって……」

 暗がりから姿を現したのは、チップの姿のままのアプモンと、人間の女だった。レイと変わらない年頃の少女は、ハックモンの鋭い爪先を喉元に突き付けられながら、敵意がないことを示すように両手を挙げた。その片方に、アプリドライヴが握られている。

 ハックモンは相手の自由を封じたまま、横目でレイの様子を窺った。レイは黙って首を横に振ると、素早く少女たちに背を向けた。下手に関わって、自分たちが何者で、何のためにここにいるのか――そういう余計な詮索をされたら面倒だ、とでも思っているのだろう。ハックモンは何も言わずに爪を引っ込め、彼の後に続いて歩き出そうとした。

 それから、一瞬あとのことだ。

「待って!」

 レイとハックモンの背後で、少女のものと思われる靴音が地面を蹴った。追いかけてくる気配を察知した二人がその場から離れようとするよりも、レイの片腕を捕まえようとする少女の動きの方が、ほんの僅かに素早かった。

 その手を力任せに振り払おうとした勢いで、フードの下に隠されていたレイの素顔が露わになった。

「……レイ?」

 少女は立ち尽くすレイの顔をじっと見つめ、確かめるように名前を呼んだ。その時、彼の瞳に浮かんでいた感情の名前を、ハックモンは知らない。

2018/09/16
2019/01/02 修正

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