エピローグ

 太陽の光さえ届かない薄闇に、コツコツという軽やかな足音が響く。用途不明の段ボールが無造作に積み上げられた階段を上り、ルカは一番奥のドアノブに手をかけた。建物の入り口に設置された監視カメラが彼女の姿を捉えた時から、扉の鍵は開いていた。

「用がないなら来るなって、何回言えばわかるんだ?」
「んー、あと5000回くらいかな」

 部屋の中に足を踏み入れるなりレイの不機嫌そうな声が飛んできたが、ルカは気にせず適当な返事をする。そのまま部屋の奥に置かれたパソコンデスクに近寄ると、手に持っていたコンビニの袋を空いているスペースに置いた。

「それに、用ならあるよ。差し入れ」
「頼んでないけど」
「ハックモンの分だよ」

 ねー、と言ってルカはこれ見よがしにハックモンを抱き上げようとしたが、ハックモンはするりとその腕から逃れた。「えーん、フラれた―」そう言って今度はデジタマモンに泣きついたが、何も本気で落ち込んでいるわけではなかった。一通りデジタマモンと遊んだあと、ルカは気を取り直してレイの方を振り向いた。

「お遊びはこれくらいにして、本当の用事はこっち。ヒマつぶしにクラスの子のフォロワー辿ってたら、面白いもの見つけちゃった」

 ルカは鞄の中からスマホを取り出すと、ロックを解除してレイとハックモンに差し出した。画面に表示されているのは、とあるSNSの投稿だった。スタンプで顔を半分隠したジャージ姿の女子数人の写真に、“jc3”や“体育祭”といったハッシュタグがつけられている。

「あ、その人たちじゃなくて、こっちのちらっと写ってる方」

 そう付け足して、ルカは少女たちの背景に小さく写り込んでいる人影をズームした。アンテナのようにぴょんとはねた髪が特徴的な、男子生徒のものと思われる後ろ姿。その肩のあたりをよく見ると、そこだけ不自然に空間が歪んで写っている。何も知らない人間ならば画像加工のフィルターがかかっているだけだと思って見逃してしまうほどの些細な違和感ではあったが、レイはその写真を注意深く眺めて言った。

「七不思議の次は、心霊写真ってところか」
「やっぱそう思う? せっかくだから、挨拶とかしに行く?」

 レイは何も答えない。ルカは、写真の少年とその隣にいるアプモンらしき姿をもう一度眺めた。物語は、まだ始まったばかりだ。

2020/02/29

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