七つ目の謎

「クィーンウィール!」

 ベガスモンの放った攻撃が、ルカとレイを目掛けて降り注ぐ。しかし、レイドラモンがひとたび翼を羽ばたかせると、それは目標に到達する寸前で跡形もなく消え失せた。

「すごーい!」

 さっきまで苦戦していた相手と互角以上に渡り合っている姿に、ルカは感激して声を上げた。その足元では、デジタマモンが仰向けにひっくり返って足をじたばたさせていた。自分の活躍の場がなさそうだということを悟って、あまり面白くないようだ。いつの間にか地面に浮かんだマス目のような模様が消えてなくなっていることに気づいたルカは、デジタマモンのそばにしゃがみこむと、諭すように言った。

「ここはハックモンに譲りなよ。今回一番大活躍したんだから」

 ルカがそれによって助けられた面があるのは事実だが、ハックモンがレイの意思に反してまで自分に協力的な態度を取っていたことを、実はずっと不思議に思っていた。

 でも、今ならわかる気がした。ハックモンはきっと、レイをひとりにしたくなかったのだ。

「バラージジャック!」

 金属のぶつかり合う激しい音を立てて、レイドラモンの攻撃がベガスモンを貫いた。ウィルスが取り除かれ、きらめく光の粒子があたりに降り注いだ。



「一匹、取り逃がしたな」
「どこに逃げようと関係ない。必ず見つけ出すだけだ」

 元の姿に戻ったハックモンと短いやり取りを交わしてから、レイは両手をポケットに突っ込んだままルカの方を振り向いた。

 すると、学校では電源を切っているはずのルカのスマホが突然着信音を鳴らしはじめた。不思議に思って画面を確認すると、すぐ目の前にいるレイからだった。ルカが驚いて顔を上げると、レイはどことなくきまりの悪そうな表情を浮かべて言った。

「連絡くらいは取れるようにしておく。お前を放っておくと、何をしでかすかわからないからな」
「え。それってつまり、ルカに一緒にいてほしいって意味?」

 レイは黙って顔を背けたが、繋いだ手が振り払われることはもうなかった。

「ところで、今気づいたんだけど……」

 ひとまず状況が落ち着いたところで、ルカはきょろきょろと周囲の様子を見渡した。ついさっきまでこのARフィールドには、背の高い柱のようなものがずらりと建ち並んでいた。その大半がさっきの戦いで消失しており、かろうじて残っている部分も途中で折れるか崩れるかしている。

「……これ、どう考えてもヤバくない?」

 あの柱の中にはたぶん、学校自慢のハイテクシステムに関する大事なデータがたくさん詰まっていたに違いない。目の前に広がる悲惨な光景の意味を考え、今更ながら青くなったルカを、レイは珍しいものでも見るような目つきで見た。

「ヤバいって、何が?」
「今、“外”では学校中の機械がおかしくなって大騒ぎになってるの。それってたぶん、いや絶対、ここで暴れ回ったせいなんじゃ」
「何だ、そんなことか」

 レイは目を伏せてルカの話に耳を傾けていた――かと思うと、妙に得意そうな笑みを浮かべて言った。

「俺を誰だと思ってるんだよ」



 都内某中学校で突如発生した原因不明のシステムエラーは、その日のうちに原因不明のまま復旧を遂げた。授業中に起きた事故であったために生徒の混乱は避けられなかったものの、データの損失や個人情報の流出といった被害は一切なかったということが、後日行われた学校側の調査によって明らかになった。

 だが、この奇妙な現象を引き起こした原因については、とうとう謎が解明されないままだった。一部の生徒の間では“学校の七不思議”の七つ目説がまことしやかに囁かれたが、いつの間にかそんな噂は怪談ブームと共に忘れられていった。

2020/02/29

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