七不思議の正体

「「アプモンチップ、レディ――!」」

 レイとルカ、それぞれのアプリドライヴが放った光の中からハックモンとデジタマモンの姿が実体化アプリアライズし、歪な姿の巨鳥と対峙する。
 
「ケケケケケケーッ!」
「……っ!」

 右の頭がひときわ高い鳴き声を上げると、マイクをスピーカーに向けた時のような、キーンという音が耳をつんざく大音量で鳴り響いた。ルカたちがその音に気を取られた一瞬の隙をついて、怪鳥は飛び込んできたときと反対側の窓ガラスを破壊し、放送室の外へと飛び去っていった。それを追ってグラウンドへ出てきたレイは、ARフィールドの空を自在に羽ばたく怪鳥を見上げ、舌打ち交じりに呟いた。

「上に逃げられると面倒だな」
「んじゃ、さっさと降りてきてもらお。……デジタマモン!」

 ルカが耳を塞いだまま呼ぶと、デジタマモンの割れた殻の部分――ちょうど、目があるはずのあたり――から、黒い“何か”が伸びた。一見すると巨大な腕のように見えるそれは、縦横無尽に空を駆けるアプモンの姿を影のように追いかけ、やがてその片足をしっかりと掴んだ。そして、デジタマモンはその黒い腕を思いきり振り上げると、獲物を勢いよく地面に叩きつけた。その衝撃で、周囲にデータの欠片でできた砂塵が舞い上がる。

 しかし、敵も大人しくやられているばかりではなかった。今度は左の頭が吠え、その音が衝撃波となってデジタマモンの姿を弾き飛ばす。

 そして怪鳥は再び空へ舞い戻ろうとしたが、もう遅い。

「ヴァンキッシュ――」

 次の瞬間には、足音も立てずに接近していたハックモンの爪が、鳥のようなアプモンの目の前に迫っていた。

「クロー!」



 チップの状態にまでは戻らなかったものの、鳥アプモンにはもはや抵抗する気力もないようだ。地面に仰向けに倒れたまま、まったく動く気配がない。その様子を見たルカは、ほっと安堵のため息を漏らした。

「あー、うるさかった。何なの? この鳥」
「こいつはロアモン。このアプモンの鳴き声に含まれる特殊な電波によって、校内の電子機器が異常を起こしていたようだ。外部からの侵入が妨害されていたのも、恐らくこいつの影響だろう」
「じゃあ、コイツ倒しちゃったし、学校の七不思議は解決ってこと?」
「いや」

 ルカがハックモンに尋ねた時、それまで一歩引いたところから状況を眺めていたレイが、彼女を押しのけて前に進み出た。

「こいつには、まだ聞きたいことがある……」

 満身創痍のロアモンに向けて、ハックモンの爪がじわじわと忍び寄る。その光景を目にして、ルカは初めて気がついた。ロアモンは倒してもチップの姿に戻らなかったのではない。ハックモンがあえて戻さずにいたのだ。

「答えろ。一体何のために、学校中に妙な電波を流していた?」

 レイの口調は淡々としていたが、それがかえって逆らうと何をされるかわからない雰囲気を漂わせていた。さっきまで爆音で騒ぎ立てていたのが嘘のように震え上がっているロアモンに向けて、ハックモンはただ黙って爪の一本を突き付けた。そこから逃げ出すことはおろか、動くことさえできずにいるロアモンの姿はどこか、蜘蛛の巣に捕らえられた蝶を連想させた。

「正直に答えた方が身のためだぞ。お前だって、ただのデータの屑には戻りたくないだろ?」



「ひえー。なかなか容赦ないな」
「……」

 その後、ありとあらゆる手段を使って情報を聞き出したレイは、ようやくロアモンをチップの姿に戻してやっていた。

「この鳥は奴の上にいる何者かの命令で、この学校内のネットワークに特殊な電波を流していた。そして、それが原因で引き起こされた電子機器の誤作動が、たまたま生徒の間で学校の七不思議として広まった……。だが、ロアモンを操っていた奴の真の目的は、こいつの発する電波を利用し、校内のARフィールドのどこかに潜む“特殊なアプモン”を探し出すこと」

 そして、手に入れた情報を頭の中で整理するようにぶつぶつと喋り始めたレイの後を、ハックモンが引き継いだ。

「それが、セブンコードアプモン」

 ルカはしばらく口を挟まずに聞いていたが、話が一区切りついたタイミングを見計らって尋ねた。

「ねえねえ、セブンコード……って何?」
「そんなことも知らずについて来たのか?」
「だって、誰も教えてくれなかったし。デジタマモンもそんなの聞いたことないって言ってる」
「……それ、本当だろうな?」

 堂々と開き直るルカにレイは心底呆れた顔をしたが、一応説明してくれた。セブンコードアプモンとは、リヴァイアサンに対抗し得る力を持つ七体の特別なアプモンのことで、ロアモンから聞き出したところによれば、そのうちの一体がこの学校のどこかに隠れているらしい。

「ってことは、敵より先にそのセブン何とかを見つけ出さないといけないわけね。どうやって探す?」
「ロアモンの怪電波の影響がなくなった校内のネットワークなら、オレが探ることができる」
「じゃ、そっちはひとまずハックモンに任せるとして……そろそろ二時間目終わるし、いったん教室に戻ろうよ」

 ルカが空中にアプリドライヴを掲げると、あたりの風景がたちまち現実世界のものに切り替わった。ルカとレイの二人は、揃って放送室を後にした。

2019/05/15

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