※設定の捏造あり※





淡い期待は捨てたはずだった。
幼いころから閉ざされた空間に存在し、闇に落ちた自分が明るい場所ですてきな人生をおくるだなんてことは夢物語だ。現に、いま、あの校長のシナリオ通りにことが進んでいる。人を殺める感覚にまだ脳と身体がついて行かない。


震える口元を隠しながら、彼女のことを想った。


騎士団のメンバーであるサラとは学生時代から面識があり、お互い本が好きだということや、彼女がリリーの友達だったこともありそれなりに交流があった。だんだん進む方向性にずれが生じて、彼女が闇祓いになったとき決別し,あの事件が起きた。


秘密は秘密のまま、セブルススネイプはあの時、一度、死んだのだ。


ホグワーツの教授になってからはたびたび顔を合わせる機会が多くなり平行線だったものが少しずつ近づいていって和解した。光を失い、ダンブルドアに拾われたふたりは一緒に過ごす時間が多くなった。

しっかり者だったサラはあれからしっかり者を演じていて、よく笑うようになった。つらくないわ、だってハリーがいるもの、それに、私たちの中でみんな、永遠に生きているんだから、そう、笑っていた。髪の毛がのびっぱなしの彼女の変化に気づかないわけがなかった、自分も、同じ思考だった。


「ここで泣こうが喚こうが誰にも聞こえない」
「だからなに?泣けって言うの?」
「強制はしない」
「わたしに泣く理由なんてないよ」
「そうか。なら、」


「真実薬でものむか?それともここで泣くか?部屋に帰ってひとりで泣くより塔から離れているここのほうが良いと思うがな」


なによ、それ、と言いながら、呼吸が不規則になった彼女を見て、この地下室に似合わないと思った。彼女が手に持っていたレポートが床へと落ちる前に机の上まで漂わせて、睡眠薬いりの紅茶をいれることくらいしか、できなかった。


次の日から頻繁に彼女はここに出入りするようになり、サラとの関係性が変わったことをダンブルドアから茶化された時には顔を真っ赤にしている彼女をみた。あれから何回も季節が変わって、サラと共有していた時間が人生の中でいちばん長いと感じるくらい共に過ごしていた気がする。



空気が重く薄暗い部屋の扉を開けると、彼女がいた。


彼女とこの空間とでは不釣り合いという言葉がよく似合う。そうだ、私と彼女も、黒い犬の口からいつも出てきていたそんな言葉で表現されるのだ。


長がいなくなった騎士団は動き出す、騎士団として学校に配属されたひとりの正義感の強い魔法使い。ここに来ること、それは想定内の出来事だ。


「半純血のプリンス、わたしにさよならって言わないつもりだったの?」


「さいごにここへ来ると思った」
「……そうか」
「なんでも知ってるつもりだった」


「でも、なんでこんなことをしたのか、いつから裏切られていたのか、わからない」


彼女が動いた。呪文をかけてくるであろう彼女の杖を取り上げて、まっぷたつに破壊すると、見たことのないような顔をした彼女が、そこにはいた。ねじられるような感覚を味わいながら彼女の最後の行動を思い返す。


これでいい。人生とはこんなものだ。
それが私の意義である。


彼女の瞳が揺れている。
これからルーピンにあたたかいホットチョコレートを淹れてもらって話を聞いてもらうんだろう、トンクスにハンカチを差し出してもらい、子供たちには弱いところを隠すんだろう。黒い犬やリリーがうつっている写真を見ながら涙を流すんだろう。そして、一番気に入っているうすい水色のドレスでウィーズリー家の結婚式に空元気な笑顔で出席するのだろう。


彼女がひとり心で泣き叫んでいるのに、大きな屋敷で黒を纏った集団とその上に君臨し続ける男との会合の中に自分がいることを不自然に感じて目を伏せる。


泣きたい程に生き苦しい。君のいない世界がこれほどまでに呼吸を乱すとは平和な日常が続きすぎていたせいか思ってもいなかった。世界は結局私の苦しみなどに気付いてくれないのだ。だからこうして時間が経っていく、止まってはくれない。俯いていれば何も誰も興味を持たないことわいいことにずっと影を落としていた。




ああ、もうすぐ、終わる。
蜷局を巻く大きな物体に毒を飲まされ、二度目の死を迎えようとしたとき、目の前にいたのは生き残った男の子とその取り巻きだった。


世界で一番きらいだった。人を卑下し、からかい、最愛の人を唆して奪い去った、あいつが世界で一番きらいだった。今は、サラの吐息が届くところにいられない自分のことが、世界で一番、きらいだ。


世界で一番きらいだった男の子どもに未来を、ふわふわと漂う銀色の記憶を託し、静かに目を伏せる。


まぶたのうらに、きみを飼っている。


いつものように笑う、きみをいつまでも見ていた。
ちょっとしたことですぐ機嫌を悪くするくせに深刻な問題になると我慢してしまうその心も、遠慮がちにつながれるやわらかい手も、中途半端なかたちをしたまゆげも、鮮やかな記憶たちを引っ張り出す。


何故うれしそうに消えていったのかときかれれば、違う世界に行かなければきみの一番近くにいられないからだと答えるだろう。


ちいさい手で世界を守ろうとするきみに、幸多からんことを。




2013.09.01


ところどころの言葉は過呼吸さま、白々さま、喘息さまからお借りしました。
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