「ここに居たのか。」


ふわっと隣に座った彼に、私はだんまりを決め込む。サラザールがこのホグワーツを去ると言ってきたとき、私は大きな衝撃を受けた。彼に憧れ、こんなところまで着いてきたのに、またどこかへ行ってしまうなんて。いつも私はおいてけぼり。ゴドリックなんかよりサラザールに残って欲しいのに、みんなそういう訳ではないみたい。昔は仲も良かったのに、いつからこうなってしまったのだろう。


「そう意地を張らないでくれ。すぐにここを出るというわけじゃないんだ。」


ちらっと覗き見た彼の顔は眉が下がっていてしおらしい。別に、私のことなんて妹分くらいにしか思ってないくせに、彼はこうして頭を撫でて慰め、まるで恋人のように私を扱うのだ。勘違いしてしまいそうになる。


「どうしておいて行くのよ。」


やっと出てきた声は酷く震えていて、馬鹿みたいだ。まるで懇願するようなそれにサラザールは思いの外気を良くしたのか、周囲に誰もいないことを確認した後、睨み付けている私を無視して優しく抱き締めた。


「サラも一緒に来ないか。」


まさかそんなことを言われると思っていなかった私は固まってしまう。良いとも嫌とも言わない私に追い討ちをかけるように、彼は耳元で好きだと呟いた。


「嘘よ。」

「嘘じゃない。」


嘘だ。だってサラザールはいつもロウェナを見ていた。綺麗で頭の良い彼女を特別な目で見ているのを、誰よりも理解していた。動く階段を設置したときなんか、見事な魔法に私ですら魅了されてしまったものだ。私はまだ四人のように魔法を自分のものに出来ていない。その分、呆れられることも多かった。それなのに、サラザールが自分を好きになる?考えられなかった。嬉しさよりも、何故、どうしてが頭を支配する。また黙った私に、彼は優しく頭を撫でた。あたたかい、彼の手。


「どうして私なの。」

「どうしても、だよ。」


さあ、おいで。
突然立ち上がった彼に黙って手を引かれ、連れてこられたのは三階の女子トイレ。不思議に思う暇もなく、彼は蛇語でなにか呟いた。突然、洗面台が動いたかと思うと大きな入り口が開かれる。


無言で歩みを進める彼に置いていかれないよう黙って着いていく。ここはなんなのだろう。サラザールが作ったのだろうか。何のために。


「目を開けてはいけないよ。」


大人しく目を瞑った私の耳に、また、なにか声がする。サラザールの声と、もうひとつ。こんな暗く、誰が閉じ込められているのだろう。興味本位で目を開いた瞬間、目の前には大きな"なにか"。


そこで、私の記憶は途絶えている。




「すごい!すごいぞバジリスク!」


横たわっているのはさっきまで生きていた馬鹿な女。私を好きになったばっかりに殺されてしまった女。この女のお陰でバジリスクの能力をこの目で見ることが出来たのだ。嬉しいことだ。後はこの女がいた証拠を無くせばいい。彼女の遺体をバジリスクに渡し、私は外に出た。彼女を知っている人々は極一部。記憶をなくしてしまおう。足早に廊下を歩く私の頬を、止まることのないそれが濡らしていく。


この世界は奇跡でできていた


誰も彼女を覚えている者はいない。彼女は遺体も残らない。それでも鬱陶しく残るこの感情は、彼女を愛してしまっていたという証拠なのだろうか。

奇跡のようだった日々を思い浮かべ、私はホグワーツを後にした。


20130804
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