最悪だ。先程まで高まっていた気持ちも、今ではどん底の手前まで落ちてしまっている。
 時は遡る。今私がこの待ち合わせで有名な横丁の入り口の脇に立っているのは、大して難しい理由ではない。彼の家の都合(多くのパーティーに顔を出さなければならないらしい。私の家は主催する側だからあまり分からないのだが、)で、一緒にどこかへ出かけられないクリスマス休暇が続く中、三日程前の夜、急に買い物に誘われたのだ。私は誘われたことに対して舞い上がってしまい、その日があのクリスマスだなんてことには気付かずにいた。それに気付いたのは当日の一日前であった。その日はアドベントカレンダーの折り込まれた部分の量を見てクリスマスイブだと気付き、ふと彼との約束を思い出した。クリスマスイブに会えないのよね、と肩を落としたのも一瞬で、約束の日付が明日だということに今更ながら驚いたのだ。クリスマス当日に会うことが出来るという喜びと、相手から誘ってくれたという喜び、全てが嬉しくて、この日は無意識に鏡を眺める時間が多かった。


「明日は、レギュラスに会える」


お互い忙しくしていて、外だけに限らず同じパーティーに参加しても会えないという状況だった。レギュラスと私の身長差はどんなものだっただろうか、彼の手の温もりはどんなものだっただろうか、考えれば考えるだけ彼のことが好きになる。今気になったことは、明日確かめればいいのだから。そう思いながら、私は胸を踊らせながら眠りについた。


 当日の朝は、寝坊することなく起きることが出来た。レギュラスの為に、可愛くメイクをしてもらい、新調した洋服に袖を通す。準備も余裕を持って終わらすことが出来たし、レギュラスを待たせるわけにもいかないので、待ち合わせであるダイアゴン横丁へと一足先に向かったのだ。どうやらこの時点で、私の結末は決まっていたらしい。
 横丁の入り口には待ち合わせをしている人が大勢いた。暖房の温風は感じることが出来るけれど、風が吹き抜けるこの場所では、やはりひんやりとした風のほうが身に染みてしまう。寒いと体を震わせながら、着ているコートをぎゅっと掴む。
 寒さに耐えながら時間を確認すると、その時点で約束の時刻から20分程が過ぎていた。流石に遅い。
 一度漏れ鍋に戻ろうか、と思った時だった。一羽のフクロウが私の目の前に降りて来た。そして、そこに書いてあった内容を見て私は凍りついた。


 話は冒頭へと戻る。
 私は落ちた気分のまま、持ってきていた、三日前のレギュラスからきた手紙を見直した。そこには確かにノクターン横丁、と書いてある。漏れ鍋に着いたとき、人がたくさんいたものだから何の疑いもなくダイアゴン横丁で待ち合わせだと思ってしまったのだ。
 はあ、と溜め息を吐く。レギュラスとの貴重な時間を無駄にしてしまった悔しさ。ここにレギュラスがやってきたら、最初にきちんと謝ろう。そう決意し顔を上げたら、遠くによく見知った彼の姿が見えた。黒髪で、色が白くて、整った顔立ちをしている彼は、私の方へと近づいてくる。寒くて手をこすっていた私はその手を離し、控えめに手を振った。


「レギュラス…」
「まさかのハプニングでしたね」
「あの、本当にごめんなさい…私、「別にいいです。気にすることではないですし」
「でも……寒かった、でしょ?」
「それはサラだって一緒でしょう?」
「だって、手冷たい……」
「大丈夫です」


 私のミスにも関わらず、レギュラスは薄く笑って、私の手をとる。彼は優しすぎるから、私は少し気が引けてしまうけれど。
 待ってた時間が長すぎのか、レギュラスの手は私の手以上に冷たかった。私は謝罪の気持ちも含め、レギュラスの手に力を込めぎゅっと握ると、レギュラスもそれに応えるように握り締めてくれた。ああ、私は、本当にレギュラスのことが好きだ。彼の手はまだ冷たいけれど、別にいい。だって、ずっと手を繋いでいれば、じきにそれは伝わってくる。
 そしてそれから繋がる手に熱を持ったのなら、その時私たちは口付けを交わしているのだろうから。


20130923

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