初詣 | ナノ





はぁ、と息を吐き出すと、白く濁った二酸化炭素たちが視界を掠めた。視覚的に攻めてくる寒さから逃げるようにぐるぐると巻きつけたマフラーに顔を埋める。こもった暖気が冷たい風に晒されていた頬を刺激し、ちくちくした。

「ふわあ…さっむ」
「たりめーだ1月があつかったら異常気象だろ」
「いじょうきしょうとか…シズちゃん意味わかってんの…」
「すり潰すぞ」
「おお怖」

初詣に行こうと言いだしたのは、さてどちらだったか。俺だったような気もするしシズちゃんがテレビに感化されたような気もする。
言いだしっぺはともかく、初詣のために今こうして俺とシズちゃんは歩いて数分の小さな神社目指して寒空の下歩いているわけだ。
年末年始を二人で過ごすようになって数年、こうして初詣に出かけるのは実ははじめてだったりする。いつも年越しから元日にかけてはベッドの中で適度な運動(笑)に励んでいるし、大体しつこいシズちゃんに付き合っているとその日は夕方近くまで起きられない。そしてまたその日の夜から朝方にかけて…と、正月早々爛れた性活(漢字はこれで正しい)を送っているのが常だった。
しかし今年はやけにシズちゃんは大人しく―あくまで去年の比であるが―昨日もさほど無理強いをされずに昼前には起床できた。
のろのろと朝食兼昼食を用意していると、後から起きてきたシズちゃんが開口一番に言ったのだ。
「初詣行くぞ」と。

「ああじゃあ言いだしっぺはシズちゃんか」
「なにがだよ」
「んー、初詣行こうなんて珍しいというか、そういうとこきちんとしてそうだから逆に今まで言わなかったのが驚きというか」
「…別に意味はねえよ」

歯切れの悪いシズちゃんを見上げる。普段と違い、黒のジャケットにジーンズをショートブーツに合わせて着こなすその姿は、まあ、あれだ、無駄に心拍数が上がる程度にはかっこよかった。くそ、シズちゃんのくせに生意気だ。

「シズちゃんのばーか」
「んだよさっきから」
「寒いから早く帰ろうよ」
「まだ着いてもねーだろうが」

だって、そんなかっこいいシズちゃんをあんまり他の人に見せたくないんだから仕方ないだろ。








いくら都会の片隅の小さな神社とはいえ、境内に入るとそこそこ人の群れが出来上がっていた。家族連れも見えたがそれよりもカップルが圧倒的に多く、まあ帰省先が新宿のど真ん中っつうのは中々ねえよな、とぼんやり思う。

「シズちゃんシズちゃん、ぼーっと突っ立ってないでほら行くよ」
「…なんかやけにやる気出てんな」
「早く帰ってあったまりたいんだよ」
「へーへー」

小走りに境内を進む臨也を追う。こげ茶のコートに黒の細身のパンツ、編上げのショートブーツを合わせた臨也は、頭をすっぽり覆う毛糸の帽子も相まって一瞬女と見紛う様相をしている。流石に帽子はどうなんだと出掛け際に言ってみたのだが、「俺寒がりだから」と一蹴された。似合わねえとかじゃないんだよ、なんつーか、その、耳が隠れるデザインで、それお前明らか女物だろっていうのに、違和感ねえっつーか、あーくそ、

「襲うぞ」
「なんか言ったー?」
「なんでもねえ」
「?あっそ」

追いついた臨也と並び境内を進む。やはり参拝客は多く、賽銭箱の前になってくると朝の通勤電車さながらだ。
それでもなんとか賽銭箱に辿り着き、ポケットから小銭を探り当てる。指にあたったそれを引っ張り出すと、丁度五円玉でなんとなく幸先が良い気分になった。
横目で臨也を確認すると目があった。どうやら向こうもこちらの準備を待っていたらしい。小銭を投げ入れたのは同時だった。掌を合わせ、そっと目を閉じる。




(シズちゃんなんてお願いした?)
(誰が教えるか)
(わかったどうせやらしいことお願いしたんでしょうわー変態、えっちー)
(そうかまだ足りないか悪かったな臨也くんよぉ帰ったら覚えてろ)
(ぎゃあちょっと離してよ!…あ、でもあったかい。流石シズちゃん子ども体温だね)
(うっせ、さっさと帰るぞ)
(あ、帰りにコンビニでおでん買って帰ろうよ。あったかいの食べたい)
(大根とこんにゃく)
(俺もちきんー)









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