相手を動物に例えるなら? そう聞かれたら、猫、と即答するだろう。 腕の中でかこかこと携帯をいじる臨也の後頭部を眺めながら、俺はぼんやり考えた。 今だって突然家にやってきたかと思えば、「急に鍋が食べたくなって」と持ち込んだ食材で夕飯を作り、しっかり風呂まで入って人のジャージを着て満足そうにしている。 風呂からあがってテレビをぼんやり眺めていたところに割り込まれた時には驚いたが、人の邪魔をするでもなく、立てた膝の間でこちらに背を預けるように寄り掛かってくるのに悪い気はしなかった。 黒いラウンドネックの襟から覗くしろい首筋に滴が垂れるのを見て、はぁとため息をつきそばに放っていたタオルを取り上げ髪を拭いてやる。「うぎゃ、」と声が漏れたがそれ以上の抵抗は無く、大人しく拭かせてくる。 「濡れんだろ、しっかり拭いてこいよ」 「いいじゃんどうせシズちゃんだって拭いてないでしょ」 「俺はいいんだよ」 「横暴だー」 くすくすと笑う臨也のあらかた拭き終えた髪に指を通す。湿っているためさらりと流れるようなさわり心地ではなかったが、男にしては細いそれを手櫛で整えた。 「おら、これでいいだろ」 「ん、」 ありがと、と振り向いた臨也の唇が、俺の口の端に押し当てられる。劣情を誘うようなものではない、例えるなら動物の子どもがじゃれあうような。 俺もそれに何ら反応することなく、お返しとばかりに額にキスを落とした。 ごく稀に、そういう時期がぴったり重なることがある。 まだ若い(つもりだが)俺たちは、喧嘩の延長線上のようにセックスをすることが多い。喧嘩も一種の興奮状態であるためか、喧嘩という名の追いかけっこの末路地裏で事に及ぼうとしてお互い我に返ることもある。特に俺の苛立ちと性欲が混ざると酷いもので、一日中臨也を抱いたこともあるくらいだ。幾ら臨也が気が乗らない、やめろ、と言っても無視する。臨也がその気になったときに同じように俺が気分じゃないと言っても聞かないのだから、お互いさまというやつである。 かと思えば、今日のようにただひっついてるだけの日もある。 波が合わなければそのままセックスにもつれ込むだけなのだが。 「シズちゃん、今日仕事は?」 「ここんところ連勤だったからな、トムさんが休めって」 「ふうん、」 「なんだよ」 「もしシズちゃんがいなかったら、ご飯作ってアレやろうと思ってた」 「あれ?」 「おかえりなさい、ご飯にする?お風呂にする?それともお・れ?って」 「あほか」 けたけた笑う臨也を抱きすくめる。臨也が携帯を放り出すのを視界の隅に捉えたが、それを気にかけるより目の前の黒猫を愛でたい気分が勝った。ぐりぐりと肩に額を押しつける臨也を真似るように、細い肩口に顔を埋める。すん、と鼻を鳴らすと、自分がいつも使うシャンプーのにおいに混じって臨也のにおいを感じ取った。 ふと、ごろごろ甘えてくる臨也を剥がして正面から見つめる。具体的に言うなら、首筋から鎖骨のラインを。 (あー、消えてんな) 不満そうに睨んでくる臨也を気に掛けず、そのまま注視していた場所に唇を寄せる。強く吸いついてからもう一度確認すると、今度はしっかりと赤い華が咲いていた。 「あ、また痕つけて。ここ隠せるギリギリのとこなんだからね?」 「知るか」 「独占欲強い犬は困るなあ」 口では可愛くない言葉を吐くが、そこをそっと指先でなぞる臨也の頬がほんのりと赤くなっているのを本人は知っているのだろうか。幸せそうに綻ぶ表情に自覚が無いのも困る。 俺は満足して、再び臨也を抱き寄せた。 「ねーシズちゃん、あまいものが食べたい」 「は?んなもんうちにあると思ってんのか」 「ふっふ、さっき冷蔵庫の中のプリン見つけちゃったもんね」 「…………半分、寄越せ」 「はいはいっと」 |