何でもないと嘘を重ねることの苦しみを知っているのか | ナノ



創始者は言った。

「はい、この間あそこの家電量販店の前で…。誰かと待ち合わせしているような感じでした。けど、なんだか様子がおかしくて…僕も普段から顔を合わせてるわけじゃないんですけど、でも鈍いって言われる僕が気付くくらいですからよっぽどじゃないのかなと思ったんです。で、どうしたんですか臨也さんって聞いたら、」



異形を宿す少女は言った。

「あ、あの…え、臨也、さんですか…?あ、ええと、一週間くらい前に駅前で…お会いしました。はい、あちらから声をかけてくださって…それで、しばらくお話ししてたんですが、なんだか顔色が悪いような気がして…。ええ、それで、思い切って、具合でも悪いんですかってお聞きしたら、」



将軍は言った。

「…俺に臨也さんのこと聞いても、無駄ですよ。連絡が来ないんで、俺もどこで何してるか分かんないんです。多分東京にはいると思いますけど…。え、…ああ、はい、二週間くらい前に臨也さんの事務所に呼びだされて、まあ書類の受け取りとかだったんですけど、普段と様子が違ってて。一応雇い主なんで、臨也さん風邪ですかって聞いてみたんですけど、」



有能な秘書は言った。

「知らないわ。私は何も知らないし、聞いていない。あいつがどこでなにをしていようが、私になんの関係も無いわ。…ええ、そうね、あれはいつだったかしら、やけに帰りが遅かったときがあって、丁度私が帰ろうとしたところで玄関で鉢合わせになったことがあったの。帰りが遅かったじゃない、どうしたのよって聞いたら、」



世話焼きの同級生は言った。

「ああ、そういやこのごろ会わねえな。またアイツのことだからどっか危ないことに首突っ込んでなきゃいいんだが…。いや、もうひと月以上前になるからな、ちょっとした世間話して、別れたよ。…ああでも何か言いたそうにはしていたか。だからどうしたって聞いてみたんだが、」





闇医者は言った。

「そうだね、僕はあえて君にこう言おう。君は臨也に会って、どうするつもりだい?」
















あーあ、見つかっちゃった。

数か月ぶりに見た臨也は最後に会ったときと変わらない、ファーのついたフードコートを纏い立っていた。
ぼろい廃ビルの屋上。池袋が所在地だというのに街の喧騒はどこか遠く、ここだけ切り離されたような錯覚を感じる。臨也は珍しくフードを頭からすっぽりかぶっていて、夜の闇も相まってその表情は分からない。
俯き加減に背を歪ませ、ポケットに手を突っ込んで、臨也はどうしたの?と俺に聞いてきた。

「シズちゃんに怒られるようなことしてないと思うんだけどなあ。池袋にも近づかなかったし」
「…ああ、そうだな」
「ああなに?なんか苛つくことでもあったのかな?それでわざわざ俺を探し当てるとか、シズちゃん俺をサンドバッグか何かと思ってない?」
「ちげぇよ」
「……素直なシズちゃんすっごい気持ち悪い。どうしたのマジで」
「…どうしたの、は俺の台詞だろうが」

瞬間、びくりと大げさなくらい臨也の肩が跳ねた。
それを見逃さず、俺は一気に間を詰める。腕を掴む。ごり、と骨の感触が生々しく伝わってきて、思わず舌を打った。

「離せよ」
「手前、今の今までどこに雲隠れしてやがった」
「どこだっていいだろ」
「なんでいきなりいなくなったんだ」
「シズちゃんには関係ない」
「なんかあったんだろ」
「なんでもない」
「かなり痩せただろお前」
「なんでもないって」
「臨也」

名前を呼ぶと、臨也は俯いていた顔を勢いよく上げ、そのままぐいと俺の唇に自分のそれを押しつけた。
俺の言葉をせき止めるためとでも言うようにかさついた唇はすぐに離れる。

「なんでもないんだ、シズちゃん」

ビル風が吹きぬけ、コートがなびく。黒髪が空気をはらんで、舞う。

消えそうな笑みを浮かべて、ただ臨也はその言葉を繰り返してきたんだろう。
そんな顔して、そんな声で、そんな言葉が信じられるわけないのに。
やつれた頬を、雫が一筋流れていった。













「なんでもないよ」

















企画「ブルータル」提出
素敵企画に参加させていただきました。


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