(田夏田なかんじ) じーわ、じーわ、 「蝉が…鳴いてる…」 「夏だからなぁ」 じーわ、じーわ、 「うう…暑くて溶けそうだ…」 「夏だからなぁ」 じーわ、 「あ、鳴きやんだ」 「夏だからなぁ」 ベッドに寝転んだ状態から視線のみを田沼に流して、夏目はむぅと唇を尖らせる。 「こら田沼、聞いてないだろ」 「えー聞いてる聞いてる」 「さっきから同じ答えしか帰ってこないぞ」 「それ以外にこたえようが無いんだから仕方ないだろー」 田沼の意見も最もだが、暑さに弱い夏目にしてみれば田沼はなんとも涼しげな顔をしていて、つい恨めしげな声で暑さを訴えてしまうのは仕方のないことだ。 持ち主が譲ってくれたベッドに俯せになりながらふと田沼の首筋が視界に入った。 畳に腰を下ろした田沼はこちらに背を預けているため見えているのだが、そこをつぅ、と汗が流れるのを見つけた夏目は(ああ、田沼も一応暑いんだなぁ)とぼんやり考えながら、 ぺろ、 「ヒッ!?」 「あ…しょっぱい」 「いっきなり何するんだよ夏目…」 「何してんだろう…」 「汚いからやめろって」 「いやあ、田沼も暑いんだなぁって思ったらつい…」 びくん!と肩を震わせた田沼がベッドの縁に腕を乗せて振り返る。 その顔がどことなく恥ずかしそうに見えて、夏目はちいさく笑った。 「田沼、顔赤いぞ?」 「…暑いからな」 「夏だからな」 さっきまでの田沼の言葉を真似て言えば、田沼が一本取られた、という顔をしたのがまた面白い。 くすくす笑っていた夏目は、しかしふと元々近かった田沼との距離が更に近くなっているのに気付いた。 あ、と思う間もなく、頭に響いたのは軽いリップ音。 「…な?びっくりするだろ?」 「…なんかくやしい」 「顔が赤いぞ?」 「…夏だからいいんだよ」 嬉しそうに笑う田沼の顔に、また頬が熱を持つのが分かる。 そのままベッドに顔を埋め、田沼のくせに、ともごもご呟くしか今の夏目にできることは無かった。 |