七月某日、晴天 | ナノ





あつい。
人んちに上がり込んできて俺のベッドを占領し暑いだなんだと文句をたれ、あまつさえそのまま気を失うように眠りについた馬鹿が起きたようだ。扇風機をほぼゼロ距離に据えてぼんやりしていた俺の耳に呻くようなくぐもった声が聞こえ、うつ伏せた黒髪を視界の端にうつす。

「てめぇやっと起きたか」
「……まだ30分経ってないよ…」

言われて時計を見ると確かにこいつが押しかけてきてまだそれ程経っていないことに気づく。が、訂正する必要も謝る気も無いので発言はスルーしてやった。

「つうか何しに来たんだよお前」
「ねー…クーラー買ってよ俺のために…」

こいつも俺の質問をスルーするつもりらしいちくしょう。
大体本当に何しに来たんだと思う。俺の住むアパートは所謂1Kでクーラーなどといった高級品が付いているようなレベルの部屋じゃない。夏場の空調は、こうやって俺が考えている間も隣で低く鳴く扇風機だけだ。
それに比べ後ろのベッドでぐたりと寝そべっている男のほうが何倍も広くて高そうなマンションに住んでいる。クーラーなんかも一部屋に一台あるんじゃなかろうか、そこまで気にしてこいつの部屋を見たことは無いからなんとも言えないが。

「だれがてめぇなんぞのために買うか」
「あった方が絶対いいよ〜…あれ涼しいよ〜…?」
「んなの知ってるっつうの」

もそもそと身じろぎ身体を横に向かせ、「ぜったい病みつきになるってぇ〜…」と間延びした声をもにょもにょ呟く。
緩く目を閉じたそいつは、春よりまた痩せたような気がする。白いを通り越して若干青い頬や額に、汗でぺたりと張り付いた黒髪が妙なコントラストを見せた。夏バテだと言っては食事を平気で摂らないこいつは、よく門田や新羅に怒られていたなぁと高校時代の決して美しいだけではない記憶を思い起こす。

「……あ、」
「あ?」
「そうだ、アイス買ってきてよ」

クーラーは無理でもアイスならシズちゃんの安月給でも買えるでしょー?2つで手を打つから買ってきてー。
素晴らしい案だとばかりに弾んだ(それでもだるさは抜けきらない)声音で語り出したそれを否定の言葉で一蹴すると、恨みがましく睨みつけられた。なんで俺がてめぇのためにわざわざこの暑い中コンビニくんだりまで出かけなきゃならねぇんだ。

「うー…シズちゃんのいじわる…」
「うるせぇ、俺だって暑いのにゃ変わりねぇんだよ」

あつい。
また呻いたその身体をみやり、夏は始まったばかりだというのにこの調子で乗り切れるのだろうかと多大な呆れとほんの少しの心配を溜め息にこめて、再び時計に視線を向けた。



陽がかげってきたら、近場のコンビニに出てやってもいいと思うあたり、俺も暑さで相当やられているに違いない。











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