亜空の使者2
正体不明と裏切り者 [3/4]

ワリオから奪ったカーゴに乗り、爽快な平野を進むデデデとセルシュ。
カーゴの荷台にはフィギュア化したピーチ・ネス・ルイージが乗っており、更にフィギュア化させるファイターを求めて東へ。


「ワドルディの報告があった中で一番近い所ね。一人じゃない可能性もあるけど、猶予がどれだけあるか分かんない事だし、選り好みはしてられないわ」
「出来れば強そうな奴が良いが、そういう奴はフィギュア化させるのに手間取るだろうな……」
「手間取るどころか負ける可能性もある訳だけど。っていうかデデデ、ファイターは選ばれてるんだから、形は違えど皆強いよ」
「セルシュよ……強そうな見た目というのは割と大事だぞ」
「弱そうに見えたら敵も油断してくれるんじゃない? ま、要はファイターなら誰でも良いって事ね!」
「極論だな……が、結局はそうなるんだろう」


居ないより居る方が良い。
セルシュの言う通り、ファイター達は皆、元の世界から特別に選ばれた存在。
形は違えど全員が強者で、相当な実力者なのだ。


「そこを行くとセルシュ、そんなファイター連中の中で常に上位に名を連ねるお前はどれだけ強いんだ。他のファイターは順位が上がったり下がったり、下位から上位へ、上位から下位へ移動する事も珍しくないというに、お前は上位から動いた事が無いだろうが」
「なんで知ってるの?」
「まだファイター達に顔を出していないとは言っても、情報ぐらいは入るさ。ワシ……というかメタナイトを訪ねて来たファイターがまさか、そんな実力者ったぁ驚いたぞ」
「ふふふ、この事件が解決したら対戦しようか。きっと私の強さに驚くわよ!」
「もう全部お前一人で良いんじゃないかな」
「いやそこまで強くない。ってかさり気にタブー討伐を私一人に押し付けようとしないで下さいませんか」


さすがのセルシュもタブー相手に無双できる程の強さは持っていない。
直接戦った訳ではないが、出会った相手の強さぐらい窺い知れる実力はある。
……ルイージの件はまあ、ノーカウントで。

平野を進んだ二人はやがて美しい湖畔へ辿り着いた。
何も無かったらピクニックにでも来たいと思える爽やかな景色を見ていると、こんな事件を起こしたタブーや亜空軍が益々許せない。


「何よりハルバードを! 奪った事が! 許せないっ! てか極刑に値する!!」
「過激だな」
「だってすっごい楽しみにしてたのにこの仕打ちよ、許せる訳ないじゃない! ……そう言えばメタナイト一人で大丈夫かな? 誰か他のファイターを見付けて共闘できてれば良いけど」
「あいつもワシと同じくファイター達に顔出ししとらんからなぁ……。下手すりゃファイターの中の誰かと鉢合わせ、お互いに誤解したまま相討ちとか……」
「うわぁぁ最悪のパターン……! 出会うにしても、話をちゃんと聞いてくれる落ち着いたファイターでありますように!」


他人の心配をしている場合ではないかもしれないが、亜空軍と出会い戦いになる事が無いまま静かな時間が流れているので、余計な方向に気を回してしまう。

……ひょっとして、だからセルシュもデデデも気付かなかったのだろうか?
今カーゴには、フィギュア化“していない”ファイターが“3人”乗っている事に。


湖畔を進んだ先、ふとセルシュが木々に阻まれた茂みの先、見知ったファイター達を見付ける。


「デデデ、今、向こうにマリオ達が……!」
「なに!?」
「見間違いじゃなかったら、誰かがフィギュア化してたよ!」
「しめた! 復活させられる前に奪うぞ、しっかり掴まっとれよ!」


カーゴのスピードを上げ、一気に茂みから抜ける。
機体を斜めらせながらカーブし、道に沿ってマリオ達が居る地点へ。
確認のため一旦通り過ぎる形を取ると、マリオと……一緒に居た白い翼を生やした少年と、通り過ぎ様バッチリ目が合ってしまう。
しかも確かに、マリオは荷台のピーチ達にも注目していた。


「あれはセルシュ! どうしてフィギュア化したピーチ達と一緒に居るんだ!」
「デデデ、リンクとヨッシーがフィギュア化してる! キャッチ失敗しないでよ!」
「……!?」


ファイター達をフィギュア化させて奪う者達の存在は知っているのか、マリオはセルシュがフィギュア化したファイターを集めているような言葉を放った事で顔を驚愕に染める。
ワリオ達は以前からマリオ達のライバル的存在であり、敵に回っても特に驚くような事ではなかったが、マリオ達の誰とも因縁の無いセルシュは話が別。
通り過ぎた先、更に機体を傾けてUターンし、デデデはカーゴの末尾に付いているアームを展開させた。
そして通り過ぎ様リンクとヨッシー、二人分のフィギュアを同時に掴む。


「よっしゃー!!」


ガッツポーズ、後にハイタッチして喜び合うデデデとセルシュ……だが次の瞬間。

リンクとヨッシーを掴んでいるアームの上から、ひょこりと現れるカービィ。
セルシュ達が突然の事に唖然としている隙に、カッターでアームを切り落としリンクとヨッシーを助け出してしまった。


「あああああ!! せっかく手に入れたのにー!!」
「数の上で分が悪い、逃げるぞセルシュ!」


進んだ先で更にUターンしマリオ達の側を通り抜けようとするデデデ。
しかしその先で、フィギュア化を解除されたリンクが弓矢を構えていた。


「セルシュ、お前……! まさかお前まで俺達を裏切ったっていうのか!?」
「……だったら何? 亜空軍側に付いた方が有利だし、本気の皆と戦う機会もあるかと思っただけよ!」
「嘘でしょう……!?」


激昂するリンクと、信じられず呆然とするヨッシー。
リンクは構えていた矢を放つが、運転手が居なくなれば機体が事故を起こし、荷台のピーチ達が危険になる可能性もあると判断して、機体の方を射抜き速度を落とすだけに留まった。
しかしそれでも、生身で走るよりはだいぶ速い。
去って行くカーゴを、背後からファイター達の怨嗟の声が追い掛ける。


「ピーチ達を返せっ!」
「セルシュお前、見損なったぞ! 単なる戦闘狂だったのか……!」
「セルシュさん、どうしてですか!!」


彼らはデデデを知らないので仕方ないが、言葉の対象はほぼセルシュである。
二人とも知らない白翼の少年だけは黙っているようだが、知っていれば彼も同じように口を開いただろう。

その声をバックに、カーゴの荷台の上、セルシュは俯いたまま黙っている。
彼女を巻き込んだ立場であるデデデも、何も声を掛けられず心配そうな顔で黙り込んでいるだけ。
やがてセルシュが俯いたまま、自嘲のような笑みを浮かべてぽつりと呟く。


「こういうの、分かってても辛いものね……」
「セルシュ……」


デデデは何も言えない。
協力はセルシュが言い出した事とはいえ、前にも思った通り正直に有り難かったし、止める気も無かった。
仲間に見付かった場合は避けられない事だと分かっていても、やはり辛そうだ。
たまらなくなってカーゴを止めたデデデは、荷台のセルシュを振り返る。


「やめても、構わんぞ。ワシに仲間を人質に取られ脅されていたとでも言えば、ひとまず信じてくれるんじゃないか」
「……」
「ワシなら心配いらん、一人でも大丈夫だからな!」


強気ながらも優しいセルシュを心配させないよう、デデデは得意気な顔を作る。
実際は強者揃いのファイター達を相手にするのだから、セルシュのような実力者が仲間なのは心強い。
だが彼女に辛い思いをさせてまで強制する事かと言えば……違うだろう。
しかしセルシュは何も言わない。
俯いたままデデデの方を見ようともせず……。

が、次の瞬間、顔を上げるとニッコリ笑ってみせる。


「なーんてね! ゴメンゴメン、今のは洒落にならない冗談だったね!」
「……セルシュ」
「やだもうそんな顔しないでよ、単なる冗談なのに罪悪感湧いちゃうじゃん。さ、ほらいつまでも止まってたらマリオ達に追い付かれるよ、出発進行ーっ!」


早く早く、と急かすセルシュに何も言えず、デデデは再び前を向くとカーゴを操縦し出発させる。

きっと冗談などではないだろうと、デデデはちゃんと分かっていた。
仲間に裏切ったと思われ、非難を浴びせられて辛くない訳がない。
普段は強気なセルシュも、それとこれとは話が別。

しかし彼女が心からデデデを手伝いたい、関わったのだから見捨てられないと思っているのも確かだろう。
優しいからこそ、デデデに気を使わせない為に冗談だなんてスタンスを取った。
だからデデデも、逆に彼女に気を使わせない為、騙された体で返答する。


「ったく、こんな時にキツイ冗談を言うでない、少々ビビったぞ!」
「へービビったんだ」
「少々だ少々! そんな落ち込んどるセルシュなどセルシュらしくないわ!」
「あはは! ま、あんなに怒られるって事は、皆ちゃんと私を仲間として信用してくれてたって事でしょ? だから裏切られたのがショックであんなに怒ってた。それが分かっただけでも大収穫だよ、寧ろ嬉しい!」
「……そうかよ。そりゃ良かったな、祝日頭め」
「ひっどいこのペンギン!」
「ペンギン言うな!!」


半分本当、半分嘘……といった所だろうか。
ひょっとしたらセルシュもデデデが自分の嘘に気付いていると分かっているのかもしれないが、お互いに気遣い合戦は疲れるので、もう知らない振りを決める。
今セルシュとデデデが本当にやるべき事は気遣い合戦でも謝罪合戦でもなく、完全な敗北を防ぐ為にファイターを集める事。
亜空軍の目を欺きタブーの追跡を逃れるには、マリオ達ファイターの仲間を徹底的に裏切らなくては。


湖畔には霧がかかり、視界が少し悪くなる。
リンクの攻撃により落ちた速度を更に緩め、セルシュ達は北東へ向かう。


「デデデ、これからどこに行くの? 次のファイターを探しに? あ、それならワドルディ達からの報告を待たなきゃ駄目かな」
「いいや、ちょうど近くまで来た事だし、このピーチ達のフィギュアを城へ置きに行こう。あまり大荷物だと動き辛いからな」
「城、って、まさかデデデお城持ってたの!? さすが大王の名を冠する者たちだけの事はあるぅ!」
「“者たち”の“たち”はどっから出て来た! そんなにおらんわ!」
「お城かー、ピーチ城みたいなの? それともクッパ城みたいなのかな?」
「いや……正直仮置きみたいなもんだから期待するなよ、本当に小さい」
「なーんだ」


がっかりー、なんて言いながらケラケラ笑うセルシュを見ていると、デデデは心からホッとした。
手伝わせている事への申し訳なさや、手伝ってくれている事への頼もしさ。
セルシュに対する様々な感情が渦巻いている今、彼女が楽しそうにしているだけて救われた気分になる。


「……セルシュ、ありがとうよ」
「? 今なにか言った?」
「……はぁ? 別に何も言っとらんわ、寝ぼけたか」
「寝ぼけてませんー!」


礼なら既に言っているが、ストレートな言葉で直球に告げるのはやはり照れる。
この事件が無事に解決したらその時は、礼の言葉くらいきちんと真っ直ぐに告げようと決意するデデデ。

やがて二人とフィギュア化したファイター達を乗せたカーゴは、デデデ城への近道である洞窟に辿り着くのだった。


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