亜空の使者2
囚われの医療少女 [3/3]

デデデ、というらしい者が操るカーゴの荷台から脱出する事が出来ないまま、フィギュア化したゼルダ・ルイージ・ネスと共に、とある洞窟入り口まで連れて来られたセルシュ。
カーゴに撥ねられた時、心配してくれた様子からして悪いヒトではないのかと思ったが、フィギュア化したファイターを狙うなど、やはり悪人だったのだろう。
デデデが合図すると どこからともなく、カービィと同じような体形をしたワドルディが沢山現れ、フィギュア化したファイター達を洞窟の奥へと運んで行く。
セルシュはカーゴから降りたものの、戦えないため連れ去られるゼルダ達を見送るしか出来ない。
ふと、デデデがセルシュを振り返り口を開いた。


「で、お前はどうする」
「……何をですか?」
「一緒に来るか、ここで待つか。待っとればカービィ達が追って来るだろうが、この辺は亜空軍やクッパ軍団が出るぞ」
「亜空軍……?」


クッパ軍団ならそのままの意味だろうが、亜空軍とは聞いた事が無い。
疑問符を浮かべたセルシュに事情を察し、デデデは軽く説明してくれた。
亜空間というデータ空間の中に、タブーという危険な存在が居るらしい。
奴は世界の全てを亜空に呑み込まんとし、邪魔なファイター達をフィギュアにして無力化しているとか。
クッパやワリオ、ガノンドロフは亜空軍に下ったらしく、危険だという。


「奴はファイターを一撃でフィギュア化する技を持っていて危険だ。クッパ達も似たような力を使える物を与えられとるらしいぞ」
「それで、あなたがフィギュア化したファイターを集めている理由は?」


突拍子も無い話だとは思ったが、今まで見た事も無いような敵に襲われ、戦って来たのも事実。
それにセルシュは、初めにデデデを見た時 感じた
“悪人ではなさそう”という感覚を信じたかった。
セルシュの質問にデデデは話すのを躊躇っていたが、セルシュの視線がデデデを信じようとしているのを感じ取ったのか、ぽつぽつと話してくれる。


「……初めからフィギュアなら、フィギュア化などせん筈だ」
「え?」
「ワシがしとるのは、万一ファイター達がタブーに敗れ去った時の対処だ」


聞けばデデデ、まだ顔見せはしていないがファイターに登録されているらしい。
インチキになるが、試合で負けた時に復活すれば負けを誤魔化せるのではと、フィギュア化した時に自動で復活するブローチを作っていたそうだ。
しかし復活までに時間が掛かり過ぎてしまい、泣く泣くお蔵入りにしたとか。
話を聞いたセルシュは、呆れ顔で息を吐く。


「何ですかそのブローチ、インチキじゃないですか。みんな時々ふざけますけど、基本は真面目に戦ってるのに」
「分かっとるわ! だからお蔵入りにしたんだろうが!」
「失敗したから、でしょ」
「えーいやかましい! で、お前は来るのか来んのかハッキリせい!」


会話しているうち、すっかりデデデに対する“悪人ではなさそう”という感覚が確信に変わってしまった。
カービィ達がいつ来てくれるのか分からないし、一人では不安だ。
それならセルシュが取る行動は一つしかない。


「セルシュです」
「ん?」
「わたしの名前。あなたは……デデデさん、で宜しかったですか? カービィ君たちが来るまでの間、よろしくお願いしますね」


にっこり笑ったセルシュを見て、こんな丁寧に接される事があまり無いデデデは少々照れ臭さを覚える。
ふい、と進行方向を向くと、やや乱暴気味でぶっきらぼうな声を上げた。


「“デデデさん”などこそばゆくて堪らんわ! ワシの事はデデデ大王と、みんなそう呼んどる!」
「“大王”の方が大げさな気がするんですが……」
「構わん、ワシが大王なのは本当だからな!」


愛称のようなものなのかな、と適当に完結させたセルシュは、のしのし歩くデデデの後を付いて行く。
洞窟内ではフィギュアを抱え上げたワドルディ達がおろおろしており、デデデを待っていたようだ。
デデデはワドルディ達を率先し、襲い来る亜空軍を自慢のハンマーで蹴散らして進路を確保して行く。
その強さにはファイター達を見慣れているセルシュも圧倒され、彼がファイターとして登録されているのも納得できた。

やがて洞窟を抜けると、どんよりとした曇り空の下、崖際にやや小ぢんまりとした城が目に入る。
あれがこの世界でデデデが調達した城だそう。
さっそく向かい、重々しい扉を開けて中に入ると、玉座の間に当たると思われる部屋にゼルダ達のフィギュアを配置した。
あちこち移動した際に付いたフィギュアの汚れを払うデデデを見ながら、セルシュは先程から気になっていた事を訊ねてみる。


「みんなに話さないんですか?」
「何をだ」
「タブーに対抗するためフィギュアを集めている事。みんななら話せば分かってくれますよ、今からでも遅くないから事情を説明してみたら如何ですか?」
「いかん。ワシがやっとるのはあくまで保険だからな、無駄足に終わるならそれで構わん行動なんだ」


あまり派手に集めても亜空軍に目を付けられてしまいかねないし、どこから話が漏れるか分からないため、広めたくはないそう。
勿論それを聞いたセルシュは、わたしが秘密を聞いて良かったのかなー……と疑問になってしまう訳だが。

フィギュアを綺麗にしてしまったデデデは、さっそく例のブローチをフィギュア達に装着させて行く。
デフォルメされたデデデの顔が前面に刻まれた、金色の大きなブローチ……。
正直な話、自分が着けるとなると遠慮したいデザインだが、幸いにも装着されるのはフィギュア化したファイターなので安心だ。
ネス、ルイージ、ゼルダ……と、着けて行くが、ゼルダの分が足りない。
デデデは暫く袖を探った後、観念したような顔をして自分が着けていたブローチを外し、ゼルダに着けた。


「いいんですか? デデデ大王の分が……」
「構わんわ。万一があれば復活したこいつらが助けてくれる可能性もあるしな。……そう言えばセルシュ、お前の分も無いぞ」
「大丈夫です、わたしファイターじゃないので多分フィギュア化しませんから。それに戦闘要員じゃないわたしに着ける分があるなら、他のファイターに着ける方が有意義です」
「まあ、そうか」


そこで話が終わり、沈黙が訪れる……かと思われた瞬間、地鳴りが聞こえて城がグラグラ揺れ始める。
地震!? と慌てて周りを見回す二人だが、上から埃やら小さな欠片やらが降って来て、反射的に天井を見上げた。
瞬間ひび割れて行く天井。
欠片はすぐに大きな瓦礫となり、セルシュ達目掛けて容赦無く降って来る。


「わ、わぁーーっ!?」
「危ない!!」


大きな瓦礫がセルシュの頭上に迫り、瞬時に割り込んだデデデがセルシュを思い切り突き飛ばす。
かなりの体躯に突き飛ばされたセルシュは壁に叩き付けられるが、何とか手加減をしようとしてくれたのか大したダメージは無い。
しかし、セルシュの代わりに瓦礫に頭を打たれたデデデは、目を回して気絶し瓦礫の下でフィギュア化。
外の明るさが射し込んで来た部屋に、クッパ率いる軍団が大穴の開いた天井から雪崩れ込んで来る。


「クッパ!」
「ん? なんだ、お前は医務室のバイトではないか。黙って見ておれ、ワガハイ達に勝てはせんだろう!」


ガハハハハ、と得意気な笑い声を上げるクッパに、反論できないのは悔しい。
しかし相手にされないのなら、それはそれで幸運だ。
ファイターのフィギュア達は瓦礫の下に埋まってしまったが、きっと無事の筈。
後は彼らが見付からない事を祈りつつ、カービィ達が来るのを待てば良い。
……と、思っていたセルシュだったが、ふとクッパが足下の瓦礫へ目をやる。
すぐさま巨体を活かして瓦礫を退かし、何かを担ぎ上げたかと思えばそれは、フィギュア化中のゼルダ。


「ふむ、これだけか。他の奴らは別の場所か? まあいい、こいつだけでも頂いて行くとしよう」
「だ、だめ!」


自分が戦えないのも忘れ、慌ててクッパへ飛び掛かって行くセルシュ。
しかし腕を上げられれば、セルシュの体格ではあっさり届かなくなる。
周りに居たノコノコやハンマーブロス達がセルシュを取り押さえるが、それでも彼女は諦めようとしない。


「返して! ファイター達を集めてどうするつもりなの、どうせ悪い事でも企んでるんでしょう!」
「お前には分からんだろうな、ワガハイ達の崇高な計画など! 戦えぬなら大人しくしていた方が身のためだぞ」
「亜空軍と一緒に世界を亜空間にして……それからどうなるか、あなた達も分かってないんじゃない!? 良いように利用されて、結局最後は用済みとして消されるのがオチよ!」


言った瞬間、クッパがぴくりと眉を動かす。
眼光が鋭くなり、睨み付けられたセルシュは思わず体を震わせた。
クッパは一つ荒い鼻息を吐くと、手下達に取り押さえられて動けないセルシュへ近寄り、乱暴に顎を掴んで上向かせる。
口をニヤリと歪め、楽しげな声音でセルシュを脅した。


「戦闘要員ではないからと、少し調子に乗っているようだな。……こういうヤツは痛め付けられれば大人しくなるかもしれんなァ?」
「う……」
「お前達、この小娘を少しばかり痛め付けるのだ。あまり手酷い事はしてやるなよ、可哀想だからな!」


再びクッパの笑い声が響いたのと同時に、彼の手下達がセルシュに群がって来る。
この数……セルシュでは戦う事は勿論、逃げる事すら叶わないのは火を見るより明らか。
数体が飛び掛かって来ようとしているのを見て、これから訪れるであろう痛みを想像し身構えた瞬間、セルシュにとって救いの手が差し伸べられる。
それは天井に開いた大穴から、慌てた様子で飛び込んで来たパタパタ。


「クッパ様、マリオが仲間を引き連れて城へ近付いているようです!」
「なに? 思ったより早かったな。ここで決着をつけるのも悪くはないが、まずフィギュアをハルバードへ運ぶのが先決だな」


クッパはニヤついた笑みを消さないまま、再びセルシュの方へ向き直る。
そしてゼルダのフィギュア同様、軽々とセルシュを抱え上げてしまった。


「亜空軍の事をよく知っていたようだし、雑魚とはいえ野放しに出来んな。人質ぐらいにはなるか」
「降ろして! わたしはここでマリオさん達を待つんだから!」
「そう慌てるな。後でワガハイが直々に可愛がってやろう!」
「や、やだ! 放して、放してよ! 誰か助けてっ!!」


セルシュが必死で暴れても、クッパには痛くも痒くもない。
結局セルシュは、成す術なく連れ去られるのだった。

ゼルダのフィギュアもろともクッパに担ぎ上げられたセルシュは、
洞窟を抜け、荒れ果てた崖際の道まで出た。
空は相変わらず灰色のままではあったが、今は色よりも気になるものが。
空に浮かぶ巨大戦艦。
間違いない、空中スタジアムを襲ったあの艦だ。
あれを目標としているらしく、重い足音を立てながら崖先へ向かうクッパ。
しかしその背後から、セルシュが待ち望んでいた声が。


「待てクッパ、セルシュとゼルダを返すんだ!」
「マリオさん!」


現れたのはマリオを筆頭に、カービィ・リンク・ヨッシー、そして新入りらしい天使の少年ピット。
勢い良く助走を付けたマリオは自慢の脚力で跳ね上がり、クッパ目掛けて拳を振り下ろす。
が、クッパが突然セルシュをマリオへ向けて盾に。
慌てて目標をずらしたマリオの拳は地面へ。
しかしその間にマリオの背後に居たピットが矢を構えていた。
放たれた光の矢は直撃こそしなかったものの、避けようとしたクッパはよろめき、そのまま崖下へ落下。


「せるしゅーー!!」


カービィの声が聞こえる。
ひょっとしたら後を追ってくれようとしたのかもしれないが、彼が崖の方へ出る前にセルシュの体を衝撃が襲った。
下にあったのは、クッパが移動に使う空飛ぶ乗り物クッパクラウン。
それに上手いこと乗り込んだらしいクッパは、勝ち誇った笑い声を上げる。


「残念だったなマリオ、ワガハイの勝ちのようだ!」
「くそっ、クッパァァ!!」


マリオの大声が辺りに木霊した。
クラウンはそれに反応する事なく、セルシュ達を乗せたまま空高く飛んで行く。

戦艦……ハルバードに辿り着いたクラウンから降り、クッパはセルシュ達を担いだままとある部屋へ。
広いが薄暗い。
部屋の中央には2つ、天井から鎖によって鳥籠のような檻がぶら下がっており、その片方には。


「ピ、ピーチ姫! まさか捕まってたなんて……」


フィギュア化したピーチが囚われていた。
クッパはパタパタ達に命じると、空いたもう片方の檻にゼルダを閉じ込める。
……が、セルシュを下ろそうとしない。
クッパ達が去ってから、何とかしてピーチとゼルダを助けるつもりなのだが。


「セルシュよ、キサマは別の場所に居てもらうぞ」
「えっ!?」
「檻は届かん高さだが、万一という事もあるからな。余計な考えは捨てる事だ!」


セルシュの考えなどお見通しと言わんばかりに、クッパが得意気に言う。
彼はそのまま部屋を後にすると、扉のある通路を複数のシャッターで閉じてしまった。
亜空軍達が徘徊するエリアを抜けたクッパは、奥まった場所にある小部屋にセルシュを放り込む。


「痛い思いをしたくなければ、大人しくしておれ」


扉が閉じられる。
頑丈な扉は、押しても引いても叩いても、開くどころか揺らぐ気配も無い。
溜め息を吐いたセルシュは壁際に寄り掛かり、体操座りをして顔を埋めた。

これから自分は、姫達は、世界はどうなるのか。
マリオ達や他のファイター達は無事なのか。
万一があったとして、デデデの作戦は成功するのか。
今日は空中スタジアムの戦いから色々ありすぎて、酷い疲れがセルシュを襲う。
考え事をしている間に眠気に誘われ、やがて舟を漕ぎ始めるのだった。


++++++


物音が聴こえる。
それも亜空軍が何かをしているようなものではなく、もっと大きな……喧騒と言って差し支え無いもの。
いつのまにか横になって寝ていたセルシュは目を覚まし、喧騒に気付いて扉へ近寄ってみる。
感覚からしてだいぶ寝ていた気がするが、窓も無い小部屋では時間の判断も不可能。

やがて喧騒が扉の前まで近付き、セルシュは慌てて離れると身構えた。
鍵の役目を果たすスイッチでもあるのか、短い電子音の後に扉が開く。
そこに居たのは……。


「ルカリオ!」
「お前はセルシュ……? こんな所で何を」
「クッパに捕まって、連れて来られちゃったの。……で、えっと、そちらのお二方は……?」


そこに居たのはルカリオだけでなく、カービィのような体形の(ただしカービィより大きい)、仮面を付けた剣士と、隙の無い武装をしている事が窺える精悍な中年男性。
ルカリオの紹介によると、カービィのような体形の騎士はメタナイト卿。
この戦艦ハルバードの真の持ち主で、奪還と亜空軍の企みを止める為に活動しているそうだ。
精悍な中年男性の方はスネークという人物で、ハルバードを調査中に利害が一致したため、共闘しているらしい。


「セルシュ、お前は一人なのか? 他にファイターを見てはいないか」
「ピーチ姫とゼルダ姫がフィギュアにされて捕まってるわ。お願い、姫達を助けて!」


言われずとも、亜空軍に対抗するため仲間に出来るファイターは助けるつもりだったルカリオ達。
一人で残すのは却って心配なためセルシュを連れ、彼女の案内によってピーチ達の囚われている部屋を目指した。


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