亜空の使者2
これぞ義賊? [2/4]

デデデ大王と共に、ファイター達の何人かをフィギュア化して保存するという作戦を開始したセルシュ。
タブーに奪われる前に自分達が奪ってしまおうという、無茶と言うよりは裏切りに近い行動だ。
亜空軍に感付かれるのを防ぐため、他の仲間達には何も言わないつもりなのだから。
セルシュはいま自分達が居る大陸の地図を広げた。
取り敢えずはメタナイトの飛び去った方角へ向かう。


「まずは偵察に行かせたワドルディ達の報告を待たなきゃね。誰をフィギュア化させるかはそれからだ」
「……器用だな」


やや呆れたような声がセルシュの下から聞こえる。
今デデデとセルシュは、東へ向かって移動中。
デデデが愛用のウィリーバイク(デデデの体格に合わせ大き目)を運転し、セルシュはそのデデデの上に乗り肩車に近い状態で地図を広げている。


「落ちるなよセルシュ、大怪我でもされたらワシいたたまれんわい」
「へーきだよ、私の運動神経ってかバランス感覚? ナメないでね。しかしデデデ、見た目以上にプニプニして触り心地いいわー」
「何しとる、ふざけてないでしっかり掴まっとれ!」


こんな状況なのに……いや、こんな状況だからこそセルシュは普段通りを心掛けようと努めた。
きっと他のファイター達も事件に巻き込まれて大変な思いをしているだろう。
完全な敗北を防ぐために行動している自分達まで暗くなってしまう訳にはいかない。

それにしても、ワドルディの報告で知った、クッパ・ワリオ・ガノンドロフの勝手気ままな行動。
まあ元々彼らは、ファイター達と敵対関係にあったようだし無理もないかもしれないが、彼らこそ裏切りだ。
今から奴らと同じ事をしなければならないと思うと、かなり虫酸が走る。


「でもあいつらのお陰で、あんまり怪しまれずに済むかもしれないね。取り敢えず利用できるものは思う存分利用させて貰うよ〜へっへっへ」
「セルシュ、その悪人面は仕舞えよホントに……」


先程からデデデはセルシュに振り回され気味だ。
だがそれは、ファイター達と親しい仲であるセルシュを形だけとはいえ裏切らせてしまうという罪悪感も関係している。
それは勿論、協力はセルシュの方から言い始めた事。
しかし正直にデデデも助かると思ったし、心から止める気が無かったのも確か。
まだファイターに顔見せすらしていない自分とは違うのだからと、デデデはセルシュに対し負い目があった。

東へと向かう道すがら、ワドルディはじめデデデの部下達から次々と報告が入る。
今日マリオとカービィの試合が行われていた筈の空中スタジアムが既に亜空軍の手に堕ちた事、ハルバードが悪用され、亜空軍の運搬に利用されてしまっている事、それぞれのファイター達の居場所や向かっている方角などなど、様々な情報が。


「場所は違えど大体みんな、東へ向かってるね」
「都合良く一人行動しとるファイターは……報告があるのは、ルイージとリュカ、ポケモントレーナーのレッドに、メタナイトか」
「確認が出来てるのはそれくらいか……。早くしないと誰かと合流して事が難しくなっちゃう。ここから一番近いのはルイージだよ」
「……ルイージなあ」


デデデが微妙な顔をする。
いや、正直気持ちは少し分かるよと言いかけたセルシュは寸での所で言葉を飲み込んだ。
待て待て、とあらぬ想像をした自分を戒めるセルシュ。
ルイージだって大切なファイターの仲間、しかも大体兄と一緒とはいえ数々の冒険を乗り越えている。
戦力として充分なはずだとデデデを説得する事に。


「ほら、ルイージはあのマリオの弟だし、色々と冒険してるじゃん」
「しかしルイージだぞ、あの永遠の二番手だぞ」
「ああ……じゃあ、あれだあれ、背に腹は変えられないってやつだよ! 選り好みしてたら仲間に出来るファイターが居なくなるかもしれないし、時間だって多い訳じゃないんだから。駒は多い方が良いでしょ、早速捕まえに行こう!」


笑顔でマシンガントークばりに繰り出されるセルシュの言葉に、デデデは強引に押されながら了承。
そのやり取りを見ていたワドルディ達は、それルイージさんのこと貶してますよねと突っ込め……る訳がなかった。
デデデは再びウィリーバイクに乗り(セルシュは相変わらずデデデの上)、更に東の平原を目指す。
亜空間に包まれた空中スタジアムが左手に見え、ここからならそう遠くないはずだと確認。


「セルシュ、亜空軍が居るかもしれん。しっかり気を引き締めろよ」
「OK分かってる。でも怪しまれるから派手にぶっ飛ばしちゃ駄目だよね、隠れて……と言うか、理想は戦闘に持ち込まない事か」
「あ、そうか。戦ったら怪しまれるな」
「しっかりして大王!」


本当に大丈夫だろうか……とは言葉に出さず、見えない所で微妙な笑顔。
やがて広々とした平野に辿り着き、ウィリーバイクを降りて物陰に待機させる。
こちらも隠れて辺りを窺うと、前方にターゲットの姿を確認した。


「ルイージだな」
「ルイージだね」


見てみると彼は何かに怯えているように辺りを確認し、とぼとぼ歩いている。
どういう状況に居るのかと更に近付いてみると、もはや泣きそうな顔だ。


「ああ〜…ホント何なのさあれ、折角兄さんの試合を応援しようと思ったのに、空中スタジアムが無くなって訳の分からないものが浮いてるなんて……遅刻してる間に何が……コワイヨー」
「どうやら寝坊でもしちゃったみたいだね。亜空軍とは会ってないのかな」
「恐らくそうだろ。じゃあフィギュアにさせて貰うとするか。ワドルディ」


控えさせていたワドルディに命じ、道を歩いてルイージを追い掛けさせる。
その存在に気付いたルイージは短い悲鳴を上げて飛び退くが、必死に(腰の引けた)ファイティングポーズを取るのが微笑ましいやら情けないやら。
……本当に大丈夫か、と呆れた視線を向けて来るデデデにセルシュは、いいから早くルイージに近付いてと急かした。
自分がルイージを推したのだから役立たずなんて認める訳にはいかない、だから良い言い訳が浮かばないなら、ルイージに関する質問には答えられないのだ!

デデデは二匹目のワドルディがルイージに近付いている間に後ろへ回り込む。
ルイージは一体何が怖いのか、つぶらな瞳で見つめるワドルディに怯えて更に引いた所を、デデデハンマーの一撃に襲われた。
空の彼方へ飛んで行き、落ちて来る頃には情けないポーズのフィギュアになっていましたとさ。
器用にハンマーの側面でキャッチし、振り上げて後ろの地面に着地させるデデデ。
情けないポーズのルイージに、今度は視線ではなく口を出して突っ込んだ。


「……おいセルシュ、本当にこいつで大丈夫か」
「……」
「口笛を吹いとらんで質問に答えんかコラ」


今更不安になって来たなんて言える訳がない。
まあ何にしても手近なファイターをGETするのはデデデも賛成だった。
たまたまそれがルイージだったので、何やかんやと言っているだけに過ぎない。
……好き放題に言われて本当にルイージが気の毒だと、ワドルディ達が哀れみの視線を向けるがフィギュア化した彼は気付かない。
取り敢えずワドルディ達に運ばせようと集合させると、見張りから報告が。
亜空軍に加担してファイター達をフィギュア化させているワリオが、フィギュアのピーチとネスを乗せた乗り物でこちらへ向かっているらしい。


「向かってるって、私達に気付いたってこと?」
「いいえ、たぶん、偶然通り掛かるだけかと!」
「しめたぞセルシュ、そのフィギュアを奪ってやろう。亜空軍に加担しているなら、フィギュアのルイージを放っておけずに止まる筈だ!」


何それ完全に悪役じゃーん、なんて言おうかと思ったがやめておいた。
悪役どんと来いだ、それくらいやらないと完全な敗北を防ぐなんて出来ない。
セルシュとデデデはフィギュア化したルイージを放置し、あちこちにワドルディを潜ませ自分達も隠れて様子を窺った。

やがてやって来たワリオは、前方に操縦する為のレバーがあり、その後ろに物を掴む為であろう大きなアーム、更にその後ろに広い荷台がある乗り物に乗りやって来た。
カーゴというその乗り物の荷台には、フィギュア化されたピーチとネス。


「お? あれはルイージか。まあいい、念には念を入れるとするかな」


……ワリオからもそんな扱いである。
今度はワドルディだけでなくセルシュとデデデまでルイージが哀れに思え、事件が解決した暁には優しくしてやろうと心に決めてみたり……。
ワリオがカーゴから降り、ルイージに近付く。
笑いながら抱え上げた、その瞬間。


「行けぇワドルディ!!」
「おおぉぉ!?」


デデデの号令におびただしい数のワドルディがワリオを取り囲み、ぽかぽかと攻撃を加え始めた。
武器も無いワドルディの攻撃力なんてたかが知れているものの、数の暴力というやつで身動きが出来ない。
そのうち耐え切れなくなったワリオがルイージのフィギュアを離し、それはワドルディの波に押されて騒ぎの中心から出てしまう。
デデデはカーゴに近付いて乗り込み、少しだけ操作を確認してからセルシュに声を掛けた。


「よし、大丈夫だ! セルシュ、ルイージを!」
「へいおやびん、ガッテン承知でヤンス!」


どこの下っぱだと言いたくなる妙な口調で応え、ルイージを担ぎ上げたセルシュはそのままカーゴの荷台へダイブ。
カーゴを浮かせたデデデは最高速度を出し、ワリオのよく聞こえない叫び声をBGMにその場から離れた。


「あっはっは! 気分爽快だねえ、悪い事する人の気持ちが分かるかも!」
「……突っ込みたい、が、ワシも人の事は言えんからなあ」
「プププランド中の食べ物を根こそぎ奪っちゃった事あるんでしょ、知ってる」
「な、なぜそれを!」
「カービィから聞いた」
「カァーービィーー!!」
「あはは、今度私にも何かご馳走盗って来てよ」
「……取得の取る、な。盗むの盗る、はせんぞ」


呆れた声で答えながらデデデは、セルシュがそれほど気落ちしていない事に内心ホッとしていた。
大切な仲間を裏切らせてしまい、彼女が辛い思いをしているのではと心配だった。
楽しそうで何よりだ。

やがて再びデデデの部下から、誰かは確認できていないが東にファイターが居ると報告を受けた二人。
比較的近かった為、そのファイター達を次の標的に定めてカーゴを走らせた。


 戻る 
- ナノ -