元限定小説
アイクの場合



ミコトはプレゼントを配る時、2頭のペガサスを操ってソリを飛ばす。
普通ペガサスに引かれたらソリは垂れるんじゃないかと思われるが、それはまあ不思議な力というやつだ。
真夜中に居眠りでもして落下すると大変なので、夕方まで仮眠を取る。
ゆっくり寝るか、なんて思っていると、アパートに隣接する厩舎からペガサスの悲鳴のような嘶きが。
慌ててアパートを飛び出して向かうと、そこには落ち着き無いペガサス2頭と、倒れているアイク。
ペガサスを落ち着かせて、すぐアイクに声を掛ける。


「アイク、大丈夫!? 生きてる、しっかりして!」
「っつー……。いや、大丈夫だ。頭も打ってない」
「良かった。何があったの、ペガサスの厩舎に来るなんて珍しいね」
「ああ。実は俺もプレゼント配りを手伝いたくてな。ペガサスに乗れたら手伝えるかと思って」
「……」


何だ、ただのアホか。

そう言いたくなるのをぐっと堪えたミコトは、
ペガサスには女しか乗れない事、わざわざ乗らなくてもソリがある事や、
自分と一緒なら振り落とされる事も無いと教えた。
あくまで、手伝おうとしてくれている事は有り難い、と伝えながら。


「何だ、そうだったのか。じゃあ仕事に行く時間になったら起こしてくれ」
「分かった……ってココで寝る気なの!?」
「割と温いし、ペガサスには無闇に近付かなきゃ大丈夫だろ。じゃあお休み」


備蓄してある替えの藁の上に寝転がり、埋もれるように被って寝てしまう。
確かに厩舎は閉めれば風が入らず日が当たる造りのため、
暖房が無い割には暖かいが……風邪でも引かれては大変だ。
ミコトはアパートから予備の毛布を持って来たり、
厩舎の戸締まりを確認したりして、そうするうちに寝る時間が減ってしまう。
何だかどっと疲れて、部屋に戻ると倒れるようにベッドへ入った。


「(……それにしても、急にプレゼント配りを手伝いたいだなんて、どういう風の吹き回しだろ。
 ラグネルの予備よこせとか言われても無理だぞほんと)」


アイクならあまり打算的に動く事はしなさそうだが、理由が分からないためそう考えるしかないミコト。
目を瞑りながら考え事をしていると眠気がやって来て、そのまま心地良い眠りに落ちるミコトだった。


++++++


「で、こうなるんですね!」
「自業自得だろ」
「むきー!」


やってしまった。寝坊してしまった。
午後7時にはプレゼントを配り始める予定だったのに、起きたのが午後8時。
厩舎のアイクに構っていたせいと思いたいが、起こしに来てくれたのも彼なので文句が言えない。
せめてあと2時間早く起こしに来てくれれば良かったのに、彼は出掛けていたようで叶いそうもなかった。


「どこ行ってたの、配達手伝いたいとか言ってたクセに、居なくなったら意味無いじゃないの!」
「買い物をしてたんだ」
「何の!」
「ほら」


ずい、と差し出された袋。
受け取ってみると、中にはまだほかほかと湯気の立つ中華まんが幾つか。
聞けばアイク、7時過ぎに目が覚め、まだペガサスが厩舎に居るのを見てミコトの寝坊を悟ったらしい。
夕飯を食べる暇も無いだろうと、やや離れた場所にあるコンビニヘ向かったとか。


「起こす前に食事の心配って……まあ、アイクらしいっちゃらしいけど。有り難く頂きます」
「お茶もあるぞ。中華まんを死守した代わりに、こっちは結構ぬるくなってるが」
「それで良いよ。何にしても助かった。プレゼント配りは夜通しだから、途中で絶対にお腹が空くしね」


ペガサスでソリを飛ばし、アイクにも手伝って貰いながらプレゼントを配る。
二人で手分けすると、一時間ぐらいのロスなら何ともない程まで巻き返した。
日付が変わる頃、人気の無い公園に降り立ち、少しの間休憩する事に。
自販機で温かい飲み物を買って飲みながら、ふとミコトはアイクに訊ねてみた。


「アイクさ、何で急にプレゼント配り手伝いたいなんて言い出したの? お給料の分け前は無いよ」
「クリスマスにミコトと一緒に過ごす方法が、これくらいしか思い付かなかった」
「……」


ミコトの時間が止まる。
それどういう意味、と訊ねようとした言葉が出ない。
アイクの事、意味も無くそんな思わせ振りな事なんて言う筈がない。
もっと言うなら、思わせ振りな態度で振り回し、後で嘘でしたー、なんていう事も絶対に無い。

それは、つまり。


「言葉通りに受け取って、良いんだよね」
「勿論だ」
「……明日、時間ある?」
「1日ヒマだな」
「じゃ、出掛けようか」
「ああ」


冷たい空気に冷えた手をアイクに握られ、人通りの無い真夜中の公園の静寂が心地良いものになる。
明日も二人で過ごせる、そう思うといつも以上に配達が楽しくなるミコトだった。





*END*



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