元限定小説
エフラムの場合



プレゼントは夜7時辺りから配り始めるが、
それぞれ希望の時間帯が違う上にそれなりの人数が住む町のため、プレゼント配りは明日の明け方まで続く。
ミコトは仮眠を取ろうと部屋まで戻り、ベッドに潜り込んだ。


「何か体がだるぅ……昨日夜更かししたのがいけなかったかな、プレゼント配りまでには治さないと」


携帯のアラームをセットし、目を瞑るとすぐに眠気が襲い掛かって来る。
おやすみー、と誰に言うでもなく心に浮かべ、そのまま寝付くのだった。


++++++


「ミコトっっ!!」
「!?」


ドカァァァン、と漫画ならそう擬音を付けられそうな轟音が部屋に響いた。
飛び起きたミコトが辺りをキョロキョロ見回していると、寝室の扉を開けてエフラムが入って来る。


「エ、エフラム、さっきの音聞いた!? 何あの音、何が起きてんの!?」
「ミコト、時間は」
「……え」


エフラムが言った瞬間、携帯のアラームが鳴り響く。
慌てて取るとスヌーズ機能が作動しており、時刻は午後7時を過ぎて……。


「ちょ、寝坊した! ありがとエフラム、ところで部屋に鍵かかってたよね?」
「いつもなら7時にはアパートを出るのに、起きてすら来ないから心配になって玄関ぶち抜いた」
「待てぇぇい!!」


怒りたい、叱りたい、文句をしこたま言いたい。
けれど寝坊している現状、それは許されないので全ては仕事を終えてからだ。
いっそ明日の朝まで鍵の壊れた部屋を見張るよう命じようかと思いながらベッドを下りるが、
瞬間、足下がふらついてしまう。


「わっ……」
「おい!」


エフラムが抱き止めてくれたので倒れなかったが、頭がくらくらして力が入らない。
だるさは寝る前より酷くなり、視界がぐらつく。


「あ、あれ、何か変……」
「お前熱があるんじゃないか? 体温計どこだ、持って来るから安静にしてろ」
「ドレッサーの引き出しにあるけど……待って、私プレゼント配らないと」
「馬鹿を言うな、ピンチヒッターぐらい居るだろう。
 俺がすぐマスターに連絡してやるから、お前は大人しく寝ているんだ」


有無を言わせぬ強い口調に押し負け、しぶしぶベッドに戻るミコト。
エフラムに体温計を渡され、計っている間にマスターへ連絡を入れてくれる。
体温は39度、あまり無理をすれば悪化するだろう。


「今夜一晩は様子を見て、治らなければ明日病院へ行こう。取り敢えず、俺の部屋に行くぞ」
「何で!?」
「誰かが付いていないと、万一の事もあるからな。それに玄関はさっき俺が壊したんだ。
 寝室との間に扉があるとは言え、こんな部屋で休めないだろ」
「大体エフラムのせいですね分かります」


確かに、女子は誰もアパートに居ない上、
自分の不養生とエフラムの暴力が原因なのに、他の者を巻き込む訳にはいかないだろう。
変な事しないでよね、と言いたかったミコトだが、自意識過剰な気がするのでとても言えない。


「じゃあ行くぞミコト、しっかり掴まれよ」
「え……うわ!」


いきなりエフラムに横抱きにされ、体が浮く。
下ろして欲しいのに、懇願してもエフラムはどこ吹く風で聞き入れない。
まさかこの歳になってお姫様抱っこされるとは。
恥ずかしさを紛らわせる為、何とか別の話題を振る。


「あ、部屋、戸締まり出来ないけどどうしよう」
「エントランスの戸締まりをしっかりしてたら大丈夫だろ。今は自分の体の事だけ気にしてろよ」


話がすぐ切れた。
確かに、このアパートは建物自体が一つの大きな家のようになっており、
エントランスを入れば廊下も階段も全て室内になっている。
オートロックなんてものは付いていないが、大元の戸締まりさえちゃんとすれば、
後は信頼できる顔馴染みしか住んでいない。

そうこうしているうちに、2階のエフラムの部屋へ。
ベッドに横たえられ、思わずドキドキしてしまう。


「(うわ、これエフラムがいつも寝てるんだよね……家族以外の男の人の寝床になんて、初めて入った)」
「じゃあ俺は他の奴らにさっきの音の事情を説明して来る。すぐに戻るから、大人しく寝ていろよ」


ふっと、顔に影が掛かり。
エフラムの顔が近付いたかと思うと、幼子をあやすように額へ口付けされた。
そのままエフラムは部屋を出て行くが……。


「(ね、寝れるかぁぁぁ!!)」


目が冴えてしまい、休むどころではなくなってしまうミコトだった……。





*END*



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