元限定小説
エリウッドの場合



クリスマスに遊べないのは残念だが、皆の喜ぶ顔が向けられるのは幸せな事。
仕事だし結局は自己満足なのは確かだけれど、結果良ければ全て良し、というやつだ。
ちなみにミコトはプレゼント配りの給料を貰えるが、クリスマスプレゼント自体は貰えない。
それだけ、町の人達を羨ましいと思ってしまうのだけれど仕方がないだろう。


「貰ったお給料で自分で買いますか……虚しいけど」


部屋に戻り、夕方まで寝ようとベッドに潜り込みながら呟くミコト。
そのうち、うとうととし始め、寝坊しないようアラームをつけてから眠りに就いた。


++++++


規則的な機械音と、若干遠慮がちなに感じる機械音。
片方が目覚ましの為にかけたアラーム、
もう片方が自分の部屋に響くチャイムだと気付いた瞬間、ミコトは勢い良く飛び起きた。
アラームを止め、すぐさま玄関へ走って行く。


「はぁーいどちら様? ごめんなさい、寝てて……」
「エリウッドだよミコト、開けていいかな」
「あ、エリウッド? ちょっと待っててね」


鍵とチェーンを外し、扉を開けてエリウッドと対面。
彼はいつも通り、紳士然とした態度を貫いている。
どうしてこんな人に彼女が居ないんだろうなと、ふとお節介な疑問が浮かんだ。


「寝てたかい? ミコトは毎年夕方5時頃には夕飯を食べに行くのに、
 今年は遅いなって心配になったから、来てみたんだけど」
「え……あぁ!」


改めて時計を確認してみると、なんと5時半過ぎ。
どうやらアラーム音はスヌーズ機能で、今まで気付かずに鳴り続けていたらしい。
ミコトは毎年24日は、5時には家を出て外食する。
少しくらいクリスマス気分を味わいたいし、行きつけのお店が、
忙しいクリスマス時期でも5時半までなら予約無しで席を空けておいてくれるからだ。

今年は無理そう。
がっかりだが、自業自得なので文句は言えない。


「起こしてくれて有り難うねエリウッド。今年は外食は無理だし、何かパパっと買って来るよ……」
「……ミコト、ちょっと良いかな」
「なに?」
「お店、予約してあるんだけど。二人で食べに行かないか?」
「へ……何で」
「今年は元々、誘うつもりでね。ミコトは毎年予約なしで馴染みの店に行くから、
 ギリギリまで黙ってても大丈夫だと思って、前から予約していたんだ」


訊きたかった“何で”は、そういう事じゃない。
クリスマスに恋人も作らないで女友達を誘う理由を、訊ねたかったのだが。
期待に胸が膨らんで、顔が赤くなっている気がする。
生真面目なエリウッドだからこそ、クリスマスイブに二人きりの食事を誘うなんて、
特別な意味を孕ませているとしか思えない。


「……私に彼氏が出来るかもしれないって、少しも考えなかったわけ?」
「え、ま、まさか一緒に出掛ける人、居るのかい?」
「まさかって何よまさかって! もう、普段は紳士なのに、たまに天然出して本気で失礼なんだから!」
「すまない……」


エリウッドの謝罪が短い一言だけなのは、ミコトの言葉に怒りの色が無く、
むしろ楽しげであり、顔にも笑顔を湛えているから。
ミコトは笑顔のまま、着替えて来るから少しだけ待ってて、と扉を閉めた。
このアパートは建物自体が一つの大きな家のようになっており、
廊下や階段も完全な室内なので、さほど寒くはない筈だ。

あまりゆっくり出来なくなるので、メイクは軽く。
エリウッドの選んだ店が、照明の少ない所だと良いと願いながら準備をする。
クリスマスに男性と二人きりで食事なんて、誰だってめかし込みたいもの。
なのに急で、服もじっくり選べずメイクも入念に出来ないなんて……。


「エリウッドってば、紳士なのに地味に女心が分かってないんだからさ」


文句を言いつつも、やはりその顔は笑顔である。
出来る限り早めに準備を整えて、部屋を出る。


「待たせてゴメンね。じゃあ行こうか」
「待った、ミコト。店までエスコートさせてくれ」


自然な動作で差し出される手を、内心でドキドキしながら取るミコト。
触れ合った部分がいやに熱くて、エリウッドも緊張している事が窺える。

突然送られたクリスマスプレゼントに、心を弾ませながら出掛けるミコトだった。





*END*



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