元限定小説
すれ違う恋心



主人公設定:エリウッドの妹
その他設定:近親愛要素、BL要素(ヘク→エリ)注意



++++++



分かってるよ、ヘクトル。


「ヘクトルってさ、好きな人とか居るの?」
「あ? 何だよミコト、急にんな事……。別に居ねぇ」


分かってるの。
でも、ヘクトルが好きなのは私じゃないって…、
思い知りたくないから、口に出さないの。


「お前はどうなんだよ。好きな奴とか居るのか?」
「……居ない」
「そうか…、勿体ねぇな。お前の顔とか、俺、結構好きだぜ」
「ヘクトルっ!」


顔、ね。
ヘクトルが私の顔を好きなのは、私がフェレ家の血を継いでるからよね?
だってヘクトルが好きな人は、私と同じ、フェレ家の血を継ぐ……。

フェレに遊びに来たとき、ヘクトルはいつも兄上を見てたよね。


「エリウッド!」


嬉しそうに、兄上の名前を呼んで。ヘクトルは兄上の事が好きなんだね。
……でも兄上は、同じ男であるヘクトルを恋愛対象にする事なんかなくて。
お見合いで、結婚しちゃったから……。

偉いよ、ヘクトルは。
好きな人が、自分の恋心に気付く事なく違う人と結婚しちゃったのに、
ちゃんと喜んで祝福してあげてたもん。
まぁ、告白なんかしたら親友の関係が崩れちゃうかもしれないもんね。

“好き”って事すら伝えられないなんて、辛いね。

私はヘクトルの事が好きなんだよ。昔からずっと。
なのにヘクトルは、いつも兄上ばっかり見てるんだもん。

兄上が私からヘクトルを奪っただなんて、最初はそんな事を思った。
でも違う。
ヘクトルにとって私は、単なる好きな人の妹でしかないのよね。
ヘクトルが兄上を好きになった事には関係ない。
私がヘクトルの事をずっと好きだったなんて、知らないよね。
ヘクトルが兄上の事を、昔からずっと好きだったなんて……全く気付いてない兄上みたいに。

私の恋心に気付かないヘクトル。
ヘクトルの恋心に気付かない兄上。

兄上とヘクトルは、似てるのかもしれない。
親友同士、本当にソックリなのね。



+++++++



……ミコト。
お前、気付いてないだろ。
エリウッドが本当は、誰を見ていたか。


「なぁヘクトル、本当に好きな人に何も伝えられないって……辛いな」


いつだったかエリウッドにそう言われた時、一瞬だけど俺の事かと期待した。
でも違う。


「何だエリウッド、お前、好きな奴いるのかよ」
「……凄く身近にね。だけど彼女は、別に好きな人が居るみたいだから」


凄く身近に。
コイツのそんな近くに、女なんか居たか?
……と考えてみたが、考えれば考えるほど、1人しか浮かばない。


「きっと彼女は、僕の恋心になんて一生気付かないんだろうな」


だろうな。
俺のお前への恋心に気付かない、お前みたいに。
兄妹でソックリだ。

……ミコト、お前の兄貴はお前の事が好きなんだよ。
それが爆発しないうちに、さっさと結婚しちまったんだ。

お前が俺からエリウッドを奪っただなんて、最初はそんな事を思った。
だけど違う。
エリウッドにとって俺は単なる男友達でしかないんだ。
エリウッドがお前を好きになった事には関係ない。

気付かないんだ、エリウッドは俺の想いに。
ミコト、お前はエリウッドの想いに。

ソックリな兄妹だな。
本当に、ソックリだ。



++++++



……ミコトがヘクトルの事を、嬉しそうに僕に話してくれた。


「兄上、聞いて下さい! ヘクトルったら……」


ヘクトルの事を、嬉しそうに話すミコト。本当に僕の想いなんて知らないんだね。
……ヘクトルは気付いていないんだろうな。
ミコトが昔から、ずっと君の事を好きだって。

ミコトも、知らない。
僕がずっと、ミコトの事を好きだった……って。

気付かないんだ。
ミコトもヘクトルも。

ヘクトルが僕からミコトを奪っただなんて、最初はそんな事を思った。
だけど違う。
ミコトにとって僕は単なる兄でしかないんだ。
ミコトがヘクトルを好きになった事には関係ない。

ヘクトルは、ミコトの恋心に気付かない。
ミコトは、僕の恋心に気付かない。

……似てるね、君達。

ミコトがあんなにヘクトルの事を好きなのに、
僕がこんなにミコトの事を好きだったのに。
2人とも、何も知らない。

本当に、ソックリだ。



++++++



エリウッドの恋心に気付かず、ヘクトルに恋心を抱いたミコト。
ミコトの恋心に気付かず、エリウッドに恋心を抱いたヘクトル。
ヘクトルの恋心に気付かず、ミコトに恋心を抱いたエリウッド。


……端から見れば本当に滑稽な、いたちごっこだ。
しかし彼らは、きっと、ずっと気付かない。
自分の想い人が想いを寄せている人物が、自分を昔から想っていたなんて。

彼らの恋心は、永久にすれ違い続けるだろう。





−END−

- ナノ -