元限定小説
愛しのあなた



主人公設定:エリウッドの従妹
その他設定:年齢差恋愛注意。少しエリウッド夢要素あり



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「ミコトさん、お返事は考えていただけましたか?」
「ロ、ロイ様……」


ベルン動乱が終結して、5年が経とうとしていた。
戦争で負った傷も少しずつ回復して行き、このリキアも国として成るようになっている。
フェレの地もいつも通りな長閑さを取り戻し、復興したと言えるだろう。
安心したのか、前侯爵のエリウッドが息を引き取ってから……1年だ。
そして父の跡を継ぎフェレ侯爵になったロイに、エリウッドの従妹でもあるミコトが、

「ロイ様も、そろそろお妃を娶るべきですわ」

と伝え、すぐにロイから、

「……では、ミコトさん、僕と結婚して下さい」

と言われて1ヶ月が経っている。
ミコトとしては、こんなオバサンに本気で告白しているとも思えず、
かと言ってロイがこんな冗談を言うとも思えずに困っていた。


「ロイ様、貴方には私のようなオバサンより、もっと相応しい方が居ますわ」
「オバサンだなんて……僕にミコトさんは、1人の女性としか見えません」
「小母さん、と呼んで構いませんのよ?」
「いいえ、おば様だなんて呼べません!」


こんな会話をしている場合でもないのだが。
ミコトの目にも、二十歳になったロイはとても素敵な男性に見えるし、好意を持ってもいた。
エリウッドにソックリなのは勿論、彼自身の魅力も手伝っている。
だが、19歳の歳の差は上である自分にはキツいものがある。
40を目前に控えた自分に、果たして20を迎えたばかりの青年が似合うのか。


「親子……ですわね。ロイ様も、私の姿をよくご覧になって下さいませ」
「ミコトさんはとても美しい女性に見えますよ」
「……」


実際、ミコトは年齢の割には、若々しく美しい容姿をしている。
それは今でもたまに求婚が来るほど。
しかし、やはり20歳の青年からの求婚を易々と受けられない。


「ロイ様……本当に本気で私の事を?」
「“ロイ様”だなんて呼ばないで下さい、“ロイ“で結構ですから。勿論、心の底から本気ですよ」
「はあ……」


さて、どうするべきか非常に悩めるところだ。
先ほども言った通り、ロイに好意を持ってはいる。
しかし、この歳の差は厳しいものがあるだろう。
そうやってずっと迷っているミコトを見かねたのか、ロイがアピールをし始めた。


「僕は、小さい頃から貴女に憧れていました! とても綺麗で……優しくて。
 単なる憧れだったのに、いつの間にか愛しくなって。今となっては、誰よりも愛する人が貴女なんです」


目を逸らさず、真っ正面からミコトを見つめてロイは宣言する。
こんな恥ずかしい気持ちになったのは何年ぶりだろうかと、顔を朱に染めながらミコトは考えた。
ロイは至って真剣、ならば後は、自分の気持ち次第だという事。


「あの、もう1度お訊きしますけれど……本当にこんなオバサンで宜しいんですの?」
「ミコトさん、あまりご自分を卑下なさらないで下さい。貴女だから僕は愛したんです」


今は亡きエリウッドによく似た笑顔で、ロイはそう告げる。
すっかり立派な青年になった彼は、既に大人で。
どうにも忘れていた気持ちを思い出させた。


「今から恋愛だなんて、本当にいいのかしら」
「! では……」
「不束者ですが、宜しくお願いしますわね」


ニッコリ微笑むミコトに、ロイも笑顔になる。
まだ終わった訳ではない人生、こんなのも、悪くはないだろう……。



++++++



……あの、ミコトさん


何でしょう、ロイ様


ミコトさんは……父上の事を愛しておられたんですか?


えっ……!? ど、どうして……


ミコトさんとの婚約の事をマーカスに話したら、教えてくれました
昔、ミコトさんと父上が愛し合っていた事を


……そうですわね
25年以上昔になりますが……当時は、血が近いと、今より色々言われましたから


辛かったのではないですか?
父上が違う女性と結婚しているのを、傍で見て


お互い様でしたわ
でもロイ様、貴方はちゃんと、愛し合ったご両親から生まれましたわよ


いえ、僕が気にしているのは、それではなく……


……?


……僕が、父上の若い頃にソックリだと聞いて


……
あら、ふふっ…
ご心配なさらなくても、私はちゃんと、ロイ様ご自身に惹かれましたわ
エリウッド様に似ているから好きになった訳ではありません


あっ……よ、よかったです
安心しました
では、僕、まだ仕事が残っていますので


頑張って下さいね
……



……



エリウッド様、私、ようやく貴方への想いを断ち切れそうです
25年はとても、とても長かったですけれど
貴方が天に召されても、貴方への想いは消えるどころか更に深くなって……
でもロイ様のお陰で、貴方を想って泣いたりせずに済みそうですわ
いつか私が貴方の元へ召される日まで、ロイ様を愛し、彼の傍に居ります
そしてロイ様と共に、貴方が愛した……貴方と私が過ごしたフェレをお護りします

エリウッド様
どうか、安らかにお眠り下さいませね……





−END−

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