元限定小説
今日はさよなら



主人公設定:リンクの親友
その他設定:ゼルダの伝説風のタクト連載夢開始の2年前



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この海域では1番南にある長閑な漁村・プロロ島。
いつもと変わらぬいい天気だが、今日は決して多くない島民たちが桟橋に集まっていた。
彼らの視線の先には1隻の船と一組の家族。
今日、プロロ島から遥か北にある島、タウラ島へこの家族が引っ越して行くのである。
前々から決まっていた事とは言え寂しいものは寂しい。
だが一家の一人娘に寂しい想いをさせている理由は、他にもある。


「ミコト姉ちゃん……兄ちゃん、遅いね」


金髪を短いお下げにした可愛らしい少女・アリルの言葉に、
一家の一人娘であるミコトは寂しそうに頷いた。
アリルの兄で、ミコトの親友でもあるリンクが見送りに来てくれない。
今、彼の祖母がリンクを呼びに行っているが……。


「(なんで、見送りに来てくれないんだろ……)」


自分の方が2つも年上なのだが、とても仲が良く、親友だと思っていたのに。
そう思っていたのは自分だけだったのかと、更に寂しくなるミコトだった。



一方。

村人たちは皆、一家の引っ越しを見送りに行っているのに、
ただ1人、リンクだけが家に閉じこもっていた。
いつも元気のいい彼だが今は泣きはらした目でベッドにうずくまっている。

ミコトを見送るのが辛かった。
年上の彼女だが、自分にとっては大親友だと思っているのに……。
今日、彼女は遥か北にある遠い島へ引っ越してしまう。
顔を合わせると みっともなく泣いてしまいそうで、嫌だった。

そうしていると、祖母が家に入って来る。


「リンクや、ミコトちゃんを見送ってあげないと」
「やだよ……こんなカッコ悪いの見られたくない!」


まだ10歳の少年でも、男としてのプライドのような物を微かにだが持っている。
ミコトに格好の悪い所を見られたくない。
しかし祖母は、困ったような顔をしてリンクの肩を叩き、優しく言う。


「ばあちゃんは、大事なお友達が遠くへ行っちゃうのに……意地を張っている方がカッコ悪いと思うな」
「……」


次にいつ会えるのか全く分からない。
危険な海、遥か南北に離れてしまっては……。



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「ミコト、行こうか」


父に手を引かれ、リンクの家を見ていたミコトは悲しげに瞳を潤ませる。
こちらにも予定と言う物があり、これ以上は待っていられなかった。
昨日も散々していたのに、母はもう1度村人たちに挨拶をして頭を下げている。


「ミコト姉ちゃん、元気でね!お手紙書くからね!」


黙って船に乗り込んで行くミコトにアリルが叫び、彼女はニッコリと笑って応えた。
しかしその心は寂しさで満ち溢れている。
生まれた時から慣れ親しんだ島や島民たちと離れなければならない事、
そして、見送りに来てくれないリンクの事。
暫くは甲板で村人たちへ手を振っていたが、船が出航してしまい、辛くなって船室へ入ってしまう。
大きな船ではないが、休める程度の船室が付いた船だった。


「(リンク、結局来てくれなかった……。バカバカ、何でなのよっ……!)」


悲しくて悔しくて、ぽろぽろと涙を零すミコト。
もう、あんな奴の事なんて忘れようとした矢先。


「──……っ!」
「……!」


ミコトの耳に、待ち望んでいた声が届いた。
空耳かもしれないと疑いながらも、甲板に出て島を振り返ると……。


「ミコトーっ!!」


リンクの家、海の方へ突き出たバルコニーから、リンクがぼろぼろ泣きながら大きく手を振っていた。
もう恥も外見もかなぐり捨てて、ただミコトに届くよう必死な叫び。


「元気でな、絶対、絶っ対また会おうねーっ!!」


その叫びに胸を打たれ、こちらも零れる涙を拭おうともせず言葉を返す。
その叫びは海へ空へ響いて行き、しっかりとリンクに届いた。


「うんっ……! 約束だよ、絶対また会おうねっ!!」


それから、お互いが見えなくなってしまうまで手を振り続けた2人。
離れてしまうとは言え、二度と会えなくなる訳ではない。
今はただ、再会とお互いの平穏無事な生活を祈っていよう。
その優しい祈りは吹き抜ける風に乗って、遥か遠く、水平線の彼方まで届いて行った。





*END*

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