元限定小説
サンタの準備期間



主人公設定:−−−−−
その他設定:ここがどこなのかは きにするな!



++++++



身を切るような冷たい風と空気に包まれる12月、この月の24日深夜に、
街に住む人々へプレゼントを配る仕事をしているミコトは、
アパート形式の同じ建物に同居している友人達に、欲しい物を聞き回っていた。


「ロイ、クリスマスのプレゼントは何が欲しい?」
「新品のレイピア」
「エ、エリウッドは?」
「僕もロイと同じ物かな」
「……ヘクトルは?」
「新品のヴォルフバイル」
「エフラム、は」
「新品のレギンレイヴ」
「……アイク」
「新品のアロンダイト」
「…………」


住人用の共同スペース、メモを片手に硬直するミコト。
それは確かに、欲しい物を訊いたのだから何も間違った事は言ってないけれど。
そう、分かった……と力無い返事をして部屋に戻ったミコトは、
はあ、と溜め息を吐くとすぐに女友達の部屋へ直行。
リンの部屋、エイリークやミカヤも呼んで、小さな愚痴を聞いて貰う事に。


「確かにさ、確かに本人の欲しい物をあげるのが一番なんだけどさ、
 折角の聖夜に武器ってあいつら頭ん中どうなってんの?
 いや訊く前から薄々分かってた事ではあるんだけど、
 一縷の望みを懸けてたエリウッドまで武器をご所望とか私の希望を返せ」
「しょうがないわよ、あいつらだもん」


ミコトと同じソファーに座っているリンが苦笑しながら頭を撫でてくれ、
向かいのソファーに座っているエイリークとミカヤもリンと同じような顔。
何か違う物を用意してやろうかとも思ったが、何にしても彼らが何を欲しがるか皆目見当がつかない。
言われた以外の物をプレゼントするにしても、武器やそれに関連する物しか想像できないのは確かである。
エイリークが苦笑しながら、紅茶の入ったポットを手に取った。


「兄上には言われた通り、武器で大丈夫ですよ。
 他に兄上が欲しがる物、私にも想像できませんから。紅茶のお代わり如何ですか」
「ん、ちょうだい。……ありがとう。だとしても聖夜に武器って、聖夜に武器ってホントにもう……」
「武器以外で彼らに適当な物って言われたら、もう食べ物ぐらいしか思い付かないわね。
 夜中に枕元へ置くのは、さすがにどうかと思うのだけど……」


ミカヤも苦笑を隠さず、心情的な意味で厄介な仕事をする事になったミコトへ、
励ましを込めた小さなアドバイスをしてみた。
ちなみに配るプレゼントは、この世界のマスター? 的な謎の人が、
大抵の物なら用意してくれるので準備に苦労する事は無い。
武器程度だったら何事も無く準備が可能だ。


「神器とかだったら難しいかもしれないけど、たかだか専用武器なら大丈夫だもんね。
 それを見越してたんだろうかあいつら……」
「封印の剣とかデュランダルとか言われるよりは確かにマシね。
 ……そこを行くなら私、新品のマーニ・カティとか欲しいかも」
「ちょ、ちょっとリンまでなに言ってんのよ!」
「冗談よ冗談! ……半分」


ぽつりと付け足された言葉はミコトには届かなかったようで、ミコトは特に何も反応しなかった。
当然、リン達女子からは武器関連ではないプレゼントを聞いて申請し、マスターに承諾を得ているのだが。
あの男子達にムードのある品物を期待なんて、する方が間違っている。
それはミコトも理解しているのだけれど。


「ところで……みんなはやっぱりクリスマス、彼氏と過ごすんだよね」
「え?」
「リンはケントでしょ、エイリークはゼト将軍でしょ、ミカヤはサザと」
「ちょ、ちょっと!」


いきなりミコトが的確な名前を出すものだから、
3人ともソファーから立ち上がりそうな勢いで身を乗り出してしまった。
気付いてないとでも思ったのー、なんてニコニコするミコトに、リン達は顔をほんのり染めてしまう。


「もう少し黙ってるつもりだったのに!」
「いつ気付いたんですか、ミコト……」
「サザは自分から言い触らさないだろうし……」
「いいじゃんいいじゃん、羨ましいじゃん!
 強いて一つだけ不満を挙げるとするなら、私があいつらと一緒にアパート居残りって事カナー」


プレゼントはこっそり部屋に置いておくとして、アパートに女子一人きりだ。
管理人的立場の上に代役も居ないので仕方ないかもしれないが、つまらない。
いっそ住人がみんな出掛けてくれれば気も楽なのだが、そうはいかないようだ。
何せ男子達は、誰も彼女が居ないのだから……。


「彼女居なくても友達同士で出掛けりゃいいのに。そしたらプレゼント配り開始時間まで気楽なのになー」
「寂しくありませんか?」
「あー……。寂しいっちゃ寂しいけど、あの男子達にそれを埋めて貰おうとは思ってないからね」
「本当かしら」


ミカヤがクスリと笑ったのを見て、ミコトは思わず目を逸らした。
何となくだが、彼女には心を読まれているような気がしてならない。
あーあ、と伸びをして、つまらない風を装う。
リン達はきっと24日から居ないだろう、一緒に過ごせないのは残念だが、
誕生日は一緒に過ごしたのでクリスマスくらいは彼氏に譲ってあげようと、何様の上から目線で考えたり。

結局ミコトは彼氏が居たってクリスマスの仕事でイブには会えないし、
夜通しのプレゼント配りで当日はクタクタだ。
何にしても一人で過ごさねばならない事に変わりは無い。
元旦やゴールデンウィーク、何かの記念日や連休などに働く人達の事は、自分への労りも込めて尊敬する。


「ま、次の日の皆の笑顔を考えたら、悪い仕事でもないしね。頑張るよ」


幸いこの町では、クリスマスにプレゼントをくれるのは、
サンタクロースではなくミコトだと、大人から子供まで知れ渡っている。
会う人会う人にお礼を言って貰えるのは気分も良く、
それなりに給料も良いので割り切ろう、と考えるしかないミコトだった。



そして、それから数日。
クリスマスイブになり、女友達は皆、昼過ぎに彼氏のもとへ出掛けて行った。
ミコトは彼女達を見送り、夜まで休んでいようと部屋へ戻って行く。



- ナノ -