短編夢小説
Sky Gazer



主人公設定:強気少女
その他設定:−−−−−



++++++



時折、この子の瞳の中には宇宙でも広がっているのではないかと考える。

スマブラファイター達が暮らすピーチ城、美しく手入れが為された美麗な庭園。
中央にある噴水の側、ベンチに座り無表情でボーっと空を見ているカービィをミコトは見付けた。


「何やってんの」


声を掛けると見上げていた時の無表情を一切変えないままミコトの方を向く。
いつもコロコロ表情の変わる多彩な彼とは違う、彫刻が動いた、と思ってしまいそうな動作。
しかしすぐにパッと顔を明るくさせると、ぽよんと跳ねてミコトの頭に乗り上げた。


「ちょ、うわっ」
「なになにー? どしたのミコトー」
「いや私の方が何してたのかって訊いたんだけど」
「そうだっけ? 特になんにもしてないよー」


何もせずボケっと空を眺めていたらしい。
カービィを頭に乗せたままベンチに座ると、彼は頭から降りた。
そして再び座って空を眺め始める。
その表情はまた、普段の多彩な彼とは程遠い彫刻のような無表情。

隣から見下ろしその瞳を覗き込む。
黒い瞳は体の割合から考えると大きくて、少し不安になる。
彼は口で何でも吸い込んでしまうが、こうして大人しくしていると寧ろ瞳の方に吸い込まれそうだ。

その瞳に吸い込まれてしまった先には何が広がっているのだろう。
悠久の闇……だけれど瞳は暗いばかりでなく光をも湛えているように見える。
もしかして宇宙なのではないか。
馬鹿馬鹿しいかもしれないが、そう思った。


「カービィは空を見るのが好きなんだ」
「好きだよ。空を見上げてボーっとするのが好き。青空も朝焼けも夕暮れも、星空も好き」
「曇りや雨は?」
「好きだよ」
「雪も? 雷も嵐も?」
「好き」


この子に嫌いなものを訊いたら毛虫ぐらいしか出て来ないのではないかと思う。
住居の星どころか宇宙の危機すら何度も救ったヒーローの素顔は、実にまったりマイペース。
食い意地は張っているけれど。


「そう言えばカービィって、ワープスターとか使えば生身で宇宙に出られるんだよね」
「うん」
「星を見るの好きなんでしょ? なら宇宙へ星見に出掛けちゃえばいいんじゃない?」
「んー……なんか、そういうのは違う」
「違う?」
「なんか、違う」


ミコトは宇宙に行った事がないので、何が違うのか分からない。
“なんか”という微妙な表現を用いるという事は微妙な違いが気になっているのだろうが、皆目見当もつかず。
そこで一旦会話を切り、ミコトも何気なく空を見上げてみた。
所々に雲が浮かぶ以外は真っ青な空。
夜に爛々と輝く星達も、今は眠りに就いているのかもしれない。

星のカービィ……。
そう呼ばれ星の名を冠する彼は、星に対して何か一家言でも持っているのだろうか。
それとも本能で感じ取れる、他者には分からない物を知っているのだろうか。
それとも何も考えていないのだろうか。


「“星の”カービィ、ねえ」
「なあに?」
「いや、素敵な冠詞だなあと思って」
「ありがとー」


空を見上げたままだけれど、ニコッと笑顔。
星の瞬きの中を飛ぶ彼はきっと星のようだろう。
その中に混じり切って溶けてしまわないか、戻って来なくなってしまわないか、ふと心配になる。
心配と言うより夢想に近いのだが。


「カービィは星の世界に行っても戻って来るよね」
「うん」
「なんか帰って来ないんじゃないかと少し心配になってしまった」
「なんで?」
「何でだろうね? ……人は死ぬと星になるって言い伝えがあるから、それを思い出したのかも」
「そうなんだ、初めて聞いた」
「言い伝えだからね。絶対に届かないけど、また会いたい、いつも見守っていて欲しい、って願望から出来たのかも」
「なるほどー」


視線は相変わらず空から外さない。
しかし返事に気の無い様子は無く、話はしっかり聞いてくれているようだ。
それきり言葉が途切れてしまう。
嫌な沈黙ではなく、暖かな日差しとそよぐ風で気持ちの良い昼下がり。
ふとカービィが、相変わらず青空を眺めたままぽつりと口を開いた。


「地面の下にいるよりは、いいのかも」
「ん?」
「さっきの。人が死んだら星になるってお話」


ずっと暗くて冷たい土の下に居るよりは、空の上に居た方がいい。
地上を見守ったり、輝いて人々を癒したり。
見上げる方にとっては勿論、見下ろす方にとっても悪い話ではないと思うと。


「ぼくが旅してきた星の中にも、誰かの星があったのかなあ」
「あったんじゃない? ひょっとしたら」
「だとしたらすてきだね」


また会える。いつでも見守っていられる。
命を終えた後もそれが出来るのなら素晴らしい事だろう。
寂しくはあるけれど、救われる。


「……あ、そうだ。私、チーム戦やるから相棒呼びに来たんだった」
「相棒って、ぼく?」


ずっと空を眺めていたカービィがミコトの方を向く。
その顔は空を見上げていた時と同じ無表情だったけれど。


「違うっけ?」
「ううん、違わない」


そう言って、はにかむような笑顔を浮かべた。


「んじゃあ行こうか、もうみんな乱闘始めちゃってるよ!」
「出遅れたー!」
「出遅れた分、ばんばん連勝して追い付くよ! 私とカービィなら問題なし!」
「うん! いっぱい勝とうねミコト!」


先程までの無表情とボーっとした様子はどこへやら、明るい笑顔と笑い声、うきうきした動作を見せるカービィ。
賑やかしい二人が去った後、庭園は静けさに包まれた。


++++++


「カービィ」
「……うーん?」
「起きろカービィ」


聞き慣れた声と同時に体を優しく揺すられ、カービィは目を覚ます。
そこにはメタナイトの姿。
ここは空がよく見える丘で、辺りはそろそろ朝日が昇ろうかという明るさ。
星は少しずつ、昇り来る太陽の光に掻き消され、眠りに就こうとしていた。


「こんな所で寝ていたのか、風邪を引くぞ」
「あれ、寝ちゃってたんだ。うっかりしてたよ」
「良い夢を見ていたようだな、楽しそうな顔をしていた」
「うん。昔の夢見てた」
「昔の?」
「スマブラファイターだった頃の」


カービィが言うと、メタナイトは一呼吸置いて空を見上げる。
異世界の者達と交流し、戦い、遊び、切磋琢磨し合った夢のような時間。
懐かしい。


「……ところで、この丘で何をしていたんだ? 昨日は家に帰ったかと思っていたが」
「星が、すっごくきれいに見えてたでしょ」
「ああ、昨晩はいつにも増して見事なものだった」
「だからミコトを探そうかと思って」


メタナイトは視線を下ろしてカービィを見た。
彼も明け始めた空を見上げていて、その表情は昔から空を眺める時に見せていた、普段の彼との相違が激しい無表情。

誰とでも仲良くなるカービィだったが、殊の外ミコトと親密だった。
しょっちゅう一緒に居て自他共に認める相棒だったなと、メタナイトは感慨にふける。


「……もう星、見えなくなっちゃうね」
「……そうだな」


メタナイトが再び視線を空にやって少し経つと、水平線の向こうから太陽が顔を出す。
最後に輝いていた星々も、全てが眠りに就いた。


「ひとまず帰ったらどうだカービィ」
「そうしよっかな。じゃあまたねメタナイト!」
「ああ、また」


そこで別れた二人は、別々の方向に歩き出す。
少し歩いてから一度立ち止まったカービィは、空を見上げて。


「おやすみ、ミコト」


懐かしい相棒が居るであろう空を見上げ、微笑んだ。





−END−



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