短編夢小説
HERO&HERO



主人公設定:−−−−−
その他設定:オリジナルのゼル伝



++++++



神なる力を受け継ぐハイラル、その国を治める王が住まう城に、もはや日常となった怒号が響き渡った。
魔王が封じられて一年、先の教訓を活かし以前にも増して強固に修復された美麗かつ堅牢な石壁も、どことなく畏縮しているよう。
城に仕える者達や主である女王は、すっかり聞き慣れた声に苦笑を見せた。
平和になってからこっち、いつもの事、である。


「いい加減にしろ、なぜもっと真面目に過ごさない!」
「料理長ー、今日の夕飯なにー?」
「聞け貴様ァァァ!!」


先程から爆音に近い怒号を上げているのはミコト。
魔物との戦いによって壊滅したハイラル騎士団を、将軍だった父の遺志を受け継ぎ再建した立役者。
女だてらに相当な実力者で、慕われていた前将軍の忘れ形見でもある彼女の選任には誰も異を唱えなかった。
実際に就任してからも、信頼と尊敬を集めて上手く騎士団を纏め上げている。

そんな彼女の頭痛の種、魔王を封じた勇者リンク。
彼の働きによって国が、世界が救われたのは確かだが、それが終わり城に雇われてからというもの、すっかり気の抜けた様子だ。
仕事はこなす。鍛練も欠かさない。ただ態度だけが不真面目。
ミコトが溜め息を吐きながら城内へ入ると、この国の主と鉢合わせた。


「ミコト将軍、お疲れ様です」
「これはゼルダ姫……失礼致しました、女王陛下。もしや聞こえて……?」
「城中に響いていましたよ、あなたの怒号が」
「き、聞き苦しいものをお聞かせしてしまい、申し訳ありません」
「大丈夫、あなたの怒号は国のため。分かっているつもりですから」
「恐れ入ります……」


クスクス笑いながら話す女王ゼルダに、ミコトは顔から火が出そうだった。
王の娘と騎士団長の娘、二人は幼馴染みであり、口調はともかく心は打ち解けて話せる数少ない間柄。
遊び相手として、時に相談相手として、ミコトはゼルダに仕え続けていた。
そして今もこうして、身辺を守る騎士として仕えているのである。

そんなミコトだからこそゼルダに重大なものを託され、リンクと出会った。
城がガノンドロフの手に落ちたあの日、ゼルダは篤い信頼を寄せていたミコトに王家の秘宝を託し、勇者の許へ逃がした。
まさか臣下の娘に託すとは思っていなかったガノンドロフの目をまんまと欺き、秘宝は勇者の手へ。

それから、ミコトは勇者リンクと共に戦った。
協力し、時に別行動をし、世間は勇者リンクだけを讃えるが、実際はミコトも英雄と言って差し支え無い。


「あなたが秘宝を届けられなかったら、この国は終わっていました。なのに誰もあなたを勇者扱いしない。ミコト、本当にこのままで宜しいのですか? 何でしたら私が、民にあなたの事を伝えましょうか」
「お気持ちは嬉しいのですが、こうなったのは必然なのでしょう。私は讃えられる為に戦ったのではありません。国を、あなたを守りたくて戦ったのです」
「それは……」
「分かっています。讃えられる為に戦ったのではないのは、リンクも同じだと。まったく普段からちゃんとすれば、心構えも見てくれも良い男なのに勿体ない」
「あら、うふふ……」
「! あ、いえ、良い男だというのは世間的な評価です。奴は町へ出れば並み居る娘達に黄色い声で言い寄られ、へらへらと嬉しそうにしおって腹が立つ!」
「まあ、うふふ……」


喋る度に墓穴を掘るミコトに微笑むゼルダ。
普段は勇猛かつ冷静沈着な女将軍も、リンクの事になると年相応の娘となる。


「女王陛下、リンクの支援役、誰か他の者に替えた方が宜しいのでは? お互いに馴れ過ぎて、リンクの奴、私の言う事など聞きやしないのです」
「長く一緒に居たミコトが駄目なら、他の誰が傍に付いても駄目でしょう。私でさえ、リンクとはあまり話した事が無いのですよ」
「あ、諦めろと……」
「確かに時々だらしないですが、仕事も鍛練もきちんとこなしています。そう目くじらを立てなくても」
「いいえ! ゼルダ様にお仕えする上に勇者の肩書きを背負うのならば、相応の言動をして貰わねば!」


では失礼します、と頭を下げたミコトは、リンクの奴ゼルダ様に気を使わせるとはけしからん!
な理不尽気味の勢いで、再びリンクの許へ。
訓練所に居なかったので兵士達の詰所も探したものの見付からず、ついには部下に断り城の敷地から出た。
城門からさして歩かない位置、河原の草花に溢れた土手にリンクが寝ている。
また、こんな所で……!
勇者ともあろう者が何を考えている、と叱責の為にリンクを起こそうと近寄ったら、向こうから起きた。


「ああ、ミコトか。なに、もう夕飯の時間?」
「違うわたわけ! 貴様はゼルダ様にまで気を使わせおって、今日と言う今日は許さんぞ、考えを改めるまで説教してくれる!」
「えー」
「えー、じゃない!」


リンクは戦いが終わってからのいつもの調子、やる気の無いだらけた態度だ。
そんな彼にお構い無く、もっと真面目な態度を見せろ、勇者の自覚を持てと、くどくどお説教するミコト。
しかしどう見てもリンクは話半分にしか聞いておらず、いい加減ミコトの怒りが沸点に達しようかとしたその瞬間、リンクが箱を差し出した。


「はい、これ」
「ん? なんだ」
「城下町に有名なスイーツショップあるだろ、チャット&トレイルだっけ。そこの新作ケーキ。知人に頼んで買って来て貰ったのを受け取りに来てたんだ、ミコトにやるよ」
「……え?」


何でもない顔で差し出される可愛らしい柄の箱に、目を瞬かせるミコト。
まさかリンクが私の為に……とほだされかけたが、まさかケーキの1つや2つで見逃す訳にはいかない。

ゼルダに気を使わせただのの説教だけは理不尽だが、いつまでもだらしない態度のリンクが心配だった。
勇者だと持て囃される彼がだらしなくしていると、笑う者が実際に出て来る。
それをミコトが叱責するのだが、それで更に笑われてしまう訳だ。
せめてリンクが自主的にしゃんとしてくれれば、ミコト絡みでリンクが笑われる事も無くなるのに。


「ま、まあ礼は言っておく、ありがとう。しかしこれで誤魔化されはせんぞ。どうして真面目にしていないんだ、笑われるのはお前自身だというのに」
「心配してくれてるんだ」
「なっ! ち、ちが……」
「違うのか?」


違わない。リンクが心配で堪らない。
ガノンドロフを倒す為、リンクとハイラル中を駆け巡っていた頃、彼はとても勇敢で頼もしかった。
ミコトはそんな彼の足手纏いにならないよう必死で訓練し、努力と父から受け継いだ元々の才も合わさって相当な実力を付けた。
自分がこの地位でハイラルやゼルダを守る為に戦えるのは、父の遺志を継げたのは、リンクのお陰なのに。

ハイラルの民達はリンクのそんな功績も、戦い自体も知らず、ただ勇者だから讃えているだけ。
だから、リンクが少しだらしなければ平気で笑う者も少なくない。
そんな者達を黙らせたい、リンクの功績をきちんと理解させたいのに。


「リンク、1つ訊きたい事があるんだが」
「説教は勘弁な」
「茶化すな。お前、ひょっとして勇者扱いされて讃えられるのが嫌なのか?」
「別に。それなりに気分いいし、可愛い女の子達が寄って来てくれるし」
「……はぁ?」


ミコトの形相が鬼のようだったのか、リンクは表情は変えないまま少し目を逸らし、冗談だよと呟く。
勇者扱いされるのは問題ないらしい、では何故、勇者の名に傷が付くような振舞いばかりをするのか。
勇者で居る事に疲れてしまったというなら分かるが、ハイラルが平和になってからずっとこんな調子なのに。


「ミコト、俺がだらしなかったら叱るだろ」
「当然だ! それが嫌なら、せめて人前でぐらいしゃんとすればいい」
「ミコトの協力があったからこそ、俺は戦えた。そもそもお前が秘宝を持って逃げなかったら、とっくにハイラルは終わってる」
「……それがどうした、不真面目なお前の態度と何の関係がある」
「悔しくてさあ。俺ばっかり勇者だ英雄だって讃えられて、誰もミコトの功績を知らないじゃないか」


あまりに予想外の言葉に、ミコトが固まった。
一体その感情がどうやってリンクの不真面目な態度に繋がるのか頭を捻らねばならず、言葉が出て来ない。
リンクはミコトの功績が人々の間に伝わっていない事を悔しがっている。
だから不真面目な態度を取る……ミコトに叱られるのが目的で。
つまり、それは……。


「……いや、全く意味が分からんぞリンク。一体どういう経緯を辿れば、私の事とお前の態度が繋がるんだ」
「民達は俺をよく知らず、勇者というだけで讃える→しかし勇者は不真面目かつだらしがなかった→そこを叱責しつつ献身的に支えるミコト→勇者リンクはミコト将軍が居ないと駄目なんだな→そう言えばミコト将軍は勇者リンクと共にハイラルを救う旅をしていたらしい→きっとミコト将軍は旅の間も陰日向となり勇者リンクを支えていたに違いない→ミコト将軍スゲー! の流れが起きると思って」



…………。



「ま、回りくどい! 驚きの回りくどさだぞリンク、男ならビシッと自分の口で民達に伝えんか!」


そんな予想外な事をリンクは、なに食わぬ顔で平然とやっていた訳だ。
余りの事にミコトが脱力し、へなへなとその場に座り込んでしまう。
自分の為を思ってくれたのは有り難いし嬉しいが、一言言って欲しいものだ。
今までの叱責が全て、無駄どころかリンクの計画通りに行われていた事だなんて……情けなさ過ぎる。

理由を知ったからには叱責をやめたいが、急にやめれば変に思われてしまう。
女王陛下や部下に何と言えばいいのか、ミコトは今までと違う理由で頭が痛い。
そもそも、こんな回りくどい作戦で民が気付くかどうか疑わしかった。
ただ、だらしない勇者と口煩い将軍としか思われていないのではないだろうか。


「リンク、お前が私を思ってくれていたのは有り難い。しかし全く期待せずに確認するが、効果の程は?」
「覿面」
「うそだー」


力無く言い、更に脱力してしまうミコト。
リンクは相変わらず真顔に近いだらけた表情で淡々と、嘘だと思うなら確かめに行こうと誘って来る。
ここまで来たのであれば確認せねばなるまいと了承し、ミコトはリンクについて城下町へと向かう。

……そして、町では。


「あ、勇者リンクとミコト将軍。こんにちは、ご夫婦で仲良くお散歩ですか」
「ご結婚されていたのなら仰って下さいよ、なぜ式を挙げないんです?」
「きっとハイラルが復興で大変だから、取り敢えず籍だけ入れて式は後で挙げるつもりなんですよね!」
「さぞ華やかな式になるでしょうねー。今から楽しみなんですから、これからも仲良くして下さいよ」



「……リンク」
「ん?」
「覿面すぎだろ」
「いぇーい」


相変わらずの真顔に近い気の抜けた顔、ピースサインを出しながら棒読みで言うリンクをミコトは叩いた。
何なんだこれは、と、見かけは平静を装いながら混乱しそうな頭で考える。
どうやら噂話に尾ひれが付き、そのまま広がりつつ背びれや胸びれまで付いた結果がコレらしい。
二人は生死と国の命運を懸けた戦いを通じて親密になり、心を通わせ、ついには愛し合ったという事か。

ミコトは大体いつも城に居る上、リンクを連れ戻しに城下へ出ても叱責に集中するため、民の反応を全く良く見ていなかった。
リンクの話では半年くらい前からこの調子らしく、ますます頭が痛くなる。
ゼルダをはじめ城の者達まで知っており、だからあんなに微笑ましそうだったと。
町の者達は久々にゆっくりしているミコトを見て、楽しげに話し掛けて来る。


「ミコト将軍、勇者リンクにどんな言葉でプロポーズされたんですか?“この戦いが終わったら結婚しよう”ですか?」
「それは死亡フラグだ馬鹿者」
「魔王との戦いでは、ここは私に任せて先に行け! と勇者リンクを進ませたんですよね、愛だわー」
「それも死亡フラグだ馬鹿者」
「既にミコト将軍のお腹には二人の愛の結晶が!」
「それはセクハラだ馬鹿者」
「折角ですから、今まで勇者リンクに触らせた所を見せて下さい、隅々まで、余す所なくじっくりと!」
「お巡りさんこいつです」


収拾がつかなくなって来た。
痛む頭を押さえていたミコトは、人垣に隙が出来たのを確認し、リンクの手をとって逃げ出す。
背後から歓声が聞こえたが、この際無視だ。
城の敷地内、人気の無い場所まで来たミコトは、心底疲れた様子でリンクに真意を確認してみる事に。
あんな夫婦扱いをされ、平気な顔をしているなんて……期待が首をもたげる。


「リンク、あれどうするつもりだ! 完全に結婚した方向で包囲されてるぞ!?」
「なかなか結婚してくれない恋人には、周囲を味方に付けて固めて外堀を埋めるのが良いらしい」
「わ、私はお前の恋人になった覚えなど……!」
「じゃあ今からで良いんで。ミコトの事が好きです、俺と付き合って下さい」


まるでついでのような、淡々とした味気ない告白。
不真面目だけれど、冗談も言うけれど、こんな時まで冗談を言う人じゃない。
リンクを良く知っているから、それは分かる。

……しかし。
リンクの告白が嬉しい筈のミコトは、今、ある事を突っ込みたくて仕方ない。
返事はそれからだ。


「リンク」
「OK?」
「……ああ、まあ、それは置いといて」
「え、俺の告白無視?」
「無視する訳じゃない、一つ言いたい事がある。お前、私も国を救った勇者だと民達に知らしめたかったんだよな?」
「ああ」


良かった、確認できた。
これで心置き無く突っ込める、そう思ったミコトは思い切り息を吸い込み、爆音のような大声で。


「肝心の目的が微塵も達成できてないじゃないか、この大馬鹿ぁぁぁっ!!」


響き渡る怒号に、また始まったとハイラル城の人々が微笑ましく顔を見合わせる。
勇者・英雄らしくない二人だけれど、どちらも間違いなくハイラルの救世主。
命を懸けた二人の日々は絆となり、誰にも断ち切れない強さになっている筈。
遠回りしても、言い合いをしても、きっと繋がったままなのは間違いない。
二人の勇者に、幸あれ!





*END*


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

リンクと一緒にハイラルを救いたい、管理人です。
キャラが定まっていないのを良い事にリンクの性格を好き勝手するんですが、
今回は見た目がボーッとしているような、喋り方も淡々とした感じの不思議系キャラになりました。
うちのダークリンクにやや近いです。うちのダークはもっと無表情で滅多に喋らなくて、
戦いと生きるのに最低限必要な行為以外は何も出来ない・知らない赤ん坊のような子なんですけどね。

今回のリンクは、別に不真面目を気取らなくても普段からあんな感じです。
旅をしていた時は勇敢で頼もしかったと主人公が感想を述べていましたが、
実は戦っている時だけだったりします。

主人公がやや勇ましすぎますが、
しっかり責任感を持った生真面目騎士なのでこれぐらいで良いかなと。
二人は間違いなく進展しますが、真面目な主人公は気苦労するだろうな……。


この話は、50万のキリ番リクエストをして下さったモナカ様へのプレゼントです!
モナカ様のみ、お持ち帰り可です♪


ここまでお読み下さって、有難うございます!



戻る
- ナノ -